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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

薫視点 本編と短編

オレンジ色に焦がれて

作者: 理春

19歳の誕生日は、俺にとってとても大事な思い出の一つとなった。

夕陽と高校の時の制服を着てデートをした。

同棲しているけど待ち合わせをして、「お待たせ」と言って駅前に現れた彼は、俺なんかよりとてもその姿が似合っていて、すらっと着こなされた制服が、高校生の時の夕陽を蘇らせてくれていた。

会ったこともないし見たこともなかった高校生の夕陽が、カッコよくて思わず見惚れていると、思いついたように彼は言った。


「あ~えっと・・・・な、その制服どこの高校?暇だったら俺と遊びに行かない?」


似つかわしくないナンパのセリフを言う彼に、思わず吹き出してしまった。


「あはは!都内の〇〇高だよ。お兄さんは?」


「げぇ、有名な進学校じゃん。俺普通の地元の北高~知ってる?」


「・・・知らない、そういえば聞いたことなかったね・・・。」


「おいおい、もう他人の振りおしまいかい。薫からしたら下の下だよ偏差値。」


夕陽は俺の手を取って歩き出しながら、皮肉るように言った。


「けどさ、そっから俺と他の知り合い数名がT大行ったからさ、先生たちめっちゃ褒めてくれたよなぁ。」


「へぇ、そうなんだ。・・・ところでどこに向かおうとしてる?」


「ん?とりまゲーセン?学生らしいデートプランがいいんだろ?」


「うん。ゲーセン俺行ったことない。」


ワクワクしながら言うと、夕陽は驚いたように目を見開いた。


「マジで!?・・・マジかぁ・・・薫って俺が思ってるよりだいぶ行ったことない所多いよな・・・。てか普段から言ってくれりゃ連れて行くのに。」


「そう?じゃあ・・・元気な時はこれからたくさんデートしようね。」


背の高い彼を見上げると、いつもとは違うその制服姿にやっぱり少しドギマギしてしまう。


「うん、そうしよう。最近は外に居ても・・・あんま疲れない?どう?」


「ん~・・・あまりに人が多かったり騒がしかったりすると、気になりすぎて疲労が来たりするけど・・・今のところは大丈夫だよ。・・・あ・・・」


二人して歩き進めて駅近くのゲームセンターの前に着いて、俺は思わず立ち止った。


「どした?」


「俺・・・嘘ついた、ゲーセン来たことある。」


「あれ?そうなん?」


「うん・・・その・・・佐伯さんとデートしたときに、店先にあったUFOキャッチャーでぬいぐるみ獲ったんだ。」


「へぇ!薫が?」


「うん、ビギナーズラックだけどね。上手いこと6回?くらいで獲れたんだ。結構大きいサイズだったよ。」


「マジかぁすげぇじゃん。へぇ・・・・デートで女の子にぬいぐるみ獲ってあげるって・・・俺はそんなスマートなこと出来たことねぇなぁ・・・。」


夕陽は俺の手を引いて、店の中へとずんずん進んで行く。


「やっぱり獲れたらカッコイイものなの?」


「まぁ・・・カッコはつくよな。」


夕陽は台をいくつか真剣な表情で眺めながら、顎に手を置いて考え込む。


「ふふ・・・別にわざわざ獲ってくれなくていいんだよ?」


絡めた指でぎゅっと握り返すと、夕陽は子供らしい笑みを見せた。


「わかってるよ。こういうのは思い出作りだからな。ちょっとやそっとじゃ獲れねぇし、お金を無駄にすんのも違うしなぁ。何をやったら一番薫が楽しいかなって考えてたんだよ。」


