再び
現在、捕まっている五人の犯人のことは、熊岸刑事と猫谷刑事に任せることにした。事件でしか関わっていない俺と砂橋が聞きに行っても話してくれる可能性は薄いだろう。
「にしても、どうして、ここに……」
砂橋は俺を伴って、牧野と初めて会った教会へと足を踏み入れた。
牧野は昨日、五つ目の事件の事情聴取が終わった後、普通に帰ったと聞いた。俺達に対して、自分が黄色猫だとばらすような態度をとったのだから、わざわざ教会に出勤してくることはないだろう。
案の定、教会に入っても、牧野はいなかった。
牧野神父はどこかと尋ねると、初老の神父は目を丸くしてから、砂橋と俺のことを見比べた。
「探偵さんと小説家さんですね」
俺と砂橋は目を見合わせた。
牧野は俺達がここに来ることを予測していたらしい。
「ポーチのことなら心配しないように、と伝えてほしいと言っていましたよ」
ポーチというのは、二つ目の事件で、横内進一の共犯者だった彼の弟の横内歳三が友である少女からもらったものだ。それを砂橋は受け取り、彼が罪を償ったら取りに来るようにと、神父である牧野に預けたのだ。
「牧野神父はやることがあるからと先日辞めたので、彼の代わりに私がきちんと預かっていますよ」
初老の神父は目尻の皺を濃くして、にこりと微笑んだ。
「詳しいことは聞きませんでしたが、牧野神父は貴方たちにとてもお世話になったと言っていました」
お世話になったというのは、俺達をこんな訳の分からない事件に巻き込んだことを言っているだろう。
「牧野神父はどうして神父に?」
「さぁ……理由は聞いたことがありませんが、牧野神父はとても熱心な方でした。よく皆さんの相談を聞いて、親身になったりしていましたよ」
「懺悔室で話を聞いたり?」
「そうですね。彼はよく懺悔室に入る人を気にかけていました」
砂橋は、今まで五つの事件を解決した。
黄色猫は五つの事件を起こすように犯人たちに促し、それを補助するどころか、見捨てた。それどころか、俺の小説の一部を模倣させることによって、犯人の犯行だとバレやすくしているようだった。
五つ目の事件なんて、自ら犯人にとって不利になるように証言までしていた。
となると、二つ目の事件で、共犯者である横内歳三の自供を引き出しそうと俺たちが懺悔室を使おうとした時、ああして快く譲ったのだろう。普通だったら、そんなことはしない。
「ポーチのこと、安心しました。僕らも牧野神父にはお世話になったので、お礼をしないといけないですね」
砂橋がにこにこと笑った。
お礼と言っても、こんな変なことに巻き込まれた俺達からすれば、それはお礼参りの意味を持つ。砂橋がにこにことしたまま、俺の方を見たので、俺も頷いた。
「そうだな。ちゃんとお礼をしないとな」
俺達の真意も分からないまま、初老の神父は頷いた。最後に彼はこう尋ねた。
「牧野神父からこう聞くように言われたんです。家の方にはもう行きましたか?」
俺は意味が分からなかったが、砂橋は笑顔で頷いた。
「これから行く予定です」




