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フィルミナとマリーは庭の四阿でお茶にした。
「こうやってゆっくりおしゃべりするの、久しぶりね。フィルミナはずっと忙しかったもの、寂しかったわよ。ふふ、今日ここでおしゃべりしたって言ったらキャシーとサマンサがやきもち妬くわね。4人でもお茶会しなくちゃ。」
フィルミナは
「マリー、気遣ってくれてありがとう。私、なんだかきのうからみんなに心配させちゃって、申し訳なく思っているの。黙って我慢しようと思ってたのに、つい言っちゃって、言い出したら止まらなくなっちゃって。」
「当たり前よ。毎日毎日ひどいことされて、私何度先生やあなたのお父様に直訴しようとおもったことか。でも、きっとこれで婚約は解消されるわよ。アラン様が助けてくださるわよ。」
「マリーったら。」
「チャーリー様から聞いたわよ。アラン様がお戻りだって。それで、お戻り早々にこうなったわけでしょ。これはもう、アラン様のおかげよね。」
「私はパトリック様の婚約者なの。これは王命なんですもの、どうしようもないわ。」
「フィルミナ、あなた、そんなに思いつめてしまって、悲しいわ。チャーリー様が私に『もし平民になったらどうする?』って訊いたのよ。私はそんなの関係ないって答えたわ。うちのお父様とお兄様も、王政が終わるのも時間の問題だって言ってる。だからうちもいろいろ事業に精を出しているわ。フィルミナのところもきっとそうよ。そしてチャーリー様のところも。王政が終われば王命での婚約なんて無くなるわ。」
「実はうちもね、王政が終わったら、って話をたまにしているわ。エイデンお兄様が自分たちの時代は身分差がなくなって、みんな実力で勝負できるようになる、って言ってる。女だって仕事できるようになるから、いろいろ考えるといいと言われてるわ。」
「楽しみよね、フィルミナは何がしたい?私はドレス作ったりしたいな。売れるかな。」
「売れるわよ、マリーはセンスいいもの。私は薬草かな。薬草でお薬作るのもだけど、薬草で化粧水とか作りたいわ。あと、花束とかも売りたいな。」
「フィルミナらしいな。ねえ、薬草で食べても食べても太らないお薬作ってよ。絶対売れるわよ。私、いちばんに買うわ。楽しいわよね、そういうこと考えるのって。キャシーはきっとケーキが大好きだから、ケーキ屋さんやるって言うわよ。サマンサはぬいぐるみ屋さんかしら。今度訊いてみましょ。当たるわよ、きっと。」
「そうだわ、女も働くようになったら小さな子どもたちのための学校みたいなものも必要になるわね。」
「ああ、そうよね。私達でそれをやりましょう。フィルミナはいつも孤児院に行って子どもたちに本を読んだり遊んだりしてるから慣れてるわよね。私も弟たちの相手で慣れてるからちょうどいいわ。楽しいわね、こういうこと考えるの。」
2人はそう言って笑った。
「マリー。」
「ふふふ、なあに?」
「ありがとう。マリーはいつも私の味方してくれて、本当に感謝してるのよ。」
「当たり前でしょ。私達、将来義姉妹になるんだもん。」
「え?なにそれ?」
「だって、私はチャーリー様と結婚するのよ。」
「ええ。でも、チャーリー様よ。エイデン兄様じゃないわ。」
「何言ってるのよ。貴女はアラン様でしょ。」
「なっ・・・なんてこと。やめてそんな事言うの。」
「どうしてよ。チャーリー様が言ってたわよ。アラン様がフィルミナが好きで好きで、だからフィルミナが婚約しているのを見るのが辛くて遠国に行ったって。」
「そんなこと・・・」
「フィルミナだってアラン様のこと好きなくせに。その髪飾り見ればわかるわよ。アラン様の色じゃない。バレバレよ。」
「だめ、言わないで。私はパトリック様の婚約者なの。変な期待させないで。」
「期待ねえ。ふふふ、わかったわ。まだ言わないでいてあげる。」
フィルミナとマリーが楽しく話をしているところに、デレクがやってきた。
