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一人多い 

作者: 英-U1

はじめまして英U-1(はなぶさゆういち)と申します。

実体験を短編小説にまとめました。

皆様に楽しんで頂けますと幸いです

どうぞよろしくお願いいたします。

その①「はじまり」


この話は大学に入学してから暫く経ち、


講義やサークルメンバーとの交流にも慣れた時期あたりに起こった実体験のお話です。


きっかけは教室の友人達と昼食を食べに喫茶店へ行った事が始まりでした。


当時は仲の良い友人達同士で大学付近の飲食店で美味しいお店を探して回るのが僕らの中で流行っていまして。


「どこそこのランチは安くてボリュームがあって良い」


とか


「あそこのラーメン屋で最近始まった日がわりライス定食が美味い」


など


私が通った校舎のあったO区K駅前は学生の街ということもあり


飲食店の数が目を見張るほど多かったのも相まって


ちょっとしたグルメリポーター気分でO区の商店街を練り歩いたものです。


とある日の事、午前の講義が終わり昼食をとろうと思い、とある喫茶店へと入りました。


そのお店は創業50年は経とうかという老舗の喫茶店で


戦後戻ってきた旦那さんのお父さんが開かれたというお店でした。


今となっては絶滅危惧種となってしまった喫煙とコーヒーを楽しむ


大人の空間といったクラシックなタイプの内装で


そのお店はお父さんからお店を引き継いだ50代の旦那さんがコーヒーを淹れ料理を作り、


お母さんにあたる80半ば過ぎの女将さんが給仕と会計をするという家族経営のお店でした。


店内は戦後からのお店ということもあり、なんちゃってではない本格的なモダンな雰囲気に包まれ


挽きたてのコーヒー豆の香りや布張りのチェアに染み付いたタバコの煙の香りが漂い


東京オリンピックを数年後に控えたO区K駅付近の再開発ブーム吹き荒れる商店街の中で


唯一そのお店だけ昭和の時代に取り残されてしまったような不思議な感覚を味わえる…そんなお店でした。


僕は学友2人と3名でお店に入りますと


女将さんと旦那さんが出迎えてくれます。


僕達は4人席の机に案内され席につきました。


少しくたびれた感じのあるメニューを開くと


カレーにコーンスープとワンドリンクがつく


”ランチセット650円”


という文字が目に留まります。


カレーもコーヒーも好物でしたし


ライスの大盛りが+100円というのも食べ盛りだった私からすれば嬉しいチョイスです。


私達は迷わずランチセットの大盛りを頼むことにしました。


丁度その時期は夏季休暇を目前に控えており、


学期末に学校へ提出する予定の作品制作のピークを迎えていました。


各個人が5分弱の短編映像作品を作り、それをつなぎ合わせ一つの作品にまとめる


という内容だったのですが、我々3人組は撮影した各個人が作成した短編映像を


全てつなげるという編集作業を担当することになり、作業の締めくくりに取り掛かっていました。


詰め作業前に軽い打合せと思い食事に来ておりましたので


その話で少し盛り上がり始めたところで


「お水をお持ちしました~」


と女将さんに声をかけられました。


お歳を召しているためか声を張ることができないらしく


私達は女将さんに気づくのが遅れてしまいました。


女将さんは腰が良くないのか


地方に住む農家のご老人のように90度に曲がった腰をいわせながら


水が並々と注がれたコップをお盆に乗せています。


女将さんも働くにしては、おそらく体力的もギリギリかな?


