十四話 よそ者が嫌われるのはよくあること
「そもそもの始まりは、一人の悪魔からだった」
怪訝な顔をしているシドロをフールを他所に、ギンの話は始まった。
「悪魔……と呼称しているが、それは一般的な意味ではない。彼は、異世界からやってきた、神だったんだよ」
「異世界の……神……?」
「ああ。異世界。文字通り、こことは全く別の世界。どうやら彼は、とある理由から自分の世界を無くし、迷いに迷って、この世界に渡ってきたらしい」
未だ異世界というものが存在することに信じることができない二人であったが、しかし今はとりあえず、ギンの話を聞くことにした。
「当初、彼には世界をどうこうするつもりなど、さらさらなかった。彼はただ、この世界で穏やかに過ごしたい……そう思っていたのだが、しかしそれをこの世界の神は許さなかった」
「? 何でだよ」
「神は一人で十分、否、一人ではなくてはならない。でなければその威光は集中せず、分散してしまう。それを嫌がった神は、異世界からやってきた彼を徹底的に排除しようとした。結果、異世界の神は敗れ、『狭間』に封印されてしまった。五の碁、この世界の神は、自分を脅かす存在を否定するために、悪魔という枠組みに抑え込んだんだ」
その説明に、シドロは難しい表情を浮かべる。
確かに、唐突に他所からきた人間が、自分の領域で勝手に住み始めたとなれば、元々住んでいる人間からしてみれば、あまり快くないことだ。だがしかし、その人物にはこちらを害するつもりなどないというのに、己の威光を保つために、排除しようとする、となればまた話は違ってくる。
「ただ存在したいと願っただけなのに、自分を排除しようとし、『狭間』に閉じ込められ、神から悪魔の枠組みに抑え込まれたことによって、彼は激怒した」
別に何かよからぬことをするつもりなど無かったと言うのに、一方的に排除され、しかも『神』という呼称すらも取り上げられた、となれば、確かに激怒するには十分な理由なのかもしれない。
「彼は神を、世界を呪った……それによって、この世界には、一つの呪いが誕生した」
「呪い……?」
「当初、この世界では、誰もがスキルを持って生まれてくる。それには誰一人として例外はおらず、強弱や使いやすさなどは別として、本当に誰しもがスキルを持っていた……だが、異世界の神が悪魔に堕ち、世界を呪ったことで、その常識が覆されるようになってしまった」
その話を聞いた時、シドロの中で、何かが頭をよぎった。
誰もがスキルを持っている。それは今でも変わらない……いいや、違う。確かに、大勢の人間がスキルを持つが、しかし、そうでない人間もいる。
それはつまり。
「……もしかして、『無能者』のことですか……?」
そうつぶやいたのは、驚いてる様子のフールだった。
スキルを持たない人間である『無能者』。それが誕生したのが、異世界の神であり、悪魔だった、となれば当然の反応だろう。
そして、フールの言葉に、ギンは大きく頷く。
「その通り。神の恩恵を持たない者たち、即ち『無能者』が現れるようになった。とはいえ、その数は極少数。神が警戒するべき事柄ではないとされていた……最初のうちは、だがね」
最初のうちは……その言葉を強調させたかのような口ぶりに、シドロは妙な違和感を感じた。
「そもそも、何故悪魔は『無能者』が生まれるようにしたのか……単に、自分を陥れた神への嫌がらせ? いやいや、仮にも異世界で神をやっていた者が、そんなこざかしいことをするかね?」
「それは……」
確かに、言われてみれば、その通りである。
これが、世界規模で人間がスキルを使えないようになった、となれば、自分を排除しようとした神への仕返しともいえるだろうが、今現在、『無能者』が生まれてくる確率はかなり低い。
では、何故悪魔は『無能者』を生み出したのか。
「時に、君たちは疑問思ったことはないか? どうして、『無能者』は女しかいないのか、と」
「そりゃあ……確かに、変だなぁとは思ったことはあるけど……」
「それが、何か関係があると?」
フールの言葉に、ギンは不敵に笑う。
「ヒヒヒ。大有りだとも。何せ……女性でなければ、子供は産めないからねぇ」
「―――どういう、意味ですか……?」
子供を産めない? 意味が分からない。
確かに女性でなければ、子供を産むことはできないが、しかしそれが一体何の関係があるというのか。
その問いに答えるかのように、ギンは続けて言う。
「言ったように、悪魔は『狭間』と呼ばれる場所に閉じ込めれられている。そこは全てがあやふやな場所であり、たとえ神ですら、実体を保つことができない。けれど、そんな場所から抜け出す方法が一つある。人間の女に自分の子供を宿し、その子供としてこの世界に生まれることだ」
「そんな……では、まさか、魔女とは……」
声音を震えさせるフール。シドロもまさか、という気持ちだった。
あり得ない……そう否定したい二人であったが。
「そう。『無能者』、否、魔女とは即ち―――悪魔の花嫁候補のことを指すのだよ」
ギンは、そんな二人の気持ちを切り捨てるかのように、言い放ったのだった。
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