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二十八話 心の問題は本人が気づいてないこともある

「……どういう意味ですか、それは」


 ギンの問いに対し、フールは質問で返した。

 とぼけている、という感じではない。まゆをひそめ、首を傾げるその姿は本気で何を言っているのか意味が分からない、といった具合である。


「その反応からするに、本当に知らないようだね」

「知らないも何も、私はただ硬く、重く、壊れないのが特徴の魔剣。それを追求しすぎたために、誰も扱え切れないくらい重くなってしまって……」

「ああ、その情報も知っている。だが、それは扱える者がいないだけで、君が魔剣の本来の能力を使えないというわけではないだろう?」


 再び出たその単語。

 魔剣の本来の能力。

 流石にシドロも気になってしまい、ギンに対し言葉をかけた。


「あのよ。魔剣の本来の能力って、どういうことだよ」

「ふむ。そうだな……たとえば、だ。今の世の中に出回っている魔剣の能力とは、どんなものがある?」

「どんなのって……そりゃあ、炎を出したり、風を操ったり、雷出したり、言い出したらきりがねぇぞ」

「うん、そうだ。だが、中にはこういうものもないかな? 使用者の身体能力を一時的に向上させる、または何かしらの能力を使用者に付与する、といったものとか」


 言われてみれば、そういうものも存在する。

 一定時間だけ、威力を倍増させるとか、そういう類の魔剣もなくはない。

 だが、それが一体どうしたというのか。


「私が編み出した魔剣は、全て使用者にも何らかの能力を付与するよう設定してあった。どれだけ強い魔剣だろうが、使い手がただの人間では、そこが急所となる。それを防ぐために、使用者の力を向上させるためにね」


 ギンの言い分は尤もであった。

 どれだけ強い武器だろうが、使い手がただの人間ならば、いくらでも対処ができる。それこそ、長距離で狙い撃ちをしたり、魔術で遠距離から呪いをかけたりと、ただの人間ならば、それだけでもうどうしようもできない。

 ゆえに、強い魔剣を作る際には、使用者の方も強化する、というのはある種当然の結論だと言えるだろう。


「恐らく、悪魔のその技術は使っているはずだ。だとするのなら、君にも使用者に何かしらの力を付与する、という能力があるはずだ。現に魔王がそれを証明している」

「魔王が?」

「気づいていないかもしれないが、あれは持ち主の身体を乗っ取る力を持っているが、それだけではない。その身体を強化させている。あれが、ずば抜けた身体能力を持っているのはそれのおかげだ」


 ふと、そこでシドロは魔王がみせた神業的な動きを思い出す。

 確かに、あれは尋常ではない速さであり、だからこそ強化されたものだ、という説明は納得がいくものだった。


「……貴方の言う通りなのかもしれません。私のかつての仲間は、確かに剣の能力とは他に、持ち主にも色々と効果を付与していました。魔剣を持つと、音速で自由に動けたり、相手の運を吸い取り使い手の運を強化したり、そして、今どんな動きをすればいいのか、使い手に最適な行動をとれるようにするものなど……剣ではなく、持ち主自身が強化していることが多かったように思えます。ですが、私は……その重さゆえに、誰にも扱われなかった。だから、自分が使われるとどんな効果が付与されるのか、分からなかった」


 今までまともに扱われてこなかったがゆえに、魔剣としての本来の能力、つまり使用者の強化という部分ができていなかったのだろう。

 だがしかし、だとするのなら、おかしなところがある。


「けれど、今は違う。こうして、マスターという使い手もちゃんといる状態。では、何故その能力が発揮されないのは、一体どうしてなのでしょうか」

「ふむ。そこは私にも分からない。だからこそ、問いを投げかけたわけだが……考えられるとすれば、君の心の問題なのかもしれないねぇ」

「心の問題……?」


 言われて、フールは険しい顔をしながら、続けて言う。


「…………私が、マスターを、使い手として認めてないとでもいいたいのですか?」

「いや、そうじゃあないだろう。君が彼を信頼しているのはここまでの過程で見ていれば分かる。だから、問題は彼ではなく、あくまで君自身。今まで誰にも魔剣として扱われたことがないために、自分が魔剣であるという自覚ができていない。いわば、魔剣であることを拒否している状態だ。今は、それを彼が自分のスキルを使って、無理やり使っているわけだ」


 ギンの言葉に、フールはどこか動揺していた。


「私が、魔剣である自覚を持っていない……? そんな馬鹿な……」


 信じられない、と言わんばかりの口調。

 けれど、その言葉には覇気が全くなく、言葉では否定しているものの、しかし心のどこかでは迷っているように思えた。


「頭では理解できている。けれど、心では納得していない……そんなところだろう。無理もない。自分の意思とは関係なく魔女にされ、魔剣へと作り替えられたというのに、誰にも扱われず、失敗作としての落胤をおされ、最終的には『奈落の大穴』に落とされた……恐らく、他の魔剣にされた者たちとの違いはそこだ。自分は魔剣としては、未熟なのだと無意識の内に思っているのだろう」


 他の魔剣にされた者たちは担い手に力を付与していたが、しかしフールはできていない。その違いは、魔剣にされながらも、魔剣として誰も認めてくれなかった。扱ってくれなかった……劣等品、失敗作、なまくら。それが彼女に与えられた価値であり、そしてそのまま捨てられてしまった。

 それが、彼女のトラウマであり、それが邪魔をしているのだとギンは言う。


「しかし、そうも言ってられない。君が魔王の攻撃を受けても無事でいられる。それは極わずかな勝利への可能性。そして、その可能性を広げるためにも、君には本来の魔剣……その能力を開花させてもらう」

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