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二十九話 荒療治はいつだって危険と隣り合わせである

すみません!! 諸事情で、一日投稿遅れました!!

 ギンに言われ、シドロ達は別の部屋へと案内されていた。

 そこは、最初に入った部屋と同じく奇妙な作りになっており、特に気になるのが、六つの柱がまるで円を描くように設置させているというところだろうか。

 その柱自体には、これまたシドロ達では読めない文字が彫り込まれてある。


「君が、本来の魔剣としての能力を開花させるには、君自身の心の問題をどうにかしなくてはいけない。本当ならば、それは時間をかけて、ゆっくりとやっていくものだが、いかんせん時間がない。そのため、少々荒療治をさせてもらう」

「荒療治、ですか。そのために、ここに連れてきたと」

「ああ。ここに六つの柱があるだろう? これは特殊な道具でね。対象人物の深層心理に意識を入れていく装置だ。ようは、他人が対象の心の中に意識を入れていき、その心の中を暴いていくものなんだが……今回は彼女自身の意識を、深層心理に落としていくように扱う。まぁ、ようするに、自分のトラウマをもう一度見つめなおし、それを克服させる、ということだよ」


 説明をしてくれるギンであったが、シドロにはその内容がイマイチ理解できていなかった。


「トラウマを見つめなおし、克服させるって、そりゃどういう……」

「そのままの意味さ。彼女にはトラウマになっているという過去を追体験してもらう。それを乗り越えることで、トラウマを払拭するほかない」


 過去を追体験。

 その言葉に、シドロは待ったをかけた。


「っ、ちょっと待て。それ本気で言ってんのか!?」


 思わず荒れた口調になってしまった。

 シドロはフールの過去を断片的にしかしらない。しかし、それでも彼女が辿ってきた経歴が、おおよそ普通の人間のそれとは全く違うものであり、過酷であることは理解していた。

 そして、だからこそギンの提案を素直に受け入れることはできない。


「本気だとも。確かに荒療治ではあるし、かなり強引な手段だ。下手をすれば、彼女の心の傷がもっと深くなる可能性もある。しかし、現状、早期で彼女のトラウマを克服させる手段はこれ以外にないと、私は思う」


 トラウマとは、すなわち心の傷。それを早く克服させるには、確かにそのトラウマと真正面から向き合い、もうへっちゃらだと、そんなものではもう揺らぎはしないと自信を持たせ、乗り越えさせるのが一番なのだろう。

 だが、そもそもにしてその『過去』のせいでトラウマができたわけであり、だからこそ容易に克服することはできず、乗り越えることが困難なのだ。

 だからこそ、本来ならば少しずつ、徐々にトラウマとの付き合い方を探していくのがベストなやり方。

 ギンもこれが正規のやり方ではないことは重々承知しているらしい。


「しかし、だ。君の言う通り、これは危険な賭けだ。彼女のされたことを考えれば、それをもう一度体験する、というのはまさに地獄。絶対に成功するとはいいきれない。むしろ、成功する可能性は低いとみるべきだろう。さらに加えて言うのなら、仮に彼女がトラウマを克服し、本来の魔剣の能力を使えるようになったとして、それが魔王を倒せる確実な切り札になれるかもわからない。提案しておいて何だが、これはかなりのギャンブルといっていいだろう」


 トラウマを克服できる可能性は絶対ではない。

 さらに、仮にトラウマを克服し、力を開花させたとしても、それが魔王を倒せる切り札であるとも断言できない。

 どう考えても、分の悪い博打としか言えない。


「先程は、能力を開花させてもらう、と言ったが、もしもやりたくないというのなら……」

「いえ、やらせてください」


 しかし、その賭けに、フールは敢えて乗ると即答した。


「おい。ちょっと待てよ。お前、マジで言ってんのか!?」

「ええ。当然です。これで能力が開花されるのなら、やらないわけにはいかないでしょう。分が悪い、というは百も承知ですよ。っというか、そもそも強くなるために確実な手段などありません。何かしらの危険を伴うものです」

「いや、そうは言うが……」

「それに」


 と、未だ反論するシドロに対し、フールは。


「未だに乗り越えていないのであれば……いつかは、乗り越えなければならないことですから」


 苦笑しながら、そう言ったのだった。

 その瞬間、シドロは言葉を失った。

 彼女とて、やりたくてやろうとしているわけではない。当然だ。誰だって自分のトラウマをもう一度見たいと思う者などどこにもいない。

 ましてや、それが地獄のようなものであれば、尚更。

 けれど、それでも彼女は覚悟を決めている。それが今、乗り越えなければならないものであるから。


「……分かった。でも、一つだけ条件がある」


 相棒が覚悟を決めた。

 ならば、シドロがやることはもまた決まっている。


「俺も一緒に―――その追体験とやらをさせろ」


 その言葉に。

 フールはこれまでにないほど、大きく目を見開いたのであった。

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