といった具合かと失礼ながら思ってしまっていましたが


このお店のお仕事をすることが女将さんにとって健康と元気の秘訣なのでしょう。


ただ筋力は衰えてしまっているようで


お水の入ったコップとピッチャーを乗せたトレーがプルプルと震えてしまっています。


「わあ、すいません気づかなくて!ありがとうございます!」


と私達は女将さんからお水を一つずつ預かりますと


女将さんはビニールでパッケージされた


ウェットタイプのお手拭きを私達の前においてくれました。


「いえいえ、ランチセットはもう少々おまちくださいね」


と女将さんは空席となっている私の目の前の席に


コトリ…。と、お水入りのコップとお手拭きをもう一つづつ置きました。


「あら、もう一人のお連れさんはおトイレかしら?」


女将さんの不思議な問いかけに私達は顔を見合わせました。


その②「疑惑」


それからというもの喫茶店の出来事を皮切りに


不思議な事が立て続けに起こるようになりました。


数人で食事に行けばお水のコップが一つ多いのです


お店の人が一つ多く用意してしまったことに気づくこともあれば


「もう御一方のご注文はいかがいたしますか?」


と聞かれたこともあるほどです。


始めは私も友人たちも


「まあそんな事もあるよね」


「女将さんだってお歳だし」


と失礼な事を考えていましたが


そんな事が続くと次第に不気味に思うようになってしまいました。


私達には見えない誰かが常に一人いるように店員さんがふるまう事が多いのです。


結局のところ実害こそないものの言いようのない不安や恐怖のようなものを感じていまい


次第に集団で食事に行くという機会も減ってしまったように思います。


そしてなんやかんやと学期末の課題提出が無事完了し


ひと月に及ぶ夏季休暇がやってきました。


いうに及ばず、その年の夏は上京して初めての夏季休暇です。


友人達は東京で夏休みを過ごす者や、地元に帰省する者など


思い思いの夏休みを過ごしていました。


かくいう私は新聞奨学生をしていたため


3日ほどの夏季連休と月のシフト休みを組み合わせ、


まとまった休みを取って帰省する算段をしていました。


それとは別に私はテレビゲームにドはまりし、


まんじりとも進まない課題を消化しながらダラダラと過ごしていたある日


とある映画を見に行くことにしました。


蝙蝠をモチーフにしたヒーローが登場する映画です。


正直、事前情報もなく、サスペンス&アクション映画を見に行ったら


蝙蝠をモチーフにしたヒーロー映画だったわけですが


そこでちょっとした事件が起こりました。


その日は日曜日、午後一で翌日のチラシの準備をしてしまえばあとは一日お休みです。


作業を終えた私は川崎駅にある東邦シネマズに向かいました。


このお話を読んでいただいている皆さんは映画館と言えばお楽しみは何でしょうか?


私は特にバターオイルをたっぷりとトッピングしたポップコーンと


コーラを映画を見ながら頂くのが大好きなので


映画を見る際にはよく購入して食べていました。


いつものように売店コーナーに並んでいました。


その売店はお客が横並びで何列かの列を作り順番待ちをするタイプのお店で


我々お客はなんとなく空いている売店の列の最後尾につきます。


丁度左隣に自分と同い年くらいのカップルが並んでいたのをなぜか鮮明に覚えています。


暫くすると自分の順番になり


カウンターに向かい、女性の店員さんに


「ポップコーンセットをひとつ」


と注文しました。


すると店員さんが怪訝そうな顔をします


「おひとつですか?」


と首を傾げ人差し指を立て一人分か?と確認するようなジェスチャーをとります。


ん?


よく聞こえなかったのでしょうか?


もう一度店員さんに注文を伝えます。


「はい、ポップコーンセットをひとつ」


「えっ。おひとつ?」


どうにも会話がかみ合いません


「えっと、ポップコーンセットを本当におひとつでよろしいですか?」


と、むしろ店員さんに聞き返されてしまいました。


私は何を隠そう一人で映画を見に行っていますし


友人と合流しているわけではありませんでした。


加えて二人分や3人分を注文するほど食いしん坊ではありませんでしたので


?????と脳裏にクエスチョンマークが浮かびます。


もしかして私の横に立っていたカップルと一緒に来たと思われてる?


店員さんの意図がわからず混乱してしまいましたが


店員さんの話に合わせて無理に多く頼む必要もありませんでしたので


「はい、そんなに食べられないし一人なのでポップコーンセット1つで大丈夫です」


と僕も人差し指を一本たてて店員さんへジェスチャーを返します。


「あぁー…。し…失礼しました、おひとつですね」


と店員さんは怪訝な様子で会計を済ませてくれました。


始めは店員さんにおちょくられているのかとも思いましたが


会計の最中、僕と目を合わせないようにしていた店員さんがやけに印象的でした。


いったい店員さんは僕以外に何が見えていたのでしょうか?


③「確信」


そんな不思議で些細な事件が積み重なってはいたのですが


夏休みが終わり無事に新学期が始まりました。


自主退学して永遠の夏休みをとってしまった人間が何人かいたり


休み中に金髪にしてきた友人がいたりと


皆、普通の夏休みあけを迎えていました。


それはその日の昼休みの時の話です。


学食で学友と昼食をとりながら


夏休みに起こった映画館での珍事の話をしていると、


同級生の女子から声をかけられました。


何かと思ったのですが


「夏休み中に川崎で君を見かけたのだけれども、一緒にいた女性は誰?」


という物でした。


童貞ぞろいの学友たちから殺されかけましたが


私には一切身に覚えがありませんでした。


「人違いじゃない?」


としばらく彼女と話をしていましたが


日付も時間も確かに私は川崎に出かけていた日でした。


その日は、例の映画に出かけた日だったのです。


一緒に食事をしていた私と友人達の中で今まであった不思議な出来事がすべて繋がり


私達はゾっとしました。


あの喫茶店からちょくちょくあるあの不可思議な出来事


""一つ多い""


目に見えないもう一人のためのお水は


僕が連れていた見えない女性のために置かれた物だったのです。


一緒に食事の席に居た女性は一体何者だったのでしょうか?


そのあともちょくちょく一つ多くお水がおかれることはありましたが


目撃も実害もないまま


次第にその不可思議な現象はなくなってしまいました。


彼女は今でも私と一緒に居るのでしょうか?


如何でしたでしょうか?

宜しければ感想や評価など頂けると嬉しいです。

描きためておらず空いた時間に少しづつ書いています。

また更新できましたらなにとぞよろしくお願いいたします。

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