13
お立ち寄りいただきありがとうございます。
「そういえば兄上、さっきからどうしたのですか?ずっと黙ってて。」
アランが口を開いた。
「父上、陛下とクソ王子はフィルミナの力のことは知っているのですか?」
ジョンが
「いや、ちょうど儂も気になってケラニー殿に訊いてみたのだが、隠しているそうだ。」
と言った。
チャーリーが
「なんですか?フィルミナの力って?」と訊いた。
ジョンがとても厳しい顔で言った。
「これは絶対に口外するんじゃないぞ。下手するとフィルミナの命に関わることかもしれんからな。マリー嬢にも言うな。」
「そ、それは恐ろしいですね。」
「実は、フィルミナは光の精霊王様の加護を受けていて、聖女並の回復魔法が使えるのだ。だが、この国はおろか、他の国にもそういう者がいるという話は聞かないので、とても貴重な存在で、これが知れると誘拐されたりする可能性が大いにある。それで、ケラニー家ではこのことは極秘にしているのだ。」
「なるほど。ははっ、そうとは知らず、あのクソ王子、まぬけにも程があるな。」
チャーリーの反応はひたすら明るい。
アランが
「そうなると、ラセールに行ってからも、隠し通さなければいけませんね。」と言うと、
ジョンは
「そうだな。明日にでも、ケラニー殿にどのように考えているか、訊いてみることにしよう。初級程度の回復魔法ができる者は何人もいるから、そのようになら公開してもよいかもしれんな。フィルミナにとっても生涯極秘にするというのは精神的に辛いことだろうしな。」
「そうなんです。それが心の負担になっていたらかわいそうだと思うのです。クソ王子のことでかなり傷つけられた上に、秘密を持つことは辛いだろうなと。もちろんラセールでは全力で守りますが、少しでも気持ちを楽にしてくれるといいと思うのです。」と、アランが言うと、
「兄上、優しいですね。」とチャーリーが言った。
「なんだよ。」
「いや、素直に、兄上は優しいなあと思ったんです。」
「そうよね、アランはとっても優しいわ。フィルミナちゃんもアランのそういうところが好きなんでしょうね。」マリアンヌがふふふと笑いながら言った。
「母上、なんてことを。」焦るアランにジョンもにやにやして、「ま、がんばれ。」と言う。
「あ、明日の準備がありますので、私はこれで。」アランが逃げるように出ていってしまった。
「あははは、兄上、焦ってましたね。」
「図星だったからね。まったくあの子ったら同じ歳で結婚して子供もいる人もずいぶんいるっていうのに、頼りないわねえ。これでラセールに行って、大丈夫かしら。」
「まあ、だからといって、あいつももう21だからな。親がどうすることでもないだろう。」
「じれったいなあ。兄上はなんであんなに純情なんですか。」
「儂の息子だからだ。」ジョンがちょっと自慢気に言ったが
「父上、父上はどうだったか知りませんけどね、もう父上の時代じゃないんですよ。兄上はあんなだと一生うだうだしてるだけで、そのうち誰かにフィルミナをかっ攫われちゃいますよ。」
「あら、嫌だわ、それはだめよ。フィルミナちゃんはもう私の娘なの。アランにもっと頑張ってもらわなきゃ。」
「こうなったら周りから盛り上げるしかありません。俺、がんばります。」
ジョンはちょっと心配そうに、
「お前、やりすぎるなよ。」
「大丈夫ですよ。マリー嬢も一緒にがんばりますから。マリー嬢がフィルミナもアランみたいにじれったい性格のようです。」
「まあ、純情なのは良いことよ。明日が楽しみだわ。フィルミナちゃん、かわいいのよ。ちょっとアランのこと言うと、真っ赤になっちゃうの。ふふふ。」
「明日にでもアランにラセールでの仕事の話をフィルミナに話すよう言うことにするかな。」ジョンがにやりと笑ってそう言った。
アランはひとりになって、フィルミナに思いを馳せた。
来週のパーティーのことが心配だろうとかわいそうに思う。
王子にひどいことを言われなければよいが、まさか大勢の前で暴力は振るわないだろうが、言葉の暴力は十分有り得る。
聞けば、今まで相当ひどいことを言われたようだ。
腸が煮えくり返る。
本当に殴りたい、いや、殺してしまいたい。
8歳の幼い少女だった時から、フィルミナは王子の嫁に相応しくなるよう、あらゆる教育を受けてきた。
今では完璧な令嬢となっているが、ここに至るまではさぞかし辛い思いをしたことだろう。
にもかかわらず、クソ王子はそれをねぎらうどころか文句を言い、貶しているそうだ。
さらにわけのわからない女と浮気をして、その女を常に侍らせフィルミナを無視するばかりか、比べてお前はだめだと貶め叱責しているとは。
どこまでクズなのだ。
許せない。
できることなら決闘で叩きのめしてやりたい。あんな奴に負ける気がしない。
ラセールに行ったら、フィルミナにはたくさん楽しいことをしてもらいたい。
甘やかして、いっぱい笑顔にしよう。
全力で守り、大事にしよう。
おやすみ、フィルミナ。
お読みいただきありがとうございます。
ご感想、評価、いいね、などいただけますと幸いです。