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目が覚めたらすっかり日が高くなっていた。
ちょうどその時、エレンが「お目覚めですか?」とお茶を持ってきてくれた。
「奥様が12時にお出かけしましょうとおっしゃっています。マクファーレンの奥様もご一緒だそうです。」
「あら、それじゃ急いで支度をしなきゃいけませんね。」
「大丈夫ですよ。おまかせください。」
12時少し前にマクファーレン一家が訪れ、リサとフィルミナと3人で街に出かけることになった。
まず昼食。予約したのは可愛らしいカフェで、平日でも女性たちで混雑していた。
幸い個室を予約してあったので、気兼ねなく食事を楽しむことができた。
食事はとても美味しくて、デザートがまたとても美味しかった。
しかし、女が3人でお食事、となれば、食事よりもおしゃべりのほうが盛り上がるものだ。
特に今回はリサとマリアンヌはフィルミナを元気づけようと、明るい話題を選んで楽しく過ごした。
「おばさま、おかあさま、楽しい時間にしてくださってありがとうございます。」フィルミナがそう言うと、マリアンヌは、
「フィルミナちゃん、ずっと忙しかったもの、なかなかこんなことできなくてつまらなかったわ。これからはもっと付き合ってね。いっぱい美味しいもの食べて、いっぱいお買い物しましょ。」と言った。
「フィルミナ、欲しいものがあったら今がお父様におねだりするチャンスよ。お父様ね、いままでフィルミナとゆっくりする時間がなかったから、これからはいろいろ楽しいことをしようっておっしゃってたもの。」
と、いたずらっぽく言った。
「さあ、それじゃおねだりするものを見に行きましょう。」
一方、ケラニー家ではジェームス、ジョン、そしてアランの3人に加えて執事のデレクが控えてこれからの話しをしていた。
ケラニー家は領地内の鉱山の権利を買っており、工場も作り、焼き物を製造販売している。すでに輸出も始めているが、爵位を返上した後はさらに拡大していこうという予定だ。また、農地も買っており、羊毛をとり、毛織物工場と毛糸を作ってそれを使った衣料品の工場も持っており、それも輸出を増やしていく予定だ。
マクファーレン家は、領地内で魔道具の開発と工場、ハーブ栽培から薬品工場を事業としており、また、領地内に港があることから、船舶輸送業もはじめている。アランが遠国で港や土地を買っており、支店を設立した。現在はマクファーレン家の領地にいた`執事や使用人たちを現地の支店や工場に送り、アランが行き来をして総括している。ケラニー家の製品の輸送や販売も請け負っている。
「アラン君、わずか数年でよく頑張ったな。父親よりも出来が良いのではないか?」ジェームスはそう言って笑った。
ジョンが
「何を言うか。まだまだだ。儂の指導があってこそだろうに。まあでも、親が言うのはなんだが、よく頑張っているとは思う。もうじきチャーリーも卒業して、加わると動きやすくなるのが楽しみだ。」と言った。
「ところでアラン、去年の統計を持っておるか?」
「あ、申し訳ない、至急取ってまいります。」アランはそう言って自宅に戻っていった。
「そうなると、アラン君はラセールに常駐することになるのか?」
「さて、どうするかな。アランは今までこそラセールにいたかっただろうが、これからはむしろこちらにいたいのではないかな。」ジョンがそう言ってにやりと笑った。
ジェームスが
「それは、もしかすると、そういうことか?」
と言い、ジョンはそれに対して
「ま、そういうことだな。」と、またにやにやしながら言った。
「そうか・・・まあ、なんだな、うちとしてはあんなクソ王子などよりアラン君のほうがよっぽど見どころがあるので、儂としては嬉しいのだがな。実はけさ、リサがフィルミナが一生懸命努力してもどうしてもクソ王子を好きになれなくて、と自分を責めていたと言ってな。そしてそれまで何も言わずにいたのにきのうアラン君にクソ王子にされたことを打ち明けたそうで、もしかしたらクソ王子を好きになれなかったのがアラン君のことが好きだからではないかと言うのだ。儂はもしそうなら理想的なのだが、まだ破談にもなっていないうちからそのようなことを訊いてはフィルミナも困惑するだろうと思ってなあ。しかし、親としては心配なのだよ。」
「たしかになあ、お前にとってはフィルミナちゃんは目に入れても痛くない愛娘だから、いろいろ心配はつきないだろうな。うちはその点むさくるしい息子どもなので、心配も少なくはあるが。実はアランが卒業する時に、ぜひ自分を遠国に派遣してくれと言ってきたのだ。儂も男だから、男心はわかる。日に日にきれいになっていくフィルミナちゃんはクソ王子の婚約者で自分は手が出せないとしたら、もし俺なら会わないようにするかと思って、ラセールに支店を出すのに行かせることを決めたのだ。思ったとおり、それからきのうまで全く帰って来なかった。縁談はすべて話を聞く前に断るし、さぞかし葛藤があり辛かったのだろうと、かわいそうでもあった。儂の方も、もしフィルミナちゃんがアランのところに来てくれればこんなに嬉しいことはないのだが、まあ、これから2人がどうするのか、しばらく見守っていこうではないか。」
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