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二十三話 脳筋って基本的に力で解決しようとするよね

「悪魔の自由にさせることって……いや、それは……」

「言いたいことは分かる。悪魔の分身は消え去り、悪魔自身は私が抑え込んでいる。この状況では、悪魔が魔女に自分の子供を産ませる、という方法は使えない。だから、あの魔剣は、魔王は考えた。そもそもにして、悪魔をこの世に再来させるために、わざわざ分身やら子供やらを作る必要はないのではないか、と……つまりはだね。奴はこの世界の外にある『狭間』の入り口。それを無理やり開こうと考えているんだよ」


『狭間』への入り口を無理やり開く。

 確かに、その方法ならば、分身やら子供やら、面倒なことはしなくて済むし、悪魔が行動不能な状態でも、魔王がとれる方法だ。

 けれども。


「そんなこと、できるのか……?」

「ほぼ不可能……というのが妥当な回答だろうか。そもそもにして、悪魔は『狭間』に封じられたものだ。恐らく、中からは外へと出ることは不可能だろうが、しかし外からならば、あるいは可能かもしれない」

「いや、そうは言うがよ……」

「言いたいことは無論分かるとも。到底、容易いことではない。そもそも、『狭間』の入り口をどうやって開けるのか、私にはさっぱり分からん。あれを開ける正規の方法を、私は知らない。恐らく、この世界の神ならば可能なのだろうが、生憎と私はその神とやらに会ったことがないのでね」


 神に会ったことがない……その言葉は、何の変哲もないものだが、しかしここまで悪魔やら魔王やらと面識がある男が、神には会ったことがない、と聞くとおかしいと思ってしまうのは、シドロ自身も感覚がマヒしているせいだろう。

 けれど、今の発言で重要な点は、別のところだった。


「今、妙な言い方をされましたね? 正規の方法は知らない、と……では、別の方法ならば知っているのでしょうか?」

「知っていると言うか、何というか……たとえば、だ。どうしても入りたい部屋があったとして、その部屋が施錠されているとしよう。君たちはそのカギを持っていなく、また鍵穴は特殊なものでスペアを作ることもできない。部屋への入り口は一つのみで、魔術やスキルでは中に入ることはできない。さて、この条件の中、君らはどうやって中に入るかね?」

「どうやって……そりゃあ、まぁ……」


 唐突な問いにシドロは答えに迷うのだったが。


「その扉をぶち壊しますね」


 相棒は、そんなことを即答したのであった。


「おいおい物騒だな……いや、そこはどうにかして、鍵穴に針とか入れるとか……」

「いや。そちらのお嬢さんの言う通りだ。魔王が考えたのは、実に単純明快な策。扉を開ける方法がないのなら、扉を壊せばいい」

「……、」


 言葉が出ない。

 いや、まぁ理屈は分かる。どうしても入りたい部屋があって、鍵はなく、力づくでいけるのであれば、それはそれで早くカタがつくのでいいのかもしれないが……。


「……なぁ、前々から思ってたんだがよ。もしかして、魔王って頭悪いのか?」

「無駄に実力がある者とはそういう思考になるものなのだよ。何せ、小細工などしなくても、力があればどうとでもなると思っている連中だからねぇ。特に、あの魔王は他人の不幸を心の底から笑う一方で、自分の邪魔をされたらとことん怒り狂う、自己中の極み。まさに、あの悪魔の生き写しだ。人の嫌がる行為はとことんまでに考えるが、しかしそれ以外に関してはずぼらな点が多々ある。ま、それでも未だ倒せていない、というのが何とも厄介な話なんだがね」


 言われてみれば、正体をさらした後の魔王の発言は、どれもこれも自分勝手なものばかりであり、どこか幼稚な点も多々見られた。しかし、それでも今の今まで死なずに生きている、というのは、それだけ力があるから、ということのなのだろう。


「加えて言うのなら、奴には様々な機能がついている。これまでに多くの『無能者』を魔女に、そして魔剣にかえて自分のものにしてきた結果だろう。そして、それとは別に、奴は相手を殺すとその分強くなるという機能がある。そして、それは自分自身で倒さなくてもいい」

「? どういうことだよ」

「言っただろう? 奴は魔獣を操って大勢の人を殺していたと。その最大の理由は、そこだ。奴は、自分が操った魔獣で人を殺せば、その分自身の力を増すことができる。だから、奴は世界中の人々を殺そうとし、その分力をつけた、というわけだ」


 その言葉に、シドロはある種納得した。

 今の今まで、どうして悪魔を自由にするのが目的なのに、世界中の人々を殺していたのか疑問に思っていたのだが、結局のところ、自分の力を高めるためという何ともシンプルなものだったというわけだ。

 そして、だからこそ余計に思う。

 そんなことのために、大勢の人を殺したのか、と。


「しかし、そんな奴が未だに動きを見せていない、というのは、少々不気味な話だと思うがね。恐らく、前回、奴は生き残ったが、その影響は受けているとみていい。それによって、かなり力がそがれたんだろう。でなければ、この十数年間、大人しくしていた理由がない。だから奴はずっと暗躍していた。『狭間』の入り口を、無理やり開くための力を得るために」


 どうやって生き残ったかは不明だが、しかしギン曰く、破壊されたのは確か。そして、どんなものでも、壊れれば機能は低下する。刃こぼれした剣しかり、亀裂の入った盾しかり。

 だからこそ、魔王はその機能を再び同じにするため、あるいは前よりも向上させるために、『無能者』を利用しているのだろう。


「そういや、聞いてなかったんだが。その『狭間』の入り口って、一体どこにあるんだ?」


 と、ここで不意にシドロの口から質問が飛ぶ。

 魔王は『狭間』の入り口を開こうとしている。が、その場所はどこにあるのか。確かに気になるところではあった。

 あったのだが……。


「ああ、私もいろいろと調べてはみたんだが、何分、ここから出ることができないのでね。正確な場所は知らないが……どうやら、あるダンジョンの最下層にある、と言われている。そして、監視者と呼ばれる者に守られているとも」

「あるダンジョンの最下層……?」

「監視者に、守れらている……?」


 言われて。

 シドロとフールは思い出す。

 ついこの前まで、いたダンジョンの最下層。そこにあった奇妙な扉。

 そして―――自分のことを、『監視者』と呼ぶ、一人の男の姿を。

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