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七話 料理が上手い男は告白される可能性が大……であると信じたい

「ぜぇ、ぜぇ……」


 息絶え絶えの状態。

 当然だ。再び襲い掛かってきたブラッドスパイダーは一回目の時よりも遥かに数を上回っていたのだから。

 けれども、だ。

 シドロは何とか、その全てを倒しのだった。


『お疲れ様です。流石にあの数を相手にすれば、体力もつきましたか』

「当然だろうがっ!! っつーかあれ、最終的には千匹くらいいたような気がするのは、俺の気のせいか!?」

『それは言いすぎですよ。正確には、九百と九十二体ですから』

「それもうほぼ千匹だよね!?」


 体力があり、敵を軽くさせることができる、とは言っても、やはり限度というものがある。

 とはいえ、それでも約千匹もの魔獣を全て倒したのは事実であり、それだけシドロの体力と能力が凄まじいことを証明していた。


『とはいえ、お疲れさまでした。今の戦いで、色々と収穫はありました。今後の課題も見えてきましたし』

「課題だぁ?」

『マスターの体力はずば抜けていますが、戦闘の経験は浅いように感じます』

「そりゃ……そうだろ。俺はただの荷物持ちだったんだから」

『確かに。ですが、これからはそうもいきません。この「奈落の大穴」の底には強力な魔獣がうようよいます。今でこそ、マスターのスキルによって何とかなっていますが、いずれそれでもどうにもならない敵に遭遇する可能性もありますから』


 その通りである。

 フェンリル、そしてブラッドスパイダー。これら二種類は、シドロと相性が良かったからこそ一方的に勝つことができたが、これからもそうなる、とは限らない。もしかすれば、シドロのスキルが効かない相手も出てくるかもしれないのだから。


『しかし、今すぐに改良し、強くなれ、というのも無理な話。現状、できる限りのことをしながら、上を目指すとしましょう』


 言うと同時に、フールは再び人の姿へと変身した。


「とはいえ、流石にこれ以上進むのは賢明ではありませんね。どこかで一旦休息を取りましょう」

「ああ、そうだな」


 そうして、二人は今夜の寝床を探すことにしたのだった。





 冒険者が魔獣退治をする場合、数日かかる時はよくあること。そして、その際にダンジョン内で野営することもまたしかり。

 そして、荷物持ちであったシドロはその準備をするのも、また仕事の一つであった。


「よし、完成っと」


 料理を済ませ、一息つくシドロ。

 そんな彼に対し、フールは思わず問いを投げかける。


「……マスター。これはどういうことでしょうか」

「? どうもこうも、見たまんま、猪肉のスープだよ。あっ、もしかして猪苦手なのか? そりゃまぁ、ちょっと癖はあるかもしれないが、ちゃんと気にならないよう処置はしてるぞ?」

「いえ、そのことではなく……そんなモノ、一体どこから出したのですか? あと、焚火とか、魔獣除けの道具とか、テントとか……そんなの、どこにあったのです?」

「そりゃ、この『収納バッグ』からだよ」


 シドロが取り出したのは、それこそどこにでもあるような小さなバックであった。肩からかけるタイプであり、その大きさはどう見ても先ほどの品々を出し入れするのには小さすぎる代物だった。


「こんな小さなバックから……」

「何だ、『収納バッグ』、見たことないのか?」

「ええ……私が眠りにつく前には、そんなものはなかったもので」

「そっか。『収納バッグ』は二十年くらい前に市場に出たモンでな。何でも、魔術を用いて作られてるから、見た目の倍以上に収納ができるんだと」

「倍と言いますが、マスターが取り出したものから察するに、とてもそんな量とは思えないのですが」

「あったりまえだ。こいつは十倍以上の収納ができる、高級品だからな。滅茶苦茶高かったんだぞ、コレ。まぁ、世のなかには、収納百倍とか千倍とかあるらしいが、そんなのはもう噂でしか聞いたことねぇよ」


 かつて、勇者パーティーがそのぐらいの容量を持つ『収納バッグ』を所持していたというが、それも噂での話。そして、もしもそんなものが売られていたとしても、シドロの所持金では到底買えるものではないだろう。


「正直、こいつのせいで、『荷物持ち』っていう役割が激減したのは確かで、俺自身思うところはあるんだが……実際コレ、滅茶苦茶便利だからな。皆が『もう荷物持ち、いらなくね?』って思うのも納得できる気がするぜ」


『荷物持ち』とは、その名の通り、荷物を持ち運びするのが基本の仕事だ。その荷物がかさばらず、尚且つ持ち運びしやすくなる道具が出てくれば、『荷物持ち』が必要とされなくなるのは必至だったのかもしれない。

 とはいえ、だ……それで、はいそうですか、と割り切れるわけもないが。


「っと、暗い話はやめだやめ。さっさとメシにしよう」


 そういって、猪肉のスープを椀につぎ、フールに手渡す。

 そして、スープを一口。

 その、次の瞬間。


「マスター。結婚しましょう」

「ぶほっ!?」


 予想外の一言に、シドロは思わずスープごと吹いてしまった。


「はぁ!? おまっ、唐突に何言ってんの!?」

「いや、マスターの料理がこんなにも美味しいとは思ってもいなかたので……想像以上どころの話ではありません。目から鱗です。なので、私のお婿さんになって、毎日この料理を出してほしいのです」

「お、お前なぁ……料理のうまさで結婚とか言い出すんじゃねぇよ。っつか、そんなもんで決めて言いことじゃないだろ」

「はい勿論冗談です。本気にしないでください。ちょっと引きます」

「ぐぬぬ……っ」

「しかし、マスターの料理がおいしいのは事実です。これは冗談抜きで驚きました。見かけによらない、とかそういうレベルの話ではありません。普通に店で出る料理かと思いました」


 これは嘘ではない。事実、出された猪肉のスープは全く臭みがなく、硬くなかった。先ほど言葉にしたように、店で出ていたとしても何ら不思議ではないほど美味である。


「まぁ、『荷物持ち』は荷物を持って行動するだけじゃないからな。パーティーメンバーが戦いに専念できるよう、色々と配慮しなきゃいけない仕事だし。料理だけじゃなく、寝床の確保やら魔獣除けの設置、見張り云々も俺がしてたからな」

「なるほど。どおりで手際がよかったわけですね」


 料理だけではなく、野営の設置に関してもシドロは的確にやっていた。本来ならばもっと時間はかかるだろうが、手慣れたシドロには朝飯前の作業である。


「しかし、だとするのなら、マスターの元仲間たちは、今頃苦労しているかもしれませんね」

「? どういうことだよ」

「いえ……ただ、恵まれた環境にいた人間は、少しでもそれが低下してしまうと、それに耐えられない、ということです」


 意味深なフールの言葉に、この時のシドロは首を傾げるしかなかったのだった。

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