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いよいよ明日がパーティーの日。
体調不良でしばらく休んでいたので王家から見舞いの花が届けられたりしていたが、ケラニー卿はうまく誤魔化していた。
マリーたちが毎日訪れては学園の噂話やパトリックたちの話をしていったので、様子はわかっている。
エイデンがいるから大丈夫、「エイデン兄様はいつだって私を守ってくれるもの。」
フィルミナは、不安ではあるが、いっそのこと早くパーティーが終わってくれればいいのに、と思っていた。
アランはパーティーに行くと言っていたのだが、フィルミナは来ないでくれるように頼んだ。もしフィルミナが苦しい立場に立たされたら、アランは我慢できず殴ってしまうかも知れない、そうしたらマクファーレン家とケラニー家の今後に影響する。今、アランはそれくらい重要な存在だ。だからパーティーには来ないでほしいと言った。
「アラン兄様、私は大丈夫ですから。でも、もしよかったら、パーティーのあと会っていただけますか?私絶対我慢して切り抜けるから、頭撫でて褒めて。」
「・・・わかった。フィルミナを守ってやりたいが、これからのことを考えて会場の外で待つ。それでいいか?」
「はい、ありがとう、アラン兄様。じゃ、約束ね。」フィルミナはにっこり笑った。
エイデンにエスコートされ、フィルミナがパーティー会場に現れると、会場がしんと静まった。
エリンはすっかり婚約者気取りで、王子の腕にべったりとつかまっている。
パーティー会場にいるものは皆、このパーティーで何かが起こると思っているようだった。
フィルミナがエイデンと共にパトリックの前に進み出て挨拶をした時、パトリックはその場にいる皆の前で宣言をした。
「皆の者、今、ここに、余はフィルミナ・ケラニーとの婚約を破棄することを宣言する。」
会場がどよめいた。
エイデンが
「おそれながら殿下、理由をお聞かせいただけますか?」と言うと、
「フィルミナがエリン嬢への嫉妬からいやがらせを繰り返していたことで、エリン嬢がひどく傷つけられた。その性格の悪さで我が愛も冷め果てた。フィルミナからエリン嬢への謝罪を要求する。また、ここにエリン嬢を新しい婚約者とすることを宣言する。」
「恐れながら、いやがらせに関しては全くの事実無根です。」
「エリン嬢からの申立だ。余はエリン嬢を信じる。」
「それは国王陛下もご存知なのでしょうか。」
「パーティー終了後に報告する。」
エイデンの硬く握った拳はぷるぷると震えている。フィルミナが小声でエイデンに言った。
「お兄様、もう結構です。」
そしてパトリックに向き合い
「殿下、長らくお世話になりました。ふつつかな私をどうぞお許しください。ご健康とお幸せを心からお祈り申し上げます。」
フィルミナはそれだけ言うと、くるりと向きを変え、エイデンの腕を取って歩き始めた。
エリンがパトリックに何か囁いた。
パトリックが頷き、エリンが口を開いた。
「待ちなさいフィルミナ、度重なる私への無礼を謝りなさい。」
会場がざわめいた。
そこに
バチンッ!エリンの頬を打つ音が会場に響いた。
「なっ、なにするのっ。」
胸のすくビンタをしたのはマリーだった。
「あなたも仮にも貴族の令嬢なら口のきき方にお気をつけ遊ばせ。国王陛下からのご許可をいただくまではフィルミナ様はパトリック殿下の婚約者です。それを呼び捨てにするなど、なんという失礼。さらに、証拠もなしに無礼者呼ばわりも失礼極まりないです。謝罪すべきは貴女です。」マリーは目に涙を浮かべて言い捨てた。
今度は会場は水を打ったように静まり返った。
そして、チャーリーが拍手を始めたかと思うと、エイデンがそれにつづき、キャサリン、サマンサ、ひとり、ふたりとそれに続き、会場はマリーを支持する拍手に包まれた。
「フィルミナ、胸を張って出ていこう。」エイデンがフィルミナに囁き、ふたりは会場を後にした。
会場の外にはアランが待っていた。アランはフィルミナを見つかると駆け寄り、フィルミナの顔を覗き込んだ。そしてエイデンの方も見やった。エイデンが大丈夫だと大きく頷いた。
「フィルミナ、よく頑張ったな。偉かったぞ。もう嫌なことは終わりだ。」アランはそういうとフィルミナの頭を何度も撫でた。フィルミナはぽろぽろと涙をこぼした。
アランはフィルミナを抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いた。
そこにマリーとチャーリー、それにキャサリンとサマンサが来た。
「マリー!」フィルミナはマリーを見ると、駆け寄って抱きしめた。「マリー、ありがとう・・・ありがとう。」二人を中心にキャサリンとサマンサも一緒になって泣いている。
エイデンが一部始終をアランに説明した。
チャーリーが
「いやあ、俺の婚約者様はすごいよ。惚れ直した。俺の出る幕なくなっちゃったよ。」
そう言って嬉しそうだ。
「さあ、これからは父上の出番だ。フィルミナ、みんなも家でお茶しよう。」
エイデンがそう言って、その場の皆を誘った。
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