「お嬢様方、お父上様が、もしよかったら皆様のお話し合いにご参加いただけないかと仰っています。でも、無理のない程度で、とのことですが。」
「はい、では伺います。」
ふたりはサロンに入った。
マリーはチャーリーの隣に座って、皆にわからないようにウインクした。これは事前に2人で決めていて、マリーがアランのことでフィルミナに揺さぶりをかけてうまくいったらウインクするように、と。マリーはチャーリーに囁いた。「ま、最初はこんなところかな。あとでね。」
ジェームスが口をきった。
「エイデンとチャーリーがいろいろ調べてきてくれた。フィルミナ、辛い思いをさせたな。もう大丈夫だ。」
「お父様、そんなこと。」
「いや、大変なことだ。まず、エイデンが気づいたのだが、エリン嬢とやらは魅了をかけているようだ。エイデンがアランにもらってつけていたブレスレットがエリン嬢と挨拶をした時にすごく熱くなったそうだ。これは魅了に反応して防いだものだ。アラン君、良いものを用意してくれて感謝する。」
チャーリーが、
「兄上、あのブレスレットは特定の人だけに反応するものですか?実はきのう俺もつけていてエリン嬢に会った時熱くなったのです。しかし、エリン嬢はいままで約3ヶ月マリーに何度も会っているが、マリーは魅了されていないようで。」
「おそらくエリンとやらは魔法ではなく魔道具を使っているのだろう。魔道具のなかに、相手を特定する機能のあるものがあるそうだ。例えば、男性限定とかにすれば女性は魅了にかからない。」
「それって女がすべて敵になる可能性だってあるのに。バカじゃないの。」マリーが言った。
「まあ、魔道具なら機能の高いものはそれなりに値段がはるのだろう。でもマリーを敵に回すのはあさはかだったな。」チャーリーがそう言って笑った。
「それからエイデンからの情報だが、来週末にパーティーがあり、そこで婚約を解消する発表をしたいとバカ王子が言っていたそうだ。」
「あなた、バカ王子って。」
「構わん。バカをバカと言って何が悪い。なんだったらクソ王子でもいいぞ。」リサは苦笑しながらも頷いていた。
「フィルミナ、パーティーの招待状は来ているか?」
「いえ、それはたぶん学園のだと思いますので、学園の通信には出ていました。・・・実は、私は、その・・・パトリック様からエスコートしないので1人で来いと言われております。」
「なんということだ、婚約者に1人で来いなどとっ!」アランが声を荒らげた。
「落ち着け、アラン。エスコート、頼めるか?それとも俺のほうがいいか?」エイデンがそう言うと、ジェームスが
「婚約中だからエイデンお前が行け。変に言いがかりをつけられてはいかんからな。」
「わかりました。フィルミナ、任せろ。クソ王子め、いざとなったら俺が相手だ。」
「お兄様、ありがとう。」
「それで、そこでもし婚約解消の話が出れば、エイデン、しっかり話を訊いて、返事はせずに家に持って帰れ。あらためて儂が謁見を賜って、その時に解消を諾と答え、尚且つ、爵位を返上する。リサはこれから領地に戻る準備をしてくれ。もちろんこの家も使うが、これまでよりも比重は領地になっていくだろうから。」
「承知しました。それではそれまでの間、フィルミナとせいぜい王都でお買い物したりおいしいもの食べたりしましょう。マリアンヌ様もおつきあいくださいね。」
「まったく、女は気楽だな。というか、たくましいな。」ジェームスが笑っていった。
「そりゃあそうですわよ。バカな人たちの醜い企みに踊らされているなんて、時間と気遣いの無駄ですわ。」
「そのとおりだ。フィルミナ、母様を見習って、図太くいきなさい。」
マリアンヌも言った。
「いままでフィルミナちゃんが忙しくて遊べなかった分、取り戻さなきゃね。」
「さて、そのあとのことだが、ジョン、お前にバトンタッチだ。」
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