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 「フィルミナ、疲れているだろうに悪いね。」

アランが爽やかな笑顔でフィルミナを迎えた。

「いいえ、楽しいことやってるぶんには疲れませんわ。」フィルミナはそう言ってマリアンヌと目を見合わせてふふふと笑った。

「よかったな。」アランが嬉しそうに微笑んだ。

「これからラセールに行くまで数日あるから、そのうちに向こうに行って何をしたいか、何ができるか、などを話し合っておきたいと思ってな。」

「そうですわね。とっても楽しみです。」


 侍女がケーキと紅茶を運んできて、マリアンヌは「私はあちらでジョンといただきますわ。」と出ていった。

「まず、ラセールは支店があり、そこからわずか離れたところに私の住まいがある。今までは私とこちらから連れて行った4人、デクラン、シムス、ネイサン、ボブが住んでいる。残りの従業員は現地採用だ。フィルミナは嫌でなければその屋敷に一緒に住んでもらいたい。」

「はい、アラン兄様と一緒なの、嬉しいわ。」とにっこりする。

「そうか、あちらに着いていきなり仕事をすることはない。しばらく休んで、のんびりして、それからでいいからな。」

「ありがとう。でも、何か早く始めたいわ。」

「フィルミナがそのほうがいいならそれでいいぞ。さて、フィルミナは何がしたいか?」 


 「考えてることとできることはちょっと違うので、まずはできることからしたいです。たぶん私はお薬を作るのがいいんじゃないかと思うんですけど、どうかしら。薬草はここでも少し栽培の練習してたから、今生えてるのを全部持っていって、ラセールでそれでお薬作れます。・・・あの、アラン兄様は私の力のこと、ご存知でしたよね?」

アランは頷いた。

「私、いままで一切秘密にしていたんです。でも、そんなに強い魔力じゃなくても、初級の回復魔法程度でも、とても良い効果のあるお薬ができるというのをうちで試しに作ってわかりました。ですから、初級回復魔法ができる、程度は秘密にしなくてもいいんじゃないかなと思うんです。それでお薬に回復魔法が込められているということを売り込めば売れ行きが良くなると思うし、初級回復魔法ならできる人も結構いるので、私だけで手が足りなくなったら雇うこともできるかと思うんです。どうかしら?」

「そうだな、それは素晴らしい案だと思うぞ。だが、ここで勝手に決めてしまうわけにもいかないな。お父上に相談してみよう。」

「はい!」


 「フィルミナはおとなになったなあ。」

「いやあね、アラン兄様、私、成人したって言ったじゃない?」

「ああ、そうだな。」アランはそう言ってフィルミナの頭を撫でた。

「あのね、アラン兄様。」

「ん?」

「私の力のこと、たとえ初級回復魔法でも、ラセールに行くまでは内緒でもいい?」

「もちろんだ。フィルミナのことなのだから、フィルミナのしたいようにすればいい。」

「うん、ありがとう。私ね、もし魔法が使えるってばれて、それを王室が利用しようとして、パトリック様を説得してしまうのが嫌なの。今はね、パトリック様は私はなんにもできない役たたずだって言ってるから、それをそのままにしておきたいの。」

「なに!役たたずとも言われたのか!」アランは拳を握った。

「いいの、むしろそう思われたいの。エリン様はご自分がすごい魔法が使えるって言ってて、それで私比べられてそう言われたんだけど、そのほうがいいの。アラン兄様、私、やっと解放されるのよ。7年も諦めてたけど、やっと自由になれるの。だからこのチャンスをふいにしたくないの。」フィルミナは泣きだしてしまった。

「そうだったのか、フィルミナ、ずいぶん我慢したんだな。えらかったな。」

アランはそう言ってフィルミナの隣に行き、肩を抱いて頭を撫でた。

「アラン兄様、褒めてくれる?」

「ああ、いくらでも褒めてやるさ。よく頑張った。えらかったぞ。」

「ありがとう、アラン兄様。」

フィルミナはしばらく静かに泣いていた。


 しばらくしてドアがノックされて、執事のエディが顔を出し、

「お食事はいかがなさいますか?旦那様がぜひフィルミナ様もご一緒にと仰せですが。」

「どうしよう、私、何も考えずに出てきちゃった。」

「フィルミナちゃーん。」マリアンヌの声だ。

「お夕食一緒にしていってくださるわよね?あなたのところにはそう言っておくわ。」

「はい、ありがとうございます。では、お言葉に甘えます。」


 夕食に行くと、チャーリーもいた。

「あっ、フィルミナー。マリーたちが寂しがってたぞ。何か伝言あったら明日伝えるよ。」

「ありがとう。それじゃお夕食の後、ちょっと手紙書きますので、渡してください。」

「マリーたち、フィルミナが今週いっぱい休むんだったら毎日押しかけようって言ってた。」

「うふふふ、嬉しいわ。」

「あ、でもそうすると寂しがる人もいそうだな。」チャーリーがアランを見てにやりと笑った。

「コホン。ラセールに行ったらそうそう会えなくなるから、今できるだけ会っておいたほうがいいな。」

「おっ、余裕かましてる。」

「なにをっ」

あははは。

笑い声のある食卓は良いものだ。


 おいしい食事をたくさん食べて、おしゃべりも楽しんで、フィルミナの帰る時間となった。

アランに送ってもらって帰る。

2つの屋敷は隣同士であるが、それぞれが大きいので、歩くとけっこう時間がかかる。

でも、フィルミナもアランもそれが嬉しかった。


 「アラン兄様」フィルミナはそう言って、アランと手を繋いだ。

「ふふ、昔みたい。嬉しいな。」

「おい、8歳に逆戻りか?」とアランが言う声は嬉しそう。

「そうよー。8歳に戻ってまたアラン兄様に甘えるの。いいでしょ?」

アランを見上げたフィルミナに、アランはにっこり笑って頷いた。

「フィルミナは7年も我慢して頑張ってきたんだもんな。ラセールに行ったら、甘やかしてやろう。」

「ほんと?じゃあいっぱい甘えちゃおう。覚悟してね、アラン兄様。」

フィルミナはにこにこ嬉しそうに笑っている。

ああ、やっとこの笑顔に戻ったな、と、アランは嬉しかった。


お読みいただきありがとうございます。

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