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二十一話 最悪の展開は繰り返されるもの

「アリアは『勇者』の剣となり、私のもとへとやってきた。その時には既にかつての表情も取り戻し、壊れた心も癒されていたようだった」


 ギンは天井を見上げながら、小さな微笑みを浮かべた。


「本当に嬉しかった。彼女が……アリアが前のように笑顔を浮かべるようになっていた。それが、たとえ私にとっては悔しい結末であったとしても」

「悔しい、結末……?」

「私がどれだけ手を尽くしても、どうすることもできなかった彼女の心を、あの男は……『勇者』はやってのけた。最初は四苦八苦していたらしいが、それでも根気強く、彼女の面倒を見て、その胸の内にある心にもう一度光をさした……本当に、心の底から負けたと思ったよ」


 心の底から負けだと思った。

 その言葉が意味するところは、つまり……。


「……爺さん。アンタ、まさか、そのアリアって奴のことが……」

「その問いは、あまりに無粋ではないかね?」


 言われ、シドロは黙り込んでしまった。

 確かに、それ以上を聞くと言うのは、野暮というものだ。


「まぁ、そんなこんなで、ここへやってきた彼女たちに、私は君らのようにすべてを話した。そして、魔王の場所は無論、魔王を倒す方法も教えた」

「魔王を倒す方法……あるんですか?」


 フールの言葉に、ギンは小さく頷く。


「アリアの本気の一撃のことは、もう言ったね。彼女の全力を使えば、国が一つ確実に消える。それだけの威力ならば、あの魔王ですら倒すことは可能なはずだと、私は考えた」


 それはそうだろう、とシドロは心の中で呟く。

 国を丸ごと焦土にかえる一撃。そんなものを喰らって無事でいられるものなど、まずいない。ゆえに、実行すれば、確実に倒せるには倒せるだろうが……。


「いや、まぁ確かにそうなんだろうけどよ……」

「言いたいことは分かる。そんなものを放ってしまえば、また国が一つ滅んでしまう。その通りだ。だから、私は、彼女たちが全力を出せる場所を用意したわけだ……私の元いた世界には、異空間システムというものがあってね。自発的に異空間を作り出すことができる技術があったんだ」

「いくうかん、しすてむ……?」


 よく分からない、と言いたげなシドロに対し、ギンは続けて言う。


「ようは、どれだけ壊しても問題がない別世界を一時的に作ることが可能、というわけだ。正確には違うが、そう思ってもらって構わない」

「なるほど。そこでなら、どれだけ全力を出しても問題はない、と」

「ああ……もう二度と、彼女があんな風になるのはごめんだったからね。その反省から作ったものだった。そして、私は異空間システムを利用した道具『封印鏡』をアリアたちに渡し、魔王の居場所を教えた。その情報をもとに、アリアたちは魔王のもとへと奇襲が成功。そして、見事『封印鏡』の中に閉じ込めることができ、そこでアリアと『勇者』、そして魔王は対決したわけなんだが……」


 歯切れの悪い言葉、そして曇る表情。

 それらが何を意味するのかは、一目瞭然だった。


「何か、問題があったんですね?」

「……まぁね。実は、あの魔王の全力はアリアのそれを同等でね。そのせいで、アリアと『勇者』の攻撃は、何度も何度も相殺されてしまったんだ」


 正直、その言葉を聞いた途端、シドロはふざけている、としか思えてなかった。

 国を文字通り滅ぼす一撃と対等な攻撃を繰り出せる? 何だそれは。インチキにも程があるだろうに。


「しかも、アリアの場合は全力を放つ度に徐々に威力が落ちて行く。一方の魔王は、同じ威力の攻撃を何度も何度も繰り返していた。どうやら奴は、自分が操っている魔獣の生命エネルギーを自分のものにできるようでね。そのせいで、奴は無限ともいえる力を持っていた……有限と無限。長期戦になれば、どちらが勝るのかなど言うまでもないだろう」


 徐々に威力が落ちて行く攻撃と、どれだけ放っても威力が変わらない攻撃。ずっと戦って行けば、後者が勝つのは子供でも分かる陸地である。


「そこで、アリアが出した答えは……限界突破だった」

「限界突破……?」

「限界突破とは、まさしく限度を超えるということ。限界を超えろ、と人は容易く言うが、しかし超えてはならない一線というものは確かにある。あの時、彼女はその一線を越えてしまったんだ。私が決して解いてはいけないと教えたはずの制御を、彼女は超えた。たとえ、それで自分が死んでしまうと分かっていながら」

「……、」

「それによって、魔王の攻撃を上回り、魔王は跡形もなく、粉々に砕けた……そして、その代償として、彼女もまた、砕け散ってしまった、というわけさ。皮肉なものだ。私はずっと彼女を救いたかったというのに、最後の最後で、死に場所を用意するハメになるとはね」


 呆れたような笑みに、しかしシドロ達は返す言葉が浮かばなかった。


「魔王は死に、アリアも砕け、生き残ったのは『勇者』だけになった。まぁ、彼の方も無事とは言えない状況だったがね」

「というと?」

「目の前で、仲間を……愛する人を失った彼は、魔王に勝利しながらも、しかし嘆きの方が勝ってしまった。そして、ついにはかつてのアリアと同じように心が壊れてしまった、そして、それは今なお続いている。そして、それこそが、勇者が今なお、再起不能になっている理由なのさ」


 言われ。

 シドロ達は、ここに来て『勇者』が戦えない理由を知ることになったのだった。

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