「そっか・・・・。俺は・・・・夕陽と一緒だったら・・・」


周りにあるゲーム機が色んな音を立てていて、俺の声を見事にかき消していく。

夕陽はさっと屈んで俺の顔を覗き込んだ。


「なあに?」


少し伸びた前髪の隙間から覗いた彼の垂れ目が可愛くて、でも制服姿でかっこよくて・・・反射的に目を逸らす。


「何でもない」


「ふ・・・なぁんだよぉ・・・。」


夕陽はいつものように俺の頭を大事に撫でてデレデレする。

ふと彼の後ろ、少し離れたプリクラ機の前で、チラチラと女子高生がこちらを見ていた。


露骨にいちゃついてたわけではないけど・・・あんまり目立たない方がいいかな・・・


「夕陽、あっちのゲーム見たいな。」


「ん?おう。」


その後いくつかゲーム機を見て回りながら、シューティングゲームやレースゲーム、リズムゲームなどをプレイしてみた。

どれも難しくて一筋縄ではいかないけど、熱中してハマる人がいるのも納得するくらい楽しかった。

ゲーセンを出た後は、若い子たちが集まる街でウィンドウショッピングをしたり、時々服屋に立ち寄ったりした。

人は多かったけど、珍しくしんどくなることもなかったし、人格が入れ替わることもない。

ご機嫌に手を繋いで歩いていると、夕陽はふと立ち止まった。


「どうしたの?」


「ん~・・・・薫はクレープとか好きかな~?って・・・」


夕陽は少し列が出来ていた屋台のクレープに目がくらんでいた。


「ふふ・・・好きなのは夕陽なんじゃないの?」


「ん~・・・まぁ・・・」


何とも言えない可愛い反応をする夕陽の手を引いて、二人で列に並ぶことにした。

すると最後尾に並ぶ直前、目の前にパッと男性が俺を覗き込むように立った。


「柊じゃね?・・・やっぱそうじゃん!は?お前何?留年でもしたん?」


いかにもチャラチャラした服装をした男性が、嘲笑を浮かべて言った。

俺たちは二人して呆気に取られて一瞬固まった。


「・・・・えっと・・・・どちら様ですか?」


「あ?高校の時お前と同じクラスだった佐藤だけど。覚えてねぇふり?相変わらず制服着てても女みてぇだなお前。」


夕陽が眼中にないのか、俺より少し背が高いそいつは、あろうことか気安く俺の頭を掴もうとした。

咄嗟に振り払おうと手を挙げると、それより先に夕陽が横からガシ!と掴んだ。


「ちょっとぉ・・・触んないで。」


「あ?」


「・・・知り合い程度だったみたいだけど、何の用なの?用ないなら絡まないでくれる?」


「あぁ?離せよ!」


夕陽がパッと掴んだ腕を離すと、彼は俺に向けて薄ら笑いを浮かべた。


「あ~・・・あれか、やっぱお前男が好きなわけか。年下たぶらかしてんじゃん。つーか知らないなら可哀想だな。おい、こいつお前のことそういう目で見てるぞ?」


俺が呆れて何を言い返そうか思案していると、夕陽はため息をついた。


「ひがんでんの?俺は君と同い年だし、薫は優秀なんだから留年したわけじゃないよ。二人で制服デート楽しんでるだけ。成人年齢にもなって、小学生のいじめっ子みたいな絡み方カッコ悪いよ?・・・さ、薫行こ。」


「ああ・・うん・・・」


呆れて言い放った夕陽は俺の腰に手を回して、クレープの列に並んだ。

同級生だったらしいそいつは睨みをきかせて何かぶつぶつ言っていたけど、特に気にするまでもなかった。


「ありがとう夕陽、あんなよくわかんないモブのために言い返してくれて。」


「ふふ・・・哀れ哀れ・・・」


夕陽は眉を下げてため息をつき、列を進みながら俺の腰を抱いた。

楽しそうにクレープを待つ女性たちに紛れて、無事美味しそうなクリームにまみれたそれをゲットした。

近くにあったベンチに腰を据えて、いざクレープにかじりついて頬張る夕陽が可愛くてニヤニヤしていたら、俺の口元についていたクリームをさっと拭って食べられた。


「・・・夕陽は女の子とデートしてた時もそういうことしたの?」


高校生だった頃の夕陽が知りたくて尋ねると、彼は真顔になって視線を泳がせた。


「ん~・・・あんま覚えてねぇなぁ。外でデートすることも結構あったけど、嫌な別れ方しちゃったからさぁ・・・ぜ~んぶ忘れよ!って思い出は記憶から消去してきたわ。」


またあむっと一口かじる彼をじっと見て、それを聞いていいものかどうか考えた。


「・・・・嫌な別れ方って・・・?」


「・・・つまんねぇ話だぞ?」


目の前でたくさんの人が通り過ぎる中では、少し離れた所にいるストリートミュージシャンや、たむろする若者たちがお店になだれ込んで行く。

けど関係のない情報は一切どうでもよくて、俺にはずっと制服姿のカッコイイ夕陽しか眼中になかった。


「話したくないことなら詮索しないけど、俺さ・・・何だか高校生の時の夕陽に会えたみたいで浮かれてて・・・色んなこと何でも知りたくて・・・夕陽の話たくさん聞きたいんだよ。」


