君のせい
神谷は連行されていき、俺達もそれぞれ話を聞かれることになった。警察署に行く前に砂橋に、危険な真似をする時が俺に相談しろと小言を言おうと振り返ると砂橋の姿がない。
ふと見ると、砂橋は猫谷刑事と言葉を二、三交わして、すぐに優しそうな顔をした証言者の男性に近づいて、声をかけた。
証言者になにか聞きたいことでもあったのだろうかと俺も近づくと砂橋が証言者の男に挨拶をする。
「こんなところで会うとは思ってなかったよ、神父さん」
「今はオフなので、神父じゃないですよ」
思わず、男の顔を二度見する。
確かに顔をよく見ると、教会で出会った牧野神父だ。まさか、彼がこの完成披露試写会に参加していて、証言もしてくれていたとは驚きだ。
「ホラー映画の初期案に、教会を出す話もあって、その時は教会で撮影したいと言われてオーケーを出していたんですよ。結局、そのシーンはなかったんですけど、お礼にチケットをもらったんです」
「そうだったのか……」
「お二人も散々なことに巻き込まれて大変ですね」
確かにそうだ。
ここ最近は、立て続けに事件に巻き込まれて、正直もう疲れている。結局、五つ目の事件も防ぐことはできなかった。黄色猫の目的も俺達にはまだ分かっていない。
砂橋は牧野の言葉に何度も深く頷いた。
「そうそう。散々なんだよ、君のせいで」
一瞬、俺のせいで事件に巻き込まれてるんだと砂橋が言い出したかと思ったが、砂橋の瞳は俺に向けられていなかった。
砂橋はじっと目の前の牧野を見ている。
「ねぇ、黄色猫って君でしょう?」
どうして。何故。疑われた人物はいつも探偵に理由を問う。
しかし、牧野はそもそも黄色猫の存在も知らないはずだ。何故なら、黄色猫の存在は俺と砂橋と熊岸刑事の三人でしか情報共有をしていない。
黄色猫を知っているとすれば、それは黄色猫に指示を受けた犯人か、黄色猫本人だ。
牧野はきょとんとしていたが、砂橋は目を細めて、言葉を続けた。
「五人を逮捕できて本当によかったねぇ。五つの事件が上手くいって、ほっとしたんじゃない?」
砂橋の言葉に牧野は笑った。
「ええ、とっても」
それは自身が黄色猫だと自白したようなものだった。
「お二人とも、ああ、刑事さんも、とてもよかった。私……いや、今はオフなのでフランクにいきましょう。僕の計画を完成させてくれてありがとうございます」
彼が俺の小説を使い、殺人事件を指示した元凶だ。掴みかかって、どうしてこんなことをしたんだと問い詰めたい。
しかし、一歩踏み出そうとする俺の前に砂橋が片手をあげて、俺のことを止めた。
「それで? この後は?」
「この後は、証言者として警察の事情聴取を受けないといけないので、そうですねぇ。明後日の正午。真犯人の所有する別荘でお待ちしています」
そう言うと、牧野は警察に呼ばれ、その場を後にした。
「砂橋、どうして、あいつを見逃したんだ」
「弾正、落ち着いてよ」
「落ち着いてられるか。あいつが」
「一度も自分が黄色猫だって口にしていないし、事件を指示したとも言っていない。ほっとしたかって質問に肯定しただけだと言い逃れされても仕方ない。計画についても詳細は言ってない。そもそも、彼は事件を起こしていない」
「……」
俺は拳を握りしめた。
明後日の正午、真犯人の所有する別荘とはいったいなんのことだ。
「……砂橋」
「なに?」
「あいつの言葉に乗ったら、この事件は終わるのか?」
「たぶん」
「解決できるのか?」
俺の言葉に砂橋はきょとんとした後、悪戯をした時のようにくすくすと笑った。
「僕がいるんだよ、解決できないわけがないじゃん」




