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チケット2枚


 砂橋に食事のほとんどを奪われた俺と違い、熊岸刑事は五分の一を奪われる程度で済んだ。

 砂橋の箸が止まっている。今は腹を休めているのだろう。急須から注ぎ直したお茶を一口飲んで、熊岸刑事を見た。


「十五年前の罪って聞いて、なにか思い当たる節はない?」


 熊岸刑事は首を横に振った。


「自分が担当した事件の関係者は覚えているが、今回の事件にその関係者は一切出ていない」

「だったら、熊岸刑事とは関係のない罪ってことだ。まぁ、一番知ってそうなのは本人たちだよね」


 本人たち。

 殺された人間に話しを聞くことはできない。ならば、生き残っている人間であり、なおかつ今回の事件の関係者たち。黄色猫に直接事件を起こすように追い詰められた犯人たちだ。


「ということで、先に猫谷刑事に十五年前、今回の一連の事件の犯人たちが関わっている事件がないか、警察署の資料を調べてもらってるよ」

「……いつの間に」


 猫谷刑事は熊岸刑事の部下だ。猫谷刑事は熊岸刑事のように砂橋のやることなすことに寛容ではなく、むしろ「余計なことをしないでください」と砂橋に睨みを利かせているタイプの刑事なのだが。


「今回の事件、熊岸刑事が危険にさらされ……ああ、巻き込まれてるって言ったら、調べてくれるって言ってくれたんだよ」

「わざと俺が危険に晒されているなんて大嘘をついたな」

「熊岸刑事は後輩に愛されてるねぇ。よかったじゃん。見捨てられなくて」


 熊岸刑事は額に手を当てて、ため息をついた。自分の上司のピンチをどうにかするために動く部下を持てて嬉しい気持ちは少なからずあるだろうが、自分を理由に砂橋にいいように使われてしまった猫谷刑事に対しての申し訳なさもあるだろう。

 猫谷刑事にもこの事件が終わったら、謝罪をしなくてはいけなくなった。


「明日あたりに猫谷刑事から報告が聞けるんじゃない。熊岸刑事、明日は?」

「非番だ」


 明日の日付が書かれたチケットが二枚。

 事件が目の前で起こると言われているのに、逃げる人間はここにはいない。


「にしても、二枚かぁ……」

「このチケットを持っていれば、完成披露試写会の場に行けるんだろ? その試写会に参加している人間の誰かが起こるだろう事件の犯人で、試写会中に三階の屋上から被害者が落下するんじゃないか?」


 実際、二つ目の事件の時に送られてきたポイントカードのパンケーキ屋は、犯人が来ていただけで、犯行現場ではなかった。

 パンケーキ屋に犯人はアリバイ作りのために居座っていただけだった。


 今回もこの完成披露試写会がアリバイ作りに利用される可能性がある。


「じゃあ、弾正と砂橋は完成披露試写会に行ってくれ。俺はその周囲を見張る」


 熊岸刑事の言葉で、明日の役割が決まった。


 俺と砂橋が完成披露試写会に潜り込み、熊岸刑事がその試写会が行われている周囲の警戒。

 明日、完成披露試写会が行われる午後一時の三時間前に、商業施設に集まることとなった。


 しばらくして、食後のデザートである柑橘系のグラニテを食べ終わり、砂橋は満足そうに笑った。


「熊岸刑事、よかったね。ここのお金、全部、弾正が支払うって」

「いや、自分の分は払おう」


 俺のせいで砂橋の苛立ちの巻き添えを食らった熊岸刑事の分は支払うつもりだったが、熊岸刑事は首を横に振った。


「熊岸刑事」

「自分の発言には責任をとる。先に砂橋のことを疑ったのは俺だ」


 砂橋がからかうように口笛を吹いた。


「熊岸刑事、大人~」


 店員を呼んで、お会計をしてもらうとすぐに金額が書かれた紙を店員が持ってきた。それを見て、一瞬だけ熊岸刑事は固まっていたが、すぐにそんな素振りはなかったかのように財布から金を取り出した。

 俺も砂橋も熊岸刑事の一瞬の静止は見なかったことにした。


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