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二十四話 ダンジョンの最下層には、必ず何かあるもの

「ちょっと待ってくれ……色々と情報が追い付かないんだが……まさか、あそこにあった、あの扉が『狭間』の入り口なのか……? いやいや、そんな偶然あるわけないだろ」


 この世界にはダンジョンが多数存在する。

 その中には最下層まで到達したダンジョンというものもあれば、未だ最下層まで到達していないものも無論ある。

 シドロ達は、例外的に、本来ならば未だ最下層に至っていないダンジョンの奥地にいけたわけだが、しかしだとするのなら、おかしなことがある。


「そもそも、未だ未開拓な最下層にあるってのはおかしいだろ。それが本当なら、何でその情報が出回ってんだ? 普通に考えれば、もう既に最下層まで到達しているダンジョンのどこかだろ」


 誰も行ったことがないのに、そこに『狭間』への入り口がある、と話が出回るのは確かにおかしい。ゆえに、シドロが言ったように、既に全て攻略されているどこかのダンジョンと考えるべきなのだろうが……。


「しかしマスター。ここまで一致しているとなれば、疑いにかかるべきだと思います。加えて言うのなら、彼女がマスターたちと共に行動していたことの理由が分かります。あのダンジョンの最下層にあった入り口を求めていたからこそ、あの女は冒険者になって、パーティーに入っていた。確かに、ナザンというあの少女を使って更新するのも目的の一つだったのでしょう。ですが、それだけのためならば、わざわざあの女自ら動く必要などないはずです」


 確かに。

 魔王の目的の一つはナザンを自分のものにし、その体を更新すること。だが、それは冒険者パーティーに入ってまですることだろうか。

 魔王自身が動いていた。そこには何か、別の目的があったとみるべきだろう。


「け、けどよ。だとするなら、そりゃおかしいだろ。あいつは、あの場所に、『狭間』の入り口があったって分かってたってことだろ? けど、それはどこから仕入れたんだよ。まさか、適当にほうぼうのダンジョンを探し回ってて、たまたまあそこに目を付けたって言いたいのか?」


 何度も言うようだが、シドロ達がいたダンジョンに、『狭間』への入り口がある、という確実な情報が出回っているわけではないのだ。どこかのダンジョンにある、それだけの情報を頼りに偶然あのダンジョンを選んだ……そんなことが、果たしてありうるのか。

 その問いには、流石にフールも難しい顔をするほかなかった。


「それは分かりません。もしかすれば、確実にあそこにある、とは分かっていないかもしれません。何か、あそこに『狭間』への入り口があるかもしれない、という可能性を持って行動していたのかも。それこそ、あのダンジョンにしかない、何かに目をつけて」


 確かに、あるかもしれない、怪しい、と思える何かがあれば、調べてみようと思うのは自然な流れだ。

 けれども、問題なのは、その何か、という点。


「あそこにしかないって言ってもなぁ……別のところと比べて、何か特徴的なのって言われたら、そりゃ『奈落の大穴』くらいしか……」

「…………なるほど『奈落の大穴』、か」


 その単語に、ギンは納得がいったと言わんばかりの口調で反応した。


「? どうしたんだよ」

「いや。その穴については色々と調べたことがあってね。あれは私がくる以前からあるものでね。とはいえ、分かったことは、あれは天罰によってできたものだ、ということだ」

「天罰によって、できた……それって、まさか」

「ああ。もしかすれば、天罰……つまり、神が悪魔を罰した時にできた穴、ということなのかもしれん。実際には、『狭間』に追い込む過程で作られた、いや偶発的にできてしまったもの、とか」


 それならば、確かに辻褄はあう。

 あれだけの大穴。誰かが偶発的に作ったとなれば、それだけ強力な存在によって生み出されたと考えるべき。そして、それが神というのなら、納得せざるを得ないだろう。

 無論、これはあくまでも予想であり、悪く言ってしまえば妄想の類。そうであるという確信はどこにもなく、単なる考えすぎという可能性も大いにありうる。

 ……などと、楽観的なことをいえたかもしれないが、しかし生憎とシドロ達は実際にそこに行き、そして『監視者』であるカウロンと出会った。

 もう考えすぎだの、かもしれないなどと言っている場合ではない。


「君の言う通り、その場所が必ずしも『狭間』の入り口とは言い切れないが、少なくとも魔王はその可能性を加味していた、というのは大いにあり得る」

「だろうな……けど、あいつはもうあの場所からはいなくなった。自分の正体もバレたわけだし、当分はやってこないんじゃないか?」


 英雄であるパーシルが管理するギルドの傍にあるダンジョン。そこで既に魔王は正体をバラしているわけであり、ゆえに再び戻ってくるという可能性はかなり低いだろう。

 ……普通なら。

 瞬間、ピーッという奇妙な音とともに、ギンが座っている机から一枚の羊皮紙のようなものが出てきた。

 それを見て、ギンは眉をひそめる。


「……いや、どうやらそういうわけにはいかないようだ」

「? どういうことだよ」

「これまでずっと魔王の足取りを探していたんだが、さっきようやくその結果が出たんだが……」

「……まさか」


 嫌な予感。

 そして、その予感が的中と言わんばかりに。


「どうやら、奴は今―――君たちがいたというダンジョン内にいるらしい」


 そんな言葉をギンは口にしたのだった。

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