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お立ち寄りいただきありがとうございます。


 フィルミナの家にはアラン、チャーリー、マリー、キャサリンとその婚約者、サマンサとその婚約者がいて、談笑している。

エイデンとフィルミナはジェームスに報告している。ジェームスはマリーのいる部屋に行き、マリーを抱きしめて、

「マリー嬢、うちの娘をかばってくれたそうだな。ありがとう。フィルミナは良い友を持って幸せ者だ。どうかこれからもフィルミナのことをよろしく頼む。」と言った。

「とんでもないです。私、親友が悪く言われるのがたまらなくて、ついひっぱたいちゃった。」

 

 そう話していると、王宮より使者が来た。国王陛下からの手紙で、今回のことで話をしたいので、王宮まで来てほしいという、丁寧な手紙であった。

「ほう、謝罪はあらためてと書いてある。おもしろくなってきたな。」

デレクは、ジェームスは今すこし立て込んでいるので、後に返事をすると使者に伝えた。


 「さて、慌ただしいが旅立ちの時だ。フィルミナ、準備は良いか?アラン君、よろしく頼む。」

「はい、お父様、行ってまいります。」

既に旅装に着替えていたフィルミナとアランは、その場の皆に挨拶をした。

「これからはもう我慢しないで、新しい道を楽しんでね。」

 リサは優しくフィルミナを抱きしめた。「私もすぐに領地に行くからここからより近くなるわ。落ち着いたら会いにいくわね。」

「お母様、お待ちしてますわ。いろいろありがとう。」

ショーンは姉を離れるのが寂しくて、ちょっとべそをかいていた。でも、頑張って笑顔を作ってフィルミナに挨拶をして、その姿を見てフィルミナは涙ぐんだ。

「エイデン兄様、きょうはいろいろとありがとう。」

「おう、俺もたぶんすぐラセールに行くことになるから、待ってろよ。」

そう言ってかわいい妹を抱きしめた。

フィルミナが友達と別れの挨拶をしている時、エイデンはアランに

「妹をよろしく頼む。」

「もちろんだ。任せてくれ。」

「おい、よろしく、の意味、わかってるのか?」

「あ、ああ。もう我慢させないで、のんびりと楽しく暮らしてもらう。」

「そうじゃないだろう?」

「わかってる。」

「ほんとにわかってるんだろうな。」

「しつこいぞ、わかってると言ってるんだ。」

「お前、フィルミナを泣かせてみろ、ただじゃおかないからな。」

「絶対そんなことしないから、心配するな。」

「お前、もう21なんだからな。」

あの奥手の男は本当に大丈夫なのかなと、エイデンは少し心配になった。(まあでも、いいやつだからな、時間かかっても良い方向にいくだろう。たまに揺さぶりをかけないといかんだろうな。)エイデンは長い付き合いの幼馴染のことはよくわかっているようだ。


 王都から東に進むとマクファーレン領、その北隣がケラニー領、そのどちらにも寄らずに南下するとラセールとなる。

ラセールまでは王都からだと馬車で3日ほどかかるが、領地からだと多少近くなる。

アランはいつもはひとりで馬を走らせていたので、1日で王都とラセールを行き来していたのだが、今回はフィルミナがいるし、フィルミナに観光旅行のように楽しんでもらいたかったので3泊して行くことにしている。今回は侍女は同行しないが、幼い時から自分で着替え等なんでもできるように育っているため、フィルミナは何も不自由しない。馬車はアランとフィルミナだけ、馭者は2人で交代するようにしている。


 出かけた時は既に夕方になっていたので、王都のはずれで宿泊する予定である。

「アラン兄様、見て、見て!夕焼けがとってもきれい!」

フィルミナは夕焼けと山に沈む真っ赤な夕陽をうっとりと眺めている。きれいねえ、きれいねえ、と本当に楽しそうだ。

「ねえアラン兄様、このおひさまの色見てると、どんな宝石よりきれいだなって思わない?なんだかおしゃれするのがばかばかしくなるわ。人間ハダカできれいにならなきゃね。」なんて言ってる。

アランは

「たしかにハダカできれいな人もいるが、着飾ってきれいだと、それもいいもんだぞ。」と言ったが

「アラン兄様わかってないなあ。やっぱり人間ハダカで勝負よ!頑張らなくっちゃ!」

そう息巻くフィルミナを、アランは優しい目で眺めている。


 宿に着いた。すぐに食事になる。アランとフィルミナが2人席、馭者たちも2人席とした。馭者たちは酒のおかげで上機嫌のようだ。


「アラン兄様はお酒飲みたくないの?」

「きょうはいいかな。飲む気分じゃない。」

「ふーん、どんな時が飲む気分なの?」

「そうだなあ、やけ酒かな。」

「暗っ。」

「なんだよ。」

「楽しくお酒飲めばいいのに。」

「ああそういうときもあるぞ。友達が来た時とか。」

「それはいいわね。アラン兄様は真面目だから羽目をはずさなさすぎるってエイデン兄様が言ってたわ。」

「あいつは羽目を外しすぎる。」

「あっははは、たしかにそうね。」


 食事が終わって部屋に引き上げようとした時、フィルミナは腕を掴まれた。

「待っておねえちゃん、こっち来て一緒に飲もうよ。」

フィルミナは顔をこわばらせてアランの腕にすがった。

アランはフィルミナを後ろにし、男の手をひねりあげ、

「手をお離しいただけますか?」と、慇懃にでも鋭い目で言った。

男はアランを見て、ひっと声にならない声をあげ、すごすごと引っ込んだ。

アランは氷の微笑を送り、フィルミナを伴って部屋に引き上げた。

「怖え。ただもんじゃないな。近づかないのが一番だ。」と男たちはこそこそと話していた。


 「アラン兄様、すごい。かっこいい。」フィルミナがちょっと興奮気味に言った。

「ああいう輩は悪人ではないのだろうが、酒の力でああいう態度になるから困ったものだな。」

「ちょっと怖かったわ。部屋まで来たらどうする?」

「ちゃんと鍵をかけておけよ。」

「うん。え?まって、アラン兄様、どこか行っちゃうの?」

「どこにもいかないよ。部屋にいる。」

「じゃあ私の部屋にいて。それとももう寝るの?」

「いや、まだ寝ないがフィルミナはきょういろいろあって疲れてるだろう?」

「うん、疲れたわ。でも、アラン兄様と話したいの。」

「なにを?」

「なにをって、いろいろよ。何かないとだめなの?」フィルミナはぷうっとふくれた。

「ははは、ふくれるなって。何かなきゃだめなんて言ってないだろう?いいよ、楽な格好に着替えてから行く。」

「そうね、私も。わーい、パジャマパーティーだー。」

「なんだそれ。」

お読みいただきありがとうございます。

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