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十五話 悪人は、悪人と呼ばれる理由があるもの

「……確かに、魔女にされた時、悪魔と契約を果たしました。しかし、まさかそれが子供を……いえ、自分をこの世に再誕させるためだったとは……」


 フールは信じられないと言わんばかりの様子だった。

 当然だ。自分がこの世界に戻ってくるために、『無能者』を生み出し、魔女にさせ、挙句その女に子供を産ませようとするとは。

 正直、鬼畜の所業としか思えない。


「なんつーか、エグイな、そいつ。いや、確かに他所から来たからって理由だけで閉じこめられて、しかも悪魔っていう枠組みにはめられたら、そりゃ怒るだろうけどよ……そこまでするか、普通」

「ヒヒヒ。無論、普通ではないとも。今の話だけだと、元神である悪魔が被害者のように聞こえるかもしれんが、実際のところはロクでもない奴だったのさ。そもそも、奴の世界が無くなった理由は、彼自身に原因があるからねぇ」


 どういうことだ、とは口にしなかった。

『無能者』や魔女のことを聞けば、元神である悪魔が、あまり真っ当な性格をしてないことは明らかである。

 それは二人も分かっているであろうと知った上で、ギンは続けて言う。


「彼はただ平穏に過ごしたいと思っているが……しかし、その平穏に暮らす、という意味合いは普通の人間のそれとは少し違っていた。たとえば、そうだな……自分が住んでいる家の近くで毎晩騒音を聞かされれば、君たちならどうする?」

「どうって……どうにかしてやめさせようとするだろ」

「それは、どんな方法で?」

「どんな方法って……そりゃ、最初は口で言ってきかせるか、それでもだめなら、まぁ、多少荒い事もするかもしれないが……」

「そうだね。だが、彼の場合は違う。何の迷いもなく、即座に相手を消し炭にする。そうすることで、自分の平穏が保たれるからね」


 言われて。

 思わず、シドロは思考を停止するところだった。

 騒音を聞かされることは確かに嫌なことだ。やめてほしいことだし、シドロならきっと口にして注意する。

 だが、それでも。最初の一手で、相手を消し炭にする、なんて発想は出てこないだろうに。


「そういう男なのだよ。卑屈で根暗で思い込みが激しい……それだけならまだいい。だが、彼の場合は力があった。相手にその気がなくとも、自分を貶している、または自分の平穏の邪魔をしようとしていると思えば、即座に実力行使。徹底的に排除していった。加えて、周りのことに凄く敏感でね。少しでもおかしい、いつもと違う、何かが変だと思えば、その原因を徹底的に潰す……そして、考えてみてくれ。そんなことをずっとしていけば、世界はどうなると思う?」

「どうなるって……」

「答えは簡単。何もなくなったんだよ」


 その言葉に、もはや驚きを通りこして、二人は口を開けて呆けるしかなかった。


「呆れているね。当然の反応だ。周りのものが全て気になって気になって仕方なくなり、結果、壊して潰して消していったら何もなくなった……正直、私もどうかしていると思う。だが、もっとあり得ないことが、その状況に対し、元神である悪魔は憤りを感じた、ということだな」

「憤り……?」

「世界が無くなったのは、自分を受け入れない者たちのせいだ。ゆえに自分ではなく、悪いのは世界の方だった。だから、自分を受け入れ、平穏に暮らせる世界を探そう……そんな結論に至ったわけだ」


 世界が無くしたくせに、世界が無くなったのは、自分のせいではない。周りが自分を受け入れなかったから。

 …………何だそれは。何かの冗談か?

 そんな子供じみた存在が、仮にも神をやっていた?

 そして、世界を真っ白に変えて、壊した?

 それが本当だとするのなら、あまりにもタチが悪すぎる。


「そうしてやってきた元神は、そんな性根を見透かされてか、速攻でこの世界の神に叩き潰され、『狭間』に閉じ込められた、というわけだ。正直、この世界の神も自分の威光が失われることを恐れた、というのもあるだろうが、しかしそれ以上に悪魔の正体を見抜いていたんだろうねぇ」


 先ほどの説明だと、この世界の神が、他所から来た元神を恐れ、排除した、という風に聞こえるが……今の内容を踏まえるに、この世界の神がとった行動は間違っていなかったと言えるだろう。


「話は戻るが、悪魔は『無能者』を生み出し、魔女が生まれる仕組みを作り上げた……だが、魔女の全てが自分を身籠ることができる素材というわけではない。むしろ、そういう素体が生まれてくること自体がほぼなかった。『無能者』が生まれてくる確率は極わずか。その極わずかな者たちの中から自分を産むに値する者はさらに極わずか……それは最早、ほぼ零に近い確率と言っていい」


 故に、とギンは強調してさらに続ける。


「だから、奴は考えた。自然に生まれてこないのであれば、自分の手で作りだすしかない、と。だから、奴は自分の分身を作り、人間として行動させ、情報を集めた。ある時は魔術師として。ある時は商人として。そして、ある時は……鍛冶師として」


 鍛冶師。

 その言葉にいち早く反応したのは、フールだった。

 それもそのはず。彼女にとって、その単語はある意味禁忌であり、聞くだけで怒りと憎しみが表に出てきてしまうほど。

 実際、今も尚、その無表情が崩れ、唇を思いっきりかみしめている。

 そして、同時に彼女は気づいた。


「……今の発言からするに、もしや……」

「君が思っている通りさ。君や君の仲間を魔女に、そして魔剣に作り替え、そして魔王を誕生させたあの鍛冶師。奴こそが、悪魔の分身だったのさ」


 その言葉によって。

 フールは自分の仇が、悪魔のような者ではなく、本当の意味で、悪魔であることを理解したのだった。

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