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二十六話 一分が一日になったりしたら、便利だよね

 最悪の事態である。

 まさか、魔王が未だにあのダンジョンにいるなどとは、予想外の展開だった。

 けれど、フールはどこか納得したような顔つきで口を開く。


「……成程。あの時、私達はあの女が去ったことで、勝手に『このダンジョンからいなくなった』と思ってましたが、そうではなかった、というわけですか。実際、あの時私達は、彼女の目的がナザンという方だけだと思っていた。それを逆手にとって、ああしてわざわざ私達の前に姿を現し、そして消えたのも、ダンジョンには用はない、と思わせるためのフラグだった、と」


 確かに、あの時魔王がわざわざシドロ達の前でナザンを殺す理由などどこにもなかった。だとするのなら、その意味は何か。

 それがつまり、ナザンを使って、自分を更新させ、それが終わったからもうここからいなくなる……そう思わせるための、囮だったというわけだ。


「加えていうのなら、自分の存在をアピールすることで『白光』パーシルが王都に報告しに行くことも、考慮していたんでしょう。そして、彼の留守の間に、ダンジョンを攻略する、と」

「おいおい。まじかよ……いや、けどよ。どんなにあいつが強くても、流石にパーシルが王都にいる間を狙って最下層まで行くってのは無理があるんじゃ……」


 パーシルとて、ずっと王都にいるわけではない。恐らく、王都に何週間か滞在するかもしれないが、しかしいずれは戻ってくる。その間で最下層まで到達するのは不可能。

 ダンジョンとは、そんな甘いものでは……。


「いや、どうやら状況はそんなに甘くないようだ。どうやら奴は、もう既に最深部に到達しているらしい」


 けれども、シドロの予想はギンの言葉によってあっさりと覆された。


「はぁ!? 嘘だろ、あり得ねぇだろ、そんなこと……!! まさか、あのダンジョンの最深部って、そんなに深くなかったとか……」

「いや。この資料によれば、あのダンジョンの最深部は、二百階層。現時点で判明しているどのダンジョンよりも深いとされている」

「だとしたら、尚更無理だろそんなの!? あそこを七十階層まで到達するのに、どれだけ多くの冒険者が、それこそ長い年月をかけたか……っ」

「そういう無理だの、不可能だのを簡単にやってのけてしまう。それがあの魔王なのだよ」


 驚きを隠せないシドロとは裏腹に、ギンはまるでさも当然と言わんばかりの態度であった。長年、悪魔、そして魔王と敵対していた彼からすれば、このある種偉業ともいえる異常事態も、そこまで特別なものとは思わなかったのだろう。

 だとしても、だ。これは放置しておくわけにはいかない。


「くそっ。こうしちゃいられねぇ!! 早くダンジョンに戻らねぇと!!」

「無駄だ。今から戻ったとして、一体何日かかると思う? その間、あの魔王がただ『狭間』の入り口を黙ってみているだけだと思うかね?」

「けど……!!」

「それに、考えてもみたまえ。仮に間に合ったとして、君らは魔王に勝てるのかね? 君らのことは少し調べさせてもらった。その中で、そちらの子が魔王でも壊せないほど頑丈な作りをしているのは知っている。そこから考えれば、もしかすれば魔王を壊せるかもしれない、というのも分かる。だが、それは武器の話であって、君らが魔王と同じレベル、もしくはそれを超えるレベルである証拠にはならない。きついことを言うようだが、今の君らでは魔王を倒すことはできない。だというのに、何の対策もせずに、今すぐここを出て行くことはオススメしないな」


 言われ、シドロは何も言えなかった。

 反論などできない。できるわけがない。確かに、シドロの【軽量化】、そしてフールの頑丈さが合わされば強い力となる。だが、それが魔王に匹敵するかどうかはまた別の話。

 これまでの内容から察するに、魔王の力はそれこそ人智を超越している。そんな人間に、この前までただの荷物持ちだった男が敵うわけがない。


「一つ聞くが、君らはここに来て、どれくらいの時間が経っていると思うね?」

「えっと、そりゃ……数か月、とか?」

「少なくとも、二ヶ月以上は経っていると思いますが」


 二人の答えを聞き、ギンは不敵に笑いながら。


「正解は、半日、だよ」


 そう答えた。


「「………………………は?」」


 思わずシンクロしながら言葉を口にするシドロとフール。当然だ。確かに、暗闇の中をずっとまっすぐ突き進んでいたわけで、正確な時間など分かるわけがないが、しかしそれでも半月というのは、あまりにも信じられなかった。


「ここは時間と空間の流れが入り乱れれてね。私の技術でそれを操作している。故に、一日を三日にすることも可能だし、逆に一ヶ月を一日にすることも可能だ。そして、今現在、時間の流れは最大限、外の方が遅くなるよう設定している。つまり、ここにいれば、少なくとも時間がまだある、ということさ」


 つまり、ここにいれば、時間の猶予はあるということ。

 けれど、猶予があるだけでは、何の解決にもならない。


「とはいえ、それで安心しろ、とは言えないが。何せ、どれだけ外の時間と隔離しようが、時間が進んでいることは変わらない。その中で、あれの対処を考えなければならないだろう」


 魔王を倒す対策。

 時間があるとはいえ、果たしてその答えを導き出せるのか。それは分からない。


「まぁ、もっといいのは、その間に『監視者』とやらが、時間稼ぎをしてくれればいいのだが……まぁ、ことはそんなにうまくはいかないだろうからねぇ」


 世の中、そんなに甘くはないと知っているギンはそんなことを呟くのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 戻っても間に合わないのはある意味幸運ですね。 戻ってルーサー王やパーシルに報告したところで 彼らの言う事などシドロ&フールの戦力不足など完全無視での魔王と戦えという事実上の玉砕命令だ…
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