6
お立ち寄りいただきありがとうございます。
フィルミナは眠れぬまま朝を迎えた。
兄が起きたようなので、兄の部屋に行く。
「おはようございます。おにいさま、ちょっといいでしょうか?」
「おはよう。なんだ、寝てないのか?」
「あの、おにいさま、お願いがあるんです。おにいさまと、それからチャーリー様にも。」
「なんだ?なんでもするぞ。」
「・・・おにいさま、パトリック様は悪くないんです。」
「何を言ってるんだ、さんざんひどいことを言われて、暴力まで振るわれたのに。」
「でも、私が悪いんです。」
「どういうことだ?」
「ゆうべ、ずっと考えてたんです。私、婚約したときから、将来パトリック様と結婚するんだと思って、一生懸命パトリック様を好きになろうとして、一生懸命他の人を見ないようにしてきたんです。でも・・・どうしても好きになれなくて、だからきっとそれがパトリック様に伝わって、パトリック様は寂しくて満たされないままずっと過ごされてたのかと、それでこういことになってしまったのだろうと思って、だから、私のせいなんです。」
「フィルミナ、お前って子は。」
エイデンはそう言うとフィルミナを抱きしめた。
「自分を責めるな。フィルミナは悪くない。俺はその考えは間違ってると思う。」
「でも・・・」
「いいか、お前は疲れている。だから考えがネガティブになっている。休め。そして気晴らしをしろ。」
フィルミナはただこくりを頷くだけだった。
「・・・お兄様・・・ありがとう。大好きよ。」
「まかせとけ。お前は大事な妹だ。」
エイデンはフィルミナを部屋まで送っていき、小さい子供にするようにベッドに寝かしつけて、頭をぽんぽんと叩き
「じゃ、行ってくるからな。」と言って出ていった。
フィルミナはなんだかとても安心して、まもなく眠りについた。
「母上」
出かける前にエイデンはリサに話しに行った。
「あ、父上も、おはようございます。」
「父上も、とはご挨拶だな。」とジェームスは笑いながら言った。
エイデンはそれはスルーして、
「実はさきほどフィルミナが僕の部屋に来まして。」
「あら、泣いてたのかしら?」
「いえ、泣いてはいませんでしたが、昨夜は一睡もしなかったようです。」
「まあ、かわいそうに。」
「それで、クソ王子に何もしないでくれと言うんです。悪いのはクソ王子じゃなくて自分だと。一生懸命好きになろうとしたのにどうしてもなれなくて、それがクソ王子に伝わって、寂しい思いをさせたのだろうと。」
ジェームスが声を荒らげ、
「何を言うか。惚れさせられなかったのがいけないのだ。フィルミナはなにも悪くない。」
リサは、
「私、ちょっとフィルミナと話してきますわ。」と言った。
「あ、母上、フィルミナは僕が寝かしつけてきましたから、今頃は寝ているかもしれません。」
「そう、ありがとう。あなたはいいお兄様ね。」
「おい、エイデン、きょうはいろいろ調べてくれ。そして、まだ殴るな。」
「はい、気をつけますが・・・」
「まだだ。殴るな。」
「はい・・・では、失礼します。」
「いってらっしゃい。」
出かけるエイデンの背中に、ジェームスは「殴るなよ」と呟いた。
ジェームスは執事のデレクを呼び、マクファーレン家に昼食を一緒に取りながら、仕事の話をしたいが、12時に拙宅でいかがかと都合を訊くように言った。リサが、
「マリアンヌ様に街でフィルミナとお昼をご一緒できないかも訊いてくださる?」と付け加えた。
リサが侍女のエレンにフィルミナは寝ているか訊くと、おやすみになっていますということだった。
リサがジェームスに言った。
「あなた、フィルミナのことで、少し気になることがありますの。」
「ん?」
「王子を好きになろうと一生懸命努力したけれど、どうしても好きになれなかった、ということですけど、実は昨日もあの子、そう言ってたんです。」
「そりゃあそうだろう、女に暴力を振るうような糞など、好きになれようはずもない。」
「それはまあ、そうなんですけどね、私、ふと思ったんですけど、あの子、いままで3ヶ月ずっと我慢してきて、なぜきのう打ち明けたのかと。もしかしたら、アランだから話したのではないかと思いましたの。あの子、生まれてからずっとアランとエイデンに懐いてましたでしょ?エイデンは兄だから当たり前ですけど、もしかして、あの子アランが好きで、それでどうしても王子を好きになれなかったのかしらと思って。ねえあなた、アランはどうして長らく遠方に行ってたのですか?行ったきりほとんど帰っても来なかったし。」
「そのうち訊いてみるが、今すぐに訊くこともないだろう。」
「あなた、そんなことおっしゃって、フィルミナをどこにもやりたくないだけじゃありませんの?」
「そりゃそうだ。しばらくは家に置いて、親子水入らずで暮らそうではないか。」
「あなたっ、子離れなさいませ。」
「だが・・・フィルミナが可愛いじゃあないか。」
リサははあっとため息をついた。まったくこれだから父親は。でもまあ、それだけ娘を愛してるということだから、かわいいもんだわねとも思った。
デレクが戻り、
「マクファーレン様から諾とお返事をいただきました。奥様からも、喜んで、ということでしたが、時間をおしえていただきたいとのことでした。」
「それもそうね。では、12時にこちらを出ましょうということで、お手数だけれどもう一度お願いします。」
「もちろんでございます、奥様。」
お読みいただきありがとうございます。
ご感想、評価、いいね、などいただけますと幸いです。