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信じる理由


 思わぬところで、黄色猫の名前の意味を知った。

 しかし、砂橋がここに来た目的は、それではないだろう。


「小林さん。もう十五年前のことで覚えていないかもしれませんが、十五年前の事件の時のことを教えてくれませんか?」


 砂橋の言葉に小林は瞼を閉じて頷いた。

 きっと彼女は、この家を犯罪者として捕まった人の家だと砂橋が言った時からこの質問をされると覚悟していたのだろう。


「十五年前、誰もが蟹江さんのことは犯人ではないと信じていたわ……。でも、この家から犯行現場で見つかった足跡に合う靴が見つかったとか、凶器が見つかったとか、怪しいことを言っている蟹江さんのことを目撃したっていう証言もあって……だんだん信じている人が少なくなっていったのよ。結局、蟹江さんは犯人のまま、刑務所から出ることはできなかった」


 いくら人のいい人間でも証拠がそろっていれば、人は信用できなくなる。印象と証拠では、形がある証拠の方が優勢だ。

 そして、蟹江は犯人として捕まった。


「……ちょっと待ってくれ」


 今の小林さんの言葉に引っかかりを覚えた。

 無期懲役か、もしくは死刑だとしても、彼が本当に罪を犯していないのであれば、それを訴えて、無罪放免になり、刑務所から出ることができるだろう。

 牧野だって、蟹江の無実を信じていて、真犯人を見つけたから、俺達に「真犯人の所有する別荘でお待ちしています」と言ってきたのだ。


「刑務所から出ることはできなかったって……これからは?」


 彼女は首を横に振った。


「彼は病気で去年亡くなったのよ」

「……」


 いくら真犯人を見つけても、証言が嘘だと分かっても、当時捜査をしていた刑事が証拠をでっちあげていたとしても、それが明るみになったとしても、蟹江が刑務所から出てくることはない。

 もう蟹江はこの世にはいないのだから。


「何度も警察の人に訴えたのよ。蟹江さんが殺人なんておかしいって、絶対になにかの間違いだって。でも、だんだんとそういう訴えをする人も少なくなってきたわ」


 嘘の証言者を用意し、刑事さえも味方につけた人間が、蟹江を容疑者に仕立て上げた。

 そんな人物であれば、蟹江が犯人ではないと言い出す人間を煩わしいと思うに違いない。そのような人物たちを手を回して黙らせようと考えたかもしれない。


「そんな中、小林さんはどうしてずっと蟹江さんのことを信じていられたんですか?」


 砂橋は出されたお茶を飲み、個包装に包まれたまんじゅうを一口口に入れると質問をした。

 小林さんは口ごもった後、しばらくして、口を開いた。


「証言の中に、居酒屋で酒を飲みながら、強盗の計画を話していたっていうのがあったでしょう? あの証言がずっと引っかかっているの」


 彼女の口は再度開かれるまでしばしの時間を要した。

 その言葉は、今まで十五年間、訴えたところで無視をされ続けたことにより、重くなってしまっていたのだろう。長い時間待って、ようやく彼女の次の言葉を俺達は聞くことができた。


「彼、アルコールアレルギーだから、お酒なんて飲めないはずなのよ」


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