空いた左手でぎゅっと彼の手を掴むと、少し冷たかったので温めるように撫でた。

夕陽はいつもの安心した笑顔を見せて、その指を絡めて握り返す。


「ふ・・・薫にそんなこと言われたら話すしかないけど・・・二秒で説明終わるよ。浮気されて別れた。以上。」


夕陽はニヤリと口元を持ち上げて、また一口美味しそうにクレープを食べた。


「浮気・・・された?夕陽が?」


「おん。」


何でもない様子で夕陽はフルーツとクリームを頬張りながら、もぐもぐする。可愛い。

俺もつられてもう一口食べたけど、何とも解せずにモヤモヤした。


「どうして?」


不躾にもそう投げかけた。

夕陽は首を傾げて遠くを見ながら言った。


「さぁ・・・何でだろうなぁ。特にそんな理由があってのことじゃないかもな。まぁどういう気持ちでって言うのは詳しく聞かなかったから、今になってわかることじゃないかな。つーか俺にとってはされた理由はどうでもよくて、された事実がショックだったから、もう無理って思っちゃったな。まぁ元々そこまで好きじゃなかったのかもしれないけど・・・。だって・・・もし薫が浮気したとしてもさ、俺は絶対別れたくねぇもん・・・。」


「ありえないよ。」


「・・・ん?何が?」


「・・・俺が浮気するってこと。後・・・ううん、いいや。ごめんね?嫌なこと話させて。」


「今となっちゃ嫌なことでも何でもねぇよ。薫と一緒にいられるなら別れて正解だし、些細なことだわ。」


夕陽は最後の一口をぽいっと口に押し込んでもぐもぐした。

正直夕陽を傷つけたであろうその人が許せないけど、俺がモヤモヤイライラしててもしょうがない。

彼が今幸せだと感じてくれてるなら結構だ。

そう言い聞かせて俺もクレープにかじりついた。


食べ終わった後、また街に繰り出して、二人で洋服を見たり靴を見たりした。

途中休憩がてらカフェに入って、小さなコーヒー片手に他愛ない話をして、夕飯は何にしようかなんて意見を出し合った。


「なぁ・・・薫・・・」


「ん?」


外が見える窓際に二人並んで座って、夕陽はまた一口ゆっくりコーヒーを飲んで言った。


「あ~のさ・・・・その・・・・・行きたい所あんだけどさ・・・・」


「どこ?」


彼は視線を左右に動かしながら言いづらそうにして、やっと目が合ったと思うと、何とも気まずそうに口を開いた。


「・・・・・ラブホ・・・」


「・・・・・・。」


叱られるだろうなぁみたいな顔をしながら、夕陽は俺の返事を待っていた。


「・・・・うちじゃダメなの?」


俺の中では、家に帰ってから存分にイチャイチャする予定だった。


「薫と・・・外でデートしてたら、そのままの流れでラブホとかありだなぁって思っちゃって・・・」


次第に堪えきれない笑みを噛み殺すように表情が変わる夕陽は、恥ずかしそうに視線を逸らした。


「いやでも・・・今日は薫の誕生日だし、薫の意見を優先したいし・・・てかそうだ、夕飯は焼肉って話だったか・・・食べ放題行って、ケーキ取りに行くんだもんな。」


「・・・ラブホテルって何時間くらい入るの?」


「んえ・・・まぁ・・・2、3時間くらい休憩で入ったら~・・・6千円くらいとか?」


結構するんだな・・・


俺が黙って考えると、思考を読み取ったように夕陽は付け加えた。


「ちなみに、場所によってはテレビ観れたりカラオケが歌い放題だったり、大き目な風呂に入れるし、大人のおもちゃが有料であったりする。あ、後コスプレの衣装を無料で貸し出してくれたり。」


