ミサさん
警察署につくと、タイミングがよかったのかちょうど聴き取りが終わった横内進一と横内歳三が警察署から出てきたところだった。
「進一さん、歳三さん」
浮かない顔をしている二人のことを砂橋が呼び止めた。
「あ、えっと、刑事さん……」
どうやら、歳三は砂橋のことを刑事の一人だと思ったらしい。この様子だと俺のことも刑事だと思っているのだろう。現場にいるだけで刑事だと思われてしまったのは初めてのことだ。
「警察の関係者だけど、僕ら、警察官じゃないよ」
「そうなんですか?」
「それなら、君たちはなんなんですか?」
素直に驚く歳三と警戒の色を示す進一。
砂橋は肩を竦めた。
「まぁまぁ、僕らのことは気にしないで。それより、ミサさんのことで話があるんだよ」
進一も歳三も「ミサさん?」と砂橋の言葉を鸚鵡返しにした。
亡くなった英二が女装をして出歩いていた際、そのように自分の名前を偽っていたということを二人とも知らないらしい。
「横内英二が女性の恰好をしていた時に名乗っていた名前だ」
俺が砂橋の言葉に補足すると、二人は目を丸くした。
警察署に来る道中で猫谷刑事に教えてもらったが、横内英二は横内ミサという名前でアパートの部屋を借りていた。誰でも入居可能の安アパートだったため、審査の基準がとても低く、偽名でも金さえ積めばアパートの部屋を借りることができたらしい。
「教会に何度もミサさんは顔を出していたみたいで、そこで由加里ちゃんって子に会ったんだ。その子はミサさんと親しくしていたみたいだけど、明後日引っ越すからその前にとあるものを渡したいって言ってたよ」
「まさか、その子に兄の死を……」
歳三の顔が青ざめる。悪い方向に物事を考えた歳三に「まさか!」と大袈裟に砂橋は首を振った。
「警察の関係者ではあるけど、僕はミサさんの関係者ではないからね。死んだとは言ってないよ。忙しくて会いに来ていないだけって言っておいたよ」
まさか、見知らぬ子どもに自分たちの兄弟の死を伝えたのかと考えた進一と歳三は砂橋の言葉を聞いて、胸を撫でおろした。
「僕からは言えないけど、ミサさんが亡くなったってその子に伝えるとしたら明日しかないって言いたかったんだよ。こういうのは家族から伝えるのがいいからね」
進一と歳三はお互いの顔を見た。
少女に兄弟の死を伝えるかどうか考えているのだろう。
「それだけ伝えたかっただけから」
砂橋は踵を返した。俺も慌てて、砂橋の後を追う。
「用は終わったのか」
「うん、終わったよ」
車に乗り込んだ砂橋は「あ」と声を出した。
「やっぱり終わってない。パンケーキ食べないと」
俺は大きなため息を吐いた。




