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煙草休憩

 玄関にいた俺と砂橋に、熊岸刑事が小野坂と平田と三人にしてもらった方が話を聞きだせると言い、俺は砂橋を伴って外に出た。


「弾正、煙草休憩」


 砂橋がちょいちょいと俺のことを手招く。


「なんで俺のことを呼ぶんだ」

「ライター貸してよ」


 砂橋は俺が煙草を吸わないことを知っている。それなのに、わざわざ俺のことを煙草休憩に誘い、ライターを寄越せと言ってくることは、人目を避けて話がしたいのだろう。

 死体を発見した時の言外の会話を思い出す。


「仕方ないな」


 俺はコートのポケットに手を入れて、砂橋の背を追った。家の前には警察官が何人もいる中、家の裏手には誰もいなかった。一軒家には勝手口はなく、門以外は塀に囲まれている。


「それで?」


 俺が口出すと砂橋は煙草休憩も嘘ではなかったらしく、ポケットからライターと煙草を取り出した。ライターはどこにでも売っている安いライターだった。


 そのライターと共に取り出されたのは一枚の紙だった。

 定規で一本一本書かれたその文言は、一字一句とまではいかないが、どうしようもなく似ていた。


『星の下 真実を 御覧に入れましょう』


 俺は慌てて、鞄に入れていた小説のページを取り出した。


『月の下 真実を 御覧にいれましょう』


 月光館など必要ない。

 必要なのは、似ている部分だけだ。

 心臓が早鐘を打つ。


「砂橋。この紙はいったいどこにあったんだ」


 俺が熊岸刑事と一緒に駆けつけた時、砂橋はぶら下がった死体を見上げていた。砂橋が足を踏み入れたのは玄関だけ。そして、砂橋は、遺書らしきものを手にしており、それを熊岸刑事に渡していた。


「死体の下に、遺書と一緒に落ちてたよ」


 砂橋の言葉に俺は頭を抱えた。


 どう考えても、今回の事件も俺の小説に関わりがあるものだ。

 しかし、月光館での殺人の方法に首吊りはなかった。


 今までの事件だって、裸コートの男の凍死も小説の中では違う。湯舟にウィッグが浮かんでいた事件も、小説の中では頭皮ごと髪の毛を剥いで、死体がプールの中にあったというものだ。


 現実の事件と小説内での殺し方は被っていない。


 今回だって、月光館などなくても小説の模倣はできたのだ。

 死体がある場所に、この紙切れ一枚を置くだけでいい。


「二度あることは三度あるって感じかな。玄関から見える範囲には天窓はなかったと思うけど、星が見える場所ぐらいならありそうだし」

「……小説では部屋の天井がドーム型の天窓になっていて、そこから月を見上げることができる」


「あの短編の最後に探偵と友人がその部屋から月を見上げてたね」

「だから、あの話に出てくる手紙には月の下と書いたんだ。暗号もなにも関係ない、ただ真実を知る者がいるということを示すための道具だ」


 そして、物語は真実を知る者の死によって成立する。

 死んだ小野坂美友が何かの真実を知っているのか、それとも犯人が勝手に用意して事件現場に落としたのかは分からない。


 しかし、一つ分かるのは、また俺の小説の中身に似せて、殺人が起こったということだ。

 ここまできて、今回は自殺でしたなんてオチはないに決まっている。小野坂美友は何者かに殺されたのだ。


「人の小説でこんなことしやがって……」

「煙草いる?」

「いらない」


 一服でもして落ち着けと言いたいのだろうが、あいにく煙草は吸わないと決めているのだ。

 さすがに今回も砂橋に頼りっぱなしになるのはいかがなものだろうか。砂橋の手を借りずに事件を解決に導くことが俺にもできるのではないだろうか。

 そう思い、俺は手始めに砂橋に質問した。


「平田貴士は、いつ、この家に出入りしていたんだ?」


 砂橋は気だるげに煙を吐いた。


「仕事だから、秘密」


 出だしから躓いてしまった。


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