「へぇ・・・随分詳しいんだねぇ。」


少し冷めた目で見ると、夕陽は口元をひきつらせた。


「いや・・・・別に・・・ゆって俺は3回くらいしか利用したことねぇよ?」


「ふぅん・・・?」


「・・・・墓穴掘ったじゃぁん・・・」


テーブルに突っ伏して項垂れる夕陽が可愛くて、思わず笑みが漏れた。


「ふふ・・・別に何も責めてるわけじゃないよ?知られたくないことでもないでしょ?でも今日はそれなりにお金使ったしさ、またの機会にしない?夕陽の誕生日とか・・・」


「うん、いつでもいい。薫と行けるなら。」


気を取り直して飼い犬のように聞き訳のいい彼は、また笑顔になって甘えるように顔を寄せた。

その後少し早めにケーキを取りに行って、スーパーに寄って買い出しして、結局夕飯は家で食べることにした。

焼肉食べ放題もいいけど、俺は夕陽と一緒にキッチンに立って料理をするのが好きだ。

何気ない日常の一ページであって、幸せな時間で、何より彼が楽しそうに俺の手伝いをしてくれることが嬉しかった。

どこにいても夕陽は俺を幸せにしてくれる。

家に帰って夕飯の下ごしらえを済ませて、また彼と仲良くソファに腰かけると、制服のシャツとネクタイ姿の夕陽がニヤニヤしながら俺の頭を撫でた。


「・・・なに?」


「ん~~?可愛いわぁ・・・。いや・・・てか男子の制服姿だと、カッコイイって言われる方が嬉しい?」


俺自身もニヤニヤを堪えているのに、そんなどうでもいい質問について考えられやしなかった。


「夕陽の方が何倍もカッコイイし、俺はどう思われたいとかないよ。」


苦笑いを落とす彼に積極的に抱き着いてキスした。

受け止めながらどんどん深くなって夢中になると、夕陽は俺のシャツのボタンを外してベルトに手をかけた。

けど今日は好きなようにされるより、主導権を握りたかったので、手をどけて夕陽のベルトを淡々と外した。


「あれ~?今日は薫が攻める日?」


「・・・俺の誕生日だから、夕陽は俺に食べられるんだよ?」


「そうだったな。いいよ~好きにして~♡」


「ふふ、一生デレデレしてるね俺ら。」


甘い時間が砂時計みたいにどんどん降り注いで、気持ちよく溺れていく感覚の中、二人だけの世界で満たされていくのは、閉じ込められたその場所でいつか息が出来なくなるだろうか。

