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お立ち寄りいただきありがとうございます。


 フィルミナも困ったもんだ。

アランは部屋にひとりになって、ふうっとため息をついた。

あいつは自分がどれだけ魅力的なのかわかっていない、

ラセールまでの旅は3泊するが、毎晩このように甘えられたら身が持たない。

しかしアランは着替えてフィルミナの部屋に行った。


 フィルミナは、なんと寝間着に着替えてお茶を淹れるところだった。やめてくれ、そういう姿を見せないでくれ。

「いらっしゃい、んふふ、お菓子持ってきたの。今お茶入れますね。」

アランは長椅子に腰掛けて、フィルミナがお茶の用意をしているのを眺めている。

「フィルミナも大きくなったなあ。」

「えー、そんなに大きくなってないわよ。」

「違うよ、おとなになったなあって意味だ。」

「ああ。そうよ、もう成人したんだもん。」


 「おまたせしましたー」

フィルミナがお茶と焼き菓子を持ってきてくれた。

当たり前のように隣に座る。

「知ってる?アラン兄様と、もう3年近く会ってなかったのよ。」

「そうだな、卒業してすぐにラセールに行ったからなあ。」

「一度も帰ってきてくれなかった。」

「いろいろ忙しくてな。」

「それだけ?」

「それだけって?」

「・・・なんでもない。」

「なんだよ。」と顔を覗き込む。

「なんでもないの。」

「気持ち悪いなあ。」

「ね、これ、おいしいのよ。食べてみて。アラン兄様チョコレートお好きでしょ。」

「ああ、いただこう。」

フィルミナは俺の好物を覚えててくれたんだ。

「おっ、うまいな。」

「でしょう?ふふふ」フィルミナはちょっと得意気だ。


「ねえ、アラン兄様。」

「ん?」

「好きな人、いる?」

「は?」

「お付き合いしてる人、恋人、いる?」

「何だよ、急に」

「いいじゃない、婚約とかしてるの?」

「してない。いない。誰もいない。」

「うそ。」

「なんでうそなんだよ。」

「アラン兄様すごくかっこよくて、優しいし、強いし、頭いいし、何でもできるし、だから絶対すごくモテるもん。」

「何言ってるんだ。俺はモテたことない。」

「うそばっかり。」

「うそじゃないって。」

「じゃあどうして3年もの間一度も帰ってこなかったの?」

「だからいろいろと忙しくて。」

「忙しいって、3年も帰れないほど忙しかったの?」

「なんだよフィルミナ。なんか喧嘩腰だぞ?」

「だって」

「ん?」

「・・・だって・・・ずっと寂しかったんだもん。アラン兄様に話したいこととかいっぱいあったのに、アラン兄様ぜんぜん帰ってきてくれなかったから、悲しかったんだもん。」

「・・・・・・そうか・・・悪いことしたな。」

「うん」


「この前ね、アラン兄様が帰ってきた日だっけ、私、パトリック様に叩かれたとかいう話ししたでしょ。」

「うん」

「そのあとアラン兄様がお母様に話してくれて、みんな家に集まってくれて、婚約は解消でいい、アラン兄様とラセールに行きなさいって言ってもらったでしょ。」

「うん」

「私ね、夢みたいだって思ったの。これでもう我慢しなくてもいいんだって。自分の心を曲げなくてもいいんだって。それがとっても嬉しかったんだけど。」

「だけど?」

「そのあと急に、アラン兄様についてラセールに行って、そこにアラン兄様の恋人とか婚約者とかいらしたら、って思ったの。だって、アラン兄様のお年だったらそうだろうなって、ただでさえ素敵なアラン兄様にそういう人がいないわけないって思ったら、私、お邪魔だなって思って、悲しくなっちゃって、それでちょっと泣いちゃってたら、エイデン兄様が来て、どうした?って訊かれたの。」

「さっき言っただろ。俺にはそういう人は昔も今もいないんだ。だから気にするな。」

「ほんと?私、邪魔じゃない?」

「邪魔だったら来いって言わないぞ。」

「ありがとう、アラン兄様。」


「ああ、そうだったのか。俺は、あの時は、周りがみんなクソ王子に怒って婚約を解消だと息巻いていたけど、フィルミナは7年もの間婚約していたんだから、それなりに情もあったかもしれず、実はまだそんなに簡単に割り切れないのではないかと心配になったんだよ。」

「まさか。でも私、本当にパトリック様には申し訳ないことしたなあって思ってるの。」

「フィルミナがか?フィルミナは申し訳ないなんて思うことないだろう?」

「いいえ、申し訳ないの。きっと私がパトリック様を追い詰めたんだもん。私、ずうっとパトリック様のことを婚約者だから好きになろうって頑張ったのよ。これはほんとよ。他の人のことは考えないように、見ないようにしようって思っていっぱい我慢したのよ。でもね、どうしても好きになれなかったの。どうしても・・・その・・・アラン兄様と比べちゃって、アラン兄様ならできるのにな、とか、アラン兄様だったらこんなことしないのにな、とか、アラン兄様だったらきっとこうするのにな、とか、もちろん言わなくて心のなかで思ったのよ。アラン兄様のほうがなんでも上だし、でも、私はパトリック様の婚約者なんだから、いくらアラン兄様のことを大好きでも、それ以上に、いえ、せめて同じくらいパトリック様のこと好きにならなきゃって思って頑張ったんだけど、どうしても無理で、たぶんその気持ちがパトリック様に伝わってて、だからエリン様に惹かれたんだろうなって思うの。」

「・・・・・・」

「ごめんなさい、アラン兄様のせいじゃないのよ。私のせいなの。アラン兄様は気にすることないのよ。」


お読みいただきありがとうございます。

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