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アランが少し心配そうな顔でフィルミナの顔を覗き込み、
「フィルミナ、少し目が赤いようだが大丈夫か?何かまだ心配事でもあるのか?」と訊いた。
ぶっははははは。
エイデンが吹き出した。
「お兄様っ。」
「なんだ?どうしたんだ?」
「ぶははははははは、あー腹痛え。おい、フィルミナ、なにか聞きたいことあるんじゃねーの?」
「お兄様ったら、ばかっ。」
フィルミナは部屋を駆け出して行った。
エイデンはまだ笑っている。
「何があったのだ?まあ、笑っているということは、悪いことではないようだな。」ジェームスがそう言った。
「さて、それではきょうはこの辺でお開きとしましょうか。儂はこれから少々事業のことをまとめようと思う。マクファーレン社に何をどう依頼するかをまとめないとな。」
「そうしてくれるか。儂はどの程度受け入れられるかをアランとまとめることにする。アラン、よいな。」
「はい、父上。」
「では私はあしたの準備を致しますわ。ああ、楽しみだわ。」
「それではあしたはまた12時でよろしいかしら?」
「そういたしましょう。」
それで解散となった。
帰りがけにアランがエイデンに
「おい、本当にフィルミナは大丈夫なんだろうな?」と小声で訊いたのだが、
「また、笑わせるなよ。」と、エイデンは笑っている。
「そうか、まあ、笑ってるなら大丈夫なんだな。俺はもしかしてフィルミナがやっぱりクソ王子に未練があるが周りが婚約を解消するように押しすぎて困っているかと思ったのだが。」
ぶっははははは。エイデンはまた吹き出した。
「なんだよ。」
「あははははははは、そうきたか。あーおもしれー。涙出る。」
「おい、なんでそんなに笑うんだよ。」
「そういえばお前、いくつだ?」
「21だが。」
「21でそれか。」
「なんだよ、何が言いたいんだよ。」
「いや、なんでもない。俺が言うことじゃないからな。ま、がんばれよ。」
エイデンはなぜそんなに笑うのだろう。
妹が目を赤くしていて、泣いていたのがわかるだろうに。
もしかしたら、俺をはじめ周りが婚約解消だのなんだのと盛り上がりすぎて、実はクソ王子に未練があるのに言い出せなくて泣いていたのかも知れないではないか。
俺達にとってどんなに嫌な奴でも、フィルミナは今まで7年もの間婚約していたのだから、それなりに情もあるかもしれない。
好きになろうと努力してきたとも言っていた。
女心はさっぱりわからないが、そういうこともあるかもしれないではないか。
アランたちが家に戻るとチャーリーは既にマリーを送って戻ってきたところだった。
すぐに夕食の時間となる。
「父上、それで、これからどうするのですか?」とチャーリーから質問。
「うむ、まず、うちはしばらく爵位はそのままで事業の交渉に使う。だから、殴るなよ。」
「えー、もう、殴る気満々だったのになあ。」
「来週末のパーティーはエイデンがフィルミナをエスコートしていく。しまった、エイデンに殴るなというのを忘れたぞ。まあいい、その時に婚約が解消されたら、そこでフィルミナは退学し、アランと共にラセール国の支店に行って、そこでケラニー商会の駐在員として働いてもらう。」
「おっ、いいねっ。」チャーリーは乗りがいい。
「あちらのリサ殿とショーン君は領地に引っ越して、ショーン君は領地の学校に転校する。こちらの屋敷も残しておいて、いずれ王都支店とするもよし、ということだ。だが、近い将来王政も終わるであろうから、ここが栄え続けるかどうかはわからんな。」
「父上、市民たちが革命を起こすことは予測なさってますか?」とアランが訊いた。
「さあ、どうだろうな。うちの領地は税も無いし、そう住みにくいこともなさそうだし、ケラニー殿のところも同様で、領民たちとの関係は良い。だが、高額な税金で不満が多い領地もかなりある。王領もしかり、だ。今はうちやケラニー領は他領からの移住者で働き手も多く、それが非常に良い具合にまわっているが、よその領地で貧困率が高かったりするところは不満も溢れていて、暴動が起きたりもしていると聞いている。そうなる前に爵位を返上したいので、それはそう遠い将来のことではないだろう。」
「そうですか。ラセール国は数年前に革命が起きたことによって王政が廃止になっていますが、そのあとを引き継いだ政府が重い税を課していて、それがまた不満となってきているようです。うちは給料が他よりも群を抜いて良いし、いろいろと従業員が住みやすいようにしているので、就職希望者はとても多く、助かっていますが、また政情不安定になることを考えて、よそにも支店をおくとよいかと思っているのですが。」と、これはアランからの提案。
「そうか、ではやはりもう爵位を返上するほうがよいかな。うーむ、考えどきだな。パーティーまで少し時間をくれ。」
「わかりました。すぐに返上するということになったら、殴りますので、すぐ教えて下さい。」チャーリーは殴ることに集中している。
「チャーリー、お前って奴は。」ジョンは苦笑い。
父上も兄上も、あのクソ王子を実際に見てないから落ち着いていられるんですよ。あんな姿見たら、誰だって革命起こしたくなりますって。ましなほうの第2王子があれだもの、王太子なんて、もう終わったな。」
チャーリーの言葉を受けて、アランが「俺も一度見に行ってみようかな。」などと言っている。
「兄上はパーティーには行くのでしょう?そこで見ればいいじゃないですか。殴るの確実かもしれませんけどね。」チャーリーがそう言って笑った。
「まあ、嫌ですよ。息子がふたりとも牢に入れられたなんてことになったら。」マリアンヌが本気か冗談かわからないような物言いで笑っていた。
ジョンが
「マリアンヌ、貴女が殴らないか儂は心配だよ。」と、ニヤリと笑った。
「たしかに、母上はここにいる中で一番気が荒いですからね。マリーもかなり気が荒いしなあ。なんだか将来恐ろしいな。」
「チャーリー、いやあね、淑女に向かって。でもねえ、あんなに健気で優しいフィルミナによくもまあ暴力を振るおうなんて思えるものよ。信じられないわ。やっぱり私、バカ王子に会ったら何もしないでいる自信がないわ。」
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