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八話 一方その頃①

 とある酒場。

 そこで、シドロ達のパーティーメンバーは集まっていた。

 そんな中、緑髪の少女・イリナは両手で顔を隠しながら、泣いていた。


「ひっぐ……ひっぐ……」

「おいイリナ。いつまで泣いてるつもりだ」

「だって、だってぇ……」

「俺達は冒険者なんだよ。ダンジョン攻略中に死ぬなんてこと、よくあることだろうが。こんなことで一々泣いてたらキリねぇぞ」

「で、でも……」

「ちょっと。言い過ぎよ、クシャル。っというか、貴方もイリナのこと、言えない状態だって、分かってる?」


 中年の男・クシャルの言葉に、剣を携えたフローラが言葉を挟む。


「はっ。俺がどうしたっていうんだ? 俺は別に、あんな奴がどうなろうが、知ったこっちゃねぇっての」

「その割には、いつもよりかなり酒を飲んでるように見えるけど?」

「……うるせぇ」


 言いながら、クシャルはその場にあった酒を一気に飲み干し、コップをテーブルにたたきつけた。


「けっ……ったくよ。あの野郎も、こうなる前にさっさと冒険者なんてやめちまえばよかったんだ。そうすりゃ、死ぬことなんてなかったんだ。あいつのスキルなら、別のことでもやってけただろうに。意固地になって、冒険者なんて続けたからこうなったんだよ」

「そうね……彼がいなくても、私達はやっていける。そんなこと、ずっと前に分かっていた。こんなことになる前に、私達が説得してやめさせていれば……彼は死ななかったかもしれないわね」


 そう。彼らはA級のパーティー。最早、荷物持ちなどいなくてもやっていける自信があった。そのため、裏ではこそこそと、もうシドロなんていらないんじゃないか、と言い合っていたくらいだ。

 だがしかし、だ。

 誰も彼に対し、面と向かって、やめろ、とは言ったことはなかった。


「何でだろう……裏ではあんなに言ってたのに、私達、何だかんだで、彼に甘えてたのかもね」

「……かもな」


 フローラの言葉を、クシャルは難しそうな顔をしながら肯定した。

 クシャルにとって、シドロは弱者だ。ゆえに気に食わないのは確かだったし、さっさと冒険者なんてやめてしまえばいいとさえ思っていたのも本当だ。

 だが、それでも、だ。

 こんな形になることは、望んでなどいなかった。


「……で? 俺らのリーダーはどこに行ったんだ?」

「ギルマスのところよ。シドロは、ギルマスの薦めでウチのパーティーに入ったから。彼はギルマスに気にかけられてたし」


 目をかけていた少年が死んだとなれば、流石に報告しに行かざるを得ないだろう。人としても、冒険者としても。


「ひっぐ……そ、そういえば、何でシドロさんは、ギルマスに気にいられてたんですか?」

「詳しくは知らねぇが、シドロの親がギルマスの先輩だったって話だ」

「とはいえ、そこまで名の知れた冒険者ではなく、実力もそこそこ。だから、ギルマスがあっという間に追い越したらしいんだけど、新人時代に何かとお世話になったって聞いたわ」

「そ、それで、ギルマスはその恩を返すために、シドロさんに色々と教えてたんですね……」

「けっ。ギルマスもギルマスだ。あのスキルなら、確かに『荷物持ち』には最適かもしれねぇけどよ。アイツがなりたがってたのは、そうじゃねぇだろ。無駄に夢見せやがって……」


 などと愚痴を零しつつ、クシャルは席を立った。


「どこ行くの?」

「すまねぇが、今日は帰らせてもらう。なんつーか、今日は色々あったせいか、身体がやけに重い(・・・・・・・・)ように感じるんでな。ナザンが帰ってきたら、言っといてくれ」

「クシャルも……? 私もなの。まぁ、こんな状況になっちゃんだから、当然っていえば、当然かもね。いいわ。ナザンには、私から言っておくから」


 悪いな、と言いながら、クシャルはその場を立ち去って行った。

 この時、彼らはまだ気づいていない。

 自分たちの、重大な異変について。


 *


 この世界には、ギルドが存在する。

 その仕事内容は、魔獣退治から猫探しまで、あらゆる依頼を受け、それを各地区のギルド支部で冒険者が請け負うという仕組みになっている。

 とはいえ、そのほとんどが世界各地にあるダンジョン攻略になる。


 その話は置いておくとして、重要なのは、それぞれのギルド支部には、支部長ギルドマスターと呼ばれる存在がいること。

 その支部長ギルドマスターを前にして、ナザンは淡々と報告をしていった。


「―――報告は以上です」


 ナザンの説明を全て聞き終わった後、支部長ギルドマスターことパーシルは目を瞑り、大きな息を吐いた。


「ごくろう……つらい報告させて、すまないな」

「いえ。これもリーダーの役目なので」


 パーシルの言葉を受け、ナザンは冷静な表情で返す。

 いや、彼は実際冷静だった。この手で殺した男について話していたというのに、そこには全く動揺がない。だからこそ、だろうか。ナザンの言葉をパーシルは疑うそぶりは全くなかった。


「……あれには色々と冒険者としての基本を教えてきたんだがな。まさか、魔獣に襲われている途中で、『奈落の大穴』に落ちるとは」

「すみません。僕がついていながら……」

「いや。自分の身は自分で守る。それがダンジョンに挑む者のルールだ。加えて言うのなら、そういう偶然であっさりと死んでしまうのも、またダンジョンでは珍しいことではない」


 そう。それがダンジョンというもの。

 どれだけ強い人間だろうが、不幸が重なり、あっけなく死んでしまう……そんなことがある場所なのだから、シドロが魔獣に襲われて崖から落ちたと言っても、誰も疑うことなどないのだ。


「とはいえ、今日は大変だっただろう。ゆっくり休むといい」

「そうさせてもらいます」


 そういうと、ナザンは表情を一切崩すことなく、そのまま退出した。

 だが、その心の中では、不敵な笑みを浮かべていたのだった。


(ようやく目障りな奴はいなくなった)


 今まで散々鬱陶しかった男。自分たちの英雄が穢れてしまいそうな原因。それがいなくなったのだ。本当ならば小躍りくらいしてしまいたいところだが、無論それは我慢。

 それに、これで何もかもが終わり、というわけではない。


(これで問題なく、もっと上の依頼を受けることができる。僕はもっと上にいく。そして力を示す。そうすれば、きっと貴方は僕を認めてくれるはずだ)


 そう。シドロを排除したのは単なる通過点に過ぎない。

 余計な者を消し、パーシルの目を覚まさせる。そして、誰に目をかけるべきなのかを、もう一度改めさせるのだ。


(証明してみせますよ。あんな男がいなくても、貴方は僕たちを……僕を見てくれる、と)


 今まではシドロがいたから、そのついで、といった形だった。

 だが、今後はそんなこと関係ない。

 シドロがいなくても、自分たちを気にかけるほど強くなり、そして上へと進むために。

 これから、全てが始まるのだ。


「それにしても……何だろう。今日はやけに体が重いな……」


 けれども、ナザンもまた理解していない。

 シドロという男がいたことが、自分たちのパーティーに何をもたらしていたのか。

 しかし、それも無意味か。

 何故なら、それを知ったとしても、もう何もかもが手遅れなのだから。

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