二十七話 改めて欠点を言われるとちょっとへこむよね
さて。
とりあえず、時間は確保できた。
これで、今すぐに魔王が『狭間』の入り口を無理やり開く、という展開は何とか回避できた。
……いや、回避、という言葉は誤りか。
正確には、遅らせることができた、というべきだろう。
実際のところ、既に魔王はダンジョンの最下層まで到達している。恐らく、『狭間』の入り口も早々に見つけるだろう。きっと、監視者であるカウロンがその前に立ちはだかるだろうが、しかし彼が魔王を倒してくれる、というのはあまりにも楽観的であり、現実的ではない。
それを考慮した上で、どうするべきか。
「つっても、どうするかって言われてもなぁ……」
はっきり言うと、お手上げ状態と言うべきだろう。
前回、そして前々回と二度にわたって魔王は何とか倒されているが、それでも復活してしまっている。運良く逃げれた、というのはあまりにも都合が良すぎる。何かきっと裏があると考えるべきなのだろうが、しかしそれが何かが分かれば苦労はしない。
いや、というよりも。
「そもそも、どうやって魔王に勝つか、だよな」
そこもまた重要かつ厄介な点である。
ギンに言われたように、正直今のシドロでは魔王に勝つ程の実力はない。当然だ。A級パーティーに所属していたとはいえ、彼は元々ただの荷物持ち。戦闘ではそれこそお荷物にならないよう、自分の身は自分で守る、程度のことしかできていない。
彼には全てを切り裂く剣術の才能も、全てを薙ぎ払う魔術の才もないのだから。
「君のスキルについても知っているよ。【軽量化】。実に面白い能力だ。触れずに周囲の重さを軽くさせる、というのは確かに戦闘においてとても脅威になる。物理攻撃であれば、どんな重たい一撃も、君の能力にかかってしまえば、無力化させられるんだからね。加えて、そちらのお嬢さんの魔剣としての特性。どこまでも硬く、そして重い。それを逆手にとることで、君は最も硬い魔剣を扱うことができている」
やはり、というべきか。ギンはシドロ達の能力についても知っているようだった。
そして、だからこそ、その弱点についても理解があるらしい。
「しかし、それは無敵というわけではない。物理攻撃には確かに強いが、逆にいえば、そうではない攻撃にはめっぽう弱い。たとえば、遠距離攻撃。魔王の一撃は剣を一振りするだけで、周囲のあらゆるものを切り裂く。真空波、みたいなものかな。それで彼女が壊れるとは思えないが、しかし使い手である君の能力ではどうすることもできない」
たとえば、これが飛んでくる巨大な岩や槍だったなら、まだいい。その重さを完全に消してしまえば、ほぼ無力化できる。
だが、最初から重さがない衝撃波や斬撃に関しては、重さを軽くしたところで、何の意味もないのだ。
「次に魔術やスキルについて。魔王はこれまで多くの『無能者』を魔女にし、そして魔剣に鋳造し、自分の更新に使ってきた。その能力も自分のものにしてね。私が知っている限り、剣から炎を出したり、雷を発生させることは当然のこと。中には触れただけで相手を毒状態にしたり、呪いをかけたりするものも存在する。それらに対し、君らは無防備だ。まぁ、魔剣をつかう剣士が超一流で、どんな相手の攻撃も回避できる、というのなら話は別だが」
それはつまり、シドロには実力がない、と言われているのだが、しかしシドロはその言葉に反論しない。当然だ。その事実について、一番理解しているのは彼なのだから。
【軽量化】とフールの特性は、一級品だ。一流の剣士であるのなら、それを完全に使いこなし、魔王にだって対抗できるだろう。それができないのは、全てシドロの力不足以外のなにものでもない。
「以上の点で、一番ネックなのは、魔王がその場から動かなくても、君らを攻撃できることが可能、という点だ。ひとは己の重さを理解した上で動くことができる。それが急激に紙のようにかるくなれば、いくら魔王とて、たやすく動くことはできない。が、魔術やスキルという、その場から動かなくても使える攻撃手段があれば、【軽量化】のメリットを完全に消されてしまっているのと同義になってしまう」
体重がどれだけ軽くなろうが、その場から動かず攻撃できるのであれば何の問題もない。
ならば、相手を極限にまで軽くさせ、こちらから攻撃すれば、簡単に吹き飛ぶのではないか、という疑問も出てくるだろうが、しかしそもそもその接近戦に持ち込むこと自体が、恐らく無理な話。ナザンの時でさえ、あれだけ苦労したのだ。それが魔王相手であれば、尚更難易度は上がってしまうだろう。
「……とまぁ、ここまでは、現時点での君らの状況を説明したわけだが……私から一つ、質問してもいいかね? お嬢さん」
「? 何でしょうか」
今更何を、と言わんばかりにフールに対し、ギンは
「どうして、君は―――魔剣としての本来の能力を発揮しないのかね?」
そんな。意味深な疑問を投げかけたのであった。