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事件遭遇

 砂橋たちの目的地は分からなかったが、三人が乗ったピンクの車が街はずれの市役所前の広い駐車場に停められた。駐車場の広さからして五十台は駐車することができるが、今はあまり停まっている車もないため、用もないのに停めても大丈夫だと思ったのだろう。


 三人は市役所を離れ、そのまま、道を歩いて行った。

 俺達もさっさと駐車場に車を停め、三人の後を追った。


 尾行には慣れているだろう熊岸刑事を先に歩かせていると、三人の話し声が少しだけ聞こえてきた。単語は所々聞こえるが、なんの会話をしているかは分からなかった。


「……パフェの話をしていないか?」

「ファミレス……パフェ……甘い……パフェの話だな」


 浮気や調査の話ではなく、パフェの話をするのも砂橋らしい。住宅がぽつぽつとあるこの路地で浮気調査の話などおいそれとできないだろう。


 三人がとある一軒家の前で立ち止まり、インターホンを花柄ワンピースの女性が押した。その家は熊岸刑事の家でもなく、花柄ワンピースの女性の家でもない。いったいこの三人はどういう用事があってこの家に来たのだろうと思っていると、俺と熊岸刑事とは反対側の道から杖をついた男性が歩いてきた。


 短く切りそろえた黒髪の角刈りに、杖。足腰が弱ったから杖を使っているというわけではなく、なんらかの事情により、杖を使っているのだろう。男の動きをよく見れば、左足を少し動かしにくそうにしている。


「……小野坂おのさか?」


 俺と同じように曲がり角で三人の様子を見ていた熊岸刑事が杖をついた男を見て、呟いた。花柄ワンピースの女性は思い出せなくとも、杖の男性は思い出せたらしい。

 どうやら、杖をついた小野坂という男性はこの家の住人らしく、花柄ワンピースの女性が一歩、彼に詰め寄って、なにかを質問したようだった。


 すると小野坂は一瞬固まった後、豪快に笑った。その笑い声とその後の言葉は俺と熊岸刑事にも聞こえた。


「先輩が? そんなわけがないじゃないですか! ここではなんですから、中にどうぞ」


 男は、家の門を開くと三人を敷地内に招き入れ、鍵を取り出して玄関の扉を開けた。


 途端に開かれた扉の向こうを見た女性二人が固まった。固まった二人の代わりに動いたのは二人の後ろにいた砂橋と扉を開けた小野寺だった。


美友みゆう!」


 一拍遅れて、花柄ワンピースの女性が叫び声をあげ、熊岸刑事の奥さんが地面に尻餅をつくと俺の隣にいたはずの熊岸刑事が奥さんに駆け寄った。


「水奈子っ」


 大丈夫かと聞く前に熊岸刑事も玄関扉に視線をやった。他の人間よりも遅れながら玄関前に到着した俺は、開かれた玄関扉から家の中を見て、ようやく状況が理解できた。


 玄関は吹き抜け。広い廊下の右側には二階へとあがる階段があり、二階から玄関を見下ろすことができる。手すりの部分があった。その手すりの一つからロープが伸び、その先には、一人の女性の死体があった。


 首が常時よりも伸びているように感じるのは骨が折れているからだろうか。その女性の生前は知らないが、確実に死んだ今の状態と生きていた時の見た目が違うことは想像できる。


 杖をついていた小野坂は玄関で勢い余って倒れたのか、廊下に杖が投げ出されていた。

 俺は投げ出された杖を手にとり、なんとか立ち上がろうと靴箱に手をついて立ち上がろうとする小野坂に杖を差し出した。彼は俺のことを知らないし、俺も彼のことを知らないが、この異常事態にまずなにを口にしていいのか分からないのか、彼は不明瞭な言葉を口から漏らしていた。


 その点、砂橋といえば、躾も礼儀もなく、靴のまま家にあがって死体の近くに立っていた。床が汚れているから靴のままあがるのも仕方ないかもしれない。


 その黒い革手袋に覆われた手には、一枚の紙があった。

 砂橋がこちらを振り返り、紙を見せる。


「遺書みたいだ」


 ばちりと砂橋と目があって、砂橋が目を丸くした。それもそうだ。砂橋は、俺と熊岸刑事が尾行していたなどとは夢にも思わないだろう。


「どうして尾行してたくせに姿を現しちゃってるの?」


 尾行はバレてたらしい。

 そして、砂橋が驚いているのはどうして尾行をしていたのに、それを台無しにするような行動をとっているのかということだった。

 はっきり言って、今はそんなことはどうでもいい。


 目の前にある死体から俺は目を逸らしつつ、砂橋に聞いた。


「これは……」


 俺の小説に関係する事件なのか?

 砂橋は俺が言わんとすることが分かってみたいで、口を弧の形に歪めた。



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