夕陽が思っている以上に彼を溺愛していて、きっと夕陽も俺が思っている以上に、執着するような愛情を持っているだろうと思う。

思いやりながら我儘が発動しそうで、束縛したくないけど甘く縛っていてほしくて、葛藤しながら数か月を過ごしていた。

自分だけをずっと見ていてほしくて、その可愛い瞳をもっともっと独占したくて、体を重ねている時はそんな気持ちをぶつけるように愛し合っていた。

思考回路が焼き切れる頃には、二人してぐったりベッドに横になって、天井を見上げたまま口を開いた。


「ねぇ夕陽・・・」


「ん~?」


「知ってた?カップルって付き合い始めの3か月はラブラブなんだって。」


「・・・あ~・・・なんかまぁ聞いたことはあるな。」


「・・・俺たちちょうど3か月くらいだし、これからは一緒に居るのが当たり前だと思うようになって、喧嘩したり倦怠期に入ったりするのかな。」


「倦怠期か~・・・。俺半年以上付き合ってたことあるけど、特にそういうのはなかったよ。」


「それは夕陽が優しいからいつも気を遣ったり、譲歩してあげてたんじゃない?」


「ん~・・・どうだろうなぁ・・・。浮気された以外は、嫌なこととかなかったぜ?」


「・・・・・そうなんだ。・・・・どっちにしろ夕陽がいるのに浮気なんてした女はクソだよ。」


「あはは!言うねぇ・・・。まぁそうだけどな。薫は俺を捨てたりしないよな?」


「・・・え、結果的に捨てられたの?」


「ん・・・いや、許してくれって言われたけど、無理だったから別れよって俺が言った感じかな。」


「そうなんだ。俺は・・・・捨てる捨てないとかそんな風に考えたことないよ。夕陽は物じゃないもん。一緒に生きていたいんだよ。」


「・・・一緒に生きていくだけならさ、恋人じゃなくてただの友達、同居人って感じに戻ろう?とか言われちゃいそうじゃん。」


「誰が言うのさ」


「薫がぁ・・・・」


「俺ってそんなに信用ないの?」


ダラっと二人して仰向けになっていた体を起こして、床ドンするように夕陽を見下ろした。

愛おしそうに俺の頬に触れる彼の瞳をじっと覗き込む。


「夕陽が冗談半分でそういうこと言ってるのは百も承知だけど・・・今更掌返して別れようなんて言わないよ。どんなことがあっても・・・例え急に大病を患って余命宣告されても、俺は別れてなんて言わないよ。俺たちは一蓮托生でしょ?夕陽のためなら人生をかけるし、自分が死ぬことになりそうなら俺は・・・一緒に死んでって言うつもりだよ。それとも・・・・どちらかが移り気を見せたら、簡単に諦められるような関係なの?」


少しの意地悪を入れてそう言った。


「・・・んなわけ・・・もちろん冗談半分で色々言ってたよ。薫が否定してくれるのが嬉しくて甘えてんだよ、ごめんな?俺は薫を信じてるし、信じてくれてるから成り立つ会話だと思ってさ。」


夕陽はそっと体を起こして俺の首元に吸い付いて、ついでに甘噛みして痕をつけた。

苦笑いを返して、俺もお返しに同じことをした。


「そうだ・・・嫌がってたけど・・・やっぱり夕陽のお尻開発しちゃおっかな・・・」


「ええっ!?」


意地悪に笑みを見せると、夕陽は悪い冗談に騙されたという顔をした。


「ったく・・・冗談かどうかわかんねぇよ・・・」


「もちろん本気だよ?・・・大丈夫だよ、慣れたらそこまで悪いもんでもないよ?」


するりと彼の太ももに手を這わせると、たじろいでお風呂を嫌がる大型犬みたいな目をする。


「んえ~?俺は知りたくないなぁそういう気持ちよさはぁ・・・。」


「・・・自分より大きい夕陽が、俺の指だけでよがったり喘いでる姿見たいなぁ?」


「あれぇ?薫の隠れたサディストっぷりが本性出したなぁ・・・」


その後も困りながら拒否する彼と攻防を繰り返して、結局少しだけ思い通りにさせてくれたけど、終始苦い顔をしていたので勘弁してあげた。


その後夕飯を済ませて、頼んで買ってきたケーキを二人で切り分けて、立ててくれた蝋燭を吹き消した。


「おめでとう薫。・・・・ほら、プレゼント~。」


夕陽ははにかみながら包装された袋を手渡してくれた。


「ありがとう。何だろ・・・開けるね?」


照れくさそうに頷く彼の返事を待たず、結ばれたリボンを手早く解いた。

そこには綺麗に畳まれたシャツが入っていた。


「わぁ!お洒落だね・・・」


色違いについたボタンが可愛くて、男性用だろうけど少しタイト目で、体のラインがハッキリわかるような白いシャツ。

襟元には小さく、青いバラを模した刺繍が両方に入っていた。


「気に入った~?」


抱き着きながら尋ねる夕陽に、背伸びしてキスした。


「もちろん。シンプルだけどお洒落なデザインだね。ジャケットでもコートでも、カーディガンでも合わせやすそうだし。」


「そうなんだよ!んでさぁ・・・色々見てたら薫に似合いそうなカーディガンもあったし・・・ダブルボタンのコートもそれに合いそうなお洒落なのがあったんだよぉ・・・やっぱ奮発してそっちも買えばよかったなぁ・・・。」


