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三十三話 痛みの記憶③

 体を頑丈にするにはどうするべきか。

 その問いに一番多い解答は、筋肉、及び身体を鍛える、というものだろう。

 確かに、鍛えれば基本、人は頑丈な身体になる。だからこそ、剣士や戦士といった者たちは自分の体を鍛えるために、日々精進しているわけだ。

 けれど、フールの場合は違う。

 彼女は自らの能力によって、身体を頑丈にさせている。そして、その能力自体を強化するには、身体を頑丈にしなければならない状態を作らなければならない。

 それらから導き出しされた結論。


 それは、フールに対し、拷問を与える、というものだった。


『――、―――、がっ―――』


 これでもかという激痛を、しかしフールは絶叫せずに堪えていた。


 最初は棍棒だった。


 棍棒で何をするのか。そんなものは単純明快。

 滅多打ちである。


 複数の男たちからの暴行。しかも、それはただの棍棒ではない。特殊な魔術がかけられ、強化されている棍棒。通常、これを一振りしただけで、人間は無論、魔物の頭蓋骨は一発は粉砕されてしまう。

 そんなもので、フールは叩かれていた。当然、手加減はない。全力のフルスイングを毎日毎日、それこそ千回など優に越す程の階数を手足や胴体、そして頭部など。叩かれなかった場所などほとんどない。


 しかし、フールは死ななかった。

 通常なら、当の昔に死んでいる。それこそ、最初の一発で死ぬか、運が良くても五発もまともに食らえばあの世行だ。それを、防御の姿勢もとらず、縄で吊るされた状態で受けながら生きていたとなれば、最早常人のそれを超えている。

 とはいえ、当時の彼女はまだ魔女の成りたて。そのため、力もあまり強くなかったがために、強化された棍棒でも傷ついてはいた。

 けれど、鍛冶師にとっては想定外だったらしい。


『これだけ叩かれて、未だ普通に呼吸ができている。想像以上に君は頑丈そうだ』


 ボロ雑巾状態になっているフールを見上げながら、笑みを浮かべて呟く。

 彼にとって、こんな光景は珍しくなく、だからこそ、自分の想像以上に強固なフールに興味を抱いていた。


 そして、だからこそ、なのだろう。

 彼は、もっともっと苛烈な拷問を加えてきた。


『――――――――ッ、』


 次にやってきたのは、炎の地獄。

 魔術による炎で体を焼く。それによって、物理的攻撃だけではなく、魔術的攻撃にも耐性を加えようとしたわけだ。

 これがもし、単なる硬化ならば、きっと彼女は死んでいただろう。

 だが、幸か不幸か……いや、この場合は、完全に後者か。フールの力は頑丈。そして、その根本たる願いは傷つくことへの拒絶。

 だからこそ、彼女は炎の攻撃を受けても、致命的になる火傷を負うことはなかった。


 しかし、だからといって、無敵な状態であるわけではない。

 確かに余計な火傷を負うことはないが、しかし炎に焼かれるという事実はかえられず、だからこそ、彼女は獄炎に燃やされる感覚に襲われていたのだった。


 服は焼け、その肌がほとんど露出しているにも関わらず、しかし彼女は焼け死んでいない。

 そして、それがまた、鍛冶師に対し、興味を持たせてしまうハメになる。


『これはこれは。魔術の攻撃に対しても耐性があるのか……ならば、今度は物理と魔術、両方の側面で試してみるとしよう。それこそ、本物の剣を作るように。鉄を溶かし、鉄を叩く。そうすることで、剣はより強固になるからね』


 そこからは、燃やされ、叩かれの連続だった。


 もはやそこにあるのは人ではなく、単なるモノ。呼吸はしているし、脈もある。意識もあるが、しかしだからといって生きているわけではない。単に死んでいないだけ。それだけだ。身動きも取れず、どうせ燃やすのだからと服すら用意されていない。裸のまま、吊るされ、燃やされ、叩かれる毎日。無論、糞尿はそこら中に巻き散らかされており、もはやそれを羞恥だと思う心すら、叩き壊されていた。


 死にたい。


 正直、何度もそう思った。

 こんな地獄を味わうくらいなら、いっそのこと死んだ方がマシだ……そう考えるのは当然の結果だと言えるだろう。

 だが、しかし、男はそれを許さなかった。


 叩かれ、燃やされながらも、しかし一定の時間がくれば、彼女は魔術によって傷を癒されてしまう。そして何より、絶妙なタイミングで拷問は終わるので、痛めつけられながら死ぬということは無かった。

 ならば食事を拒否すれば、と思ったのだが、それも無駄だった。魔術あるいはスキルにとって、強制的に栄養を送られるために、餓死するということもできない。

 となれば、いっそのこと、舌をかみちぎれば、と考えるものの、さるぐつわをされており、それもできない状態。

 他に色々と自殺を考えてみたものの、鍛冶師はまるでそれを予見していたかのように、それを防いでいった。


 そして、自殺しそこねた時はいつも。


『またか。勝手に死のうとするなんて……ダメじゃないか。君は大事な実験体なんだから。けど、仕方ない。これも大事な「躾」だ。今日はいつもの倍以上の痛みをともなう拷問にしよう』


 そう言って。

 通常よりも激しい拷問を受け、フールは絶叫をあげることになるのだった。

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