「ふふ・・・いいんだよ。服は一期一会かもしれないけど、そのうちすぐに暖かくなってくるから、コートはまた来年一緒に見に行こ?」


「そだな・・・。ふふ・・・あ~~幸せ。」


夕陽はまた抱き着いてあちこちにキスを落としながら、俺の匂いをくんくん嗅いだ。


「夕陽ありがとう・・・今までで一番幸せな誕生日だよ。」


「そ~お~?やったぁ・・・・俺ばっかり幸せになっちゃってると思ってたぁ。」


「そんなわけないじゃん。」


「・・・ふ・・・また否定してほしくて甘えたこと言っちゃったわ・・・。」


夕陽がくれたプレゼントをその後着こなして見せて、制服の時より喜んでくれたのでそれはそれで嬉しかった。

俺はと言うと・・・夕陽の制服姿があまりにかっこよかったので、改めてキチンとブレザーを着てもらって写真を撮らせてもらった。


「薫、ツーショット撮ろ?」


「え・・・恥ずかしいよ・・・」


「え~?待ち受けにしたいんですけど~。」


「やだよ!誰かに見られるよ?」


「え?見せびらかしたくて撮るんだけど?」


きっと夕陽は春になって大学に行ってから、友人たちに見せびらかすことを楽しみにしている。

そんなソワソワウキウキした様子の夕陽が可愛くて、しょうがなく要求にこたえた。


翌朝、夕陽がまだ寝ている間に、俺はパソコンを開いた。


2月12日

去年までなら、特に何でもない日だった。

生まれた日なのに、まともに祝ってもらった記憶はなかった。

でもね・・・本当に世界一幸せだと思って過ごしてたんだよ。


これは夕陽に宛てた手紙。

俺が生きている証。


付き合うことになってからの3か月、本当に濃い時間を一緒に過ごしてたね。

色んなことがあったね。

沢山迷惑かけたし、心配かけたし、混乱させてしまったと思う。

俺は俺自身がわからなくなって、やっぱり夕陽と一緒にいるべきじゃないんじゃないかとまで思ってた。

でも俺は、夕陽が居なくちゃダメで・・・夕陽じゃなきゃダメなんだ。だってもう愛してしまったから。

夕陽が側で笑ってくれてると幸せで・・・何かが上手くいかなくても、その笑顔だけで全て報われたような気持ちになるんだ。


長い長い時間の先にある俺の夢は

おじいちゃんになるまで夕陽と一緒にいることだよ。

目が見えなくなっても、耳が聞こえなくなっても、動けなくなったとしても、夕陽と一緒にいられるなら幸せだよ。

例えお互いがお互いのことを忘れても、その時はまた友達から始めようね。

俺は何度でも夕陽を好きになるよ。


例え日本で同性婚が認められなくても、男同士で子供を持てなくても、それでもいいんだ。

夕陽は俺のパートナーとして、海外で結婚しようとか、養子をもらって子供を育てようとか、出来る限りのことを叶えてくれようとしているけど、俺はね・・・そんな風に考えてくれる夕陽が大好きだから

手に入るものが多くなくても、一緒に居られるならそれでいいんだよ。


どれだけ「大好き」とか「愛してる」を言えば、それ以上の気持ちが伝わるんだろうってずっと考えてる。

拙い言葉を並べてるだけじゃ、ただの駄文で・・・何も上手く伝わってない気さえするんだ。

でも一つ気付いたんだ。

伝わり切れなくてもどかしいから、人間はこうやって言葉を紡いだり、絵を描いたり、曲を作ったり、歌を歌ったり、キスをしたり、体を重ねたりするんだね。

19歳になった自分は、まだこんな幼いことにしか気づけないよ。

きっと夕陽はもっともっと俺より精神年齢が高いから、違う考えを持ってるのかもしれないね。

俺は表現する才能なんてほとんどないから、思い出に残る日を過ごしたら、こうして夕陽に宛てて文章を書くことにしたよ。


夕陽、愛してる。

毎日一緒に居てくれてありがとう。

優しくて愛おしくて、温かくて嫋やかな、綺麗なオレンジ色の夕暮れを見ると、本当に夕陽にピッタリな名前だなぁって思うんだ。

夕陽の誕生日が来たら、今度は同じくらい特別な日にさせてね。

夕陽が毎日、幸せな夢を見れますように。



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