十三話 突拍子もないこと言われると、眉をひそめるよね
「貴方が、彼女を作った……?」
その言葉に動揺を隠せないフール。
当然だ。最初の魔剣を作り出した、ということは魔剣に関するすべてのことがらは、彼が発端であるということ。
それはつまり、魔王やフールが魔剣となったことにも無関係ではないということだ。
「そう。つまりは、魔剣を作った開祖、とでもいえる。そして、だからこそ、君には私を恨む権利はある。何せ、魔剣という存在を作り出してしまったせいで、あの男にそれを知られてしまい、結果、君や魔王が生まれるハメになったのだから」
まるですべてを知っているかのように、ギンは語る。
「……そこまで知っているのですね」
「ああ。これでも『助言者』と呼ばれているからねぇ。全てを知っている、とは言わないが、大まかなことは知っているつもりだ」
流石、というべきか。
ギンはフールの身に起こったことを知っているようだった。そして、同時に自分が彼女を絶望の淵に叩き込む要因を作り出したことも理解している。
そもそも、ギンが魔剣を作り出さなければ、フールが魔剣になることはなく、魔王が生まれることもなかった。彼女が地獄のような苦しみを味わうことも、大切な仲間を失うこともなかったともいえる。
思わず、心配になったシドロは、フールに声をかけた。
「フール……」
「―――大丈夫ですよ、マスター」
だが、シドロの不安とは裏腹に、フールは苦笑しながらそんな言葉を吐いた。
そこには、怒りはなく、どこまでも落ち着いた様子である。
そして、だからこそ、だろうか。
ギンはどこか、意外と言わんばかりの顔をしていた。
「……これは予想外の反応だ。てっきり、殺しに来るかと思ってんだが」
「確かに。貴方が魔剣が誕生したきっかけであるのなら、思うところは多々あります……しかし、貴方が私を苦しめたわけでも、仲間を殺したわけでもない。そこをたがえるほど、私は愚かなつもりはありません。それよりも、貴方の先ほどの発言からして、私達をここに連れてきた、ということは、私達に興味を持った、と解釈してもよろしいので?」
まるで、自分のことは後回しと言いたげなフールに対し、ギンは不敵な笑みを浮かべながら、答える。
「ああ。そう思ってもらった構わない」
「なら、私達は『試練』を突破した、と考えていいというわけですか」
「そういうことになるな。君らの行動はずっとここから見させてもらっていた。その上で、私は君らのことを知りたいと思い、ここに誘った、というわけだ」
「では、私達の質問に答えてもらえると思っていいのでしょうか」
「私の答えられる範囲でなら。まぁ、こちらも色々と質問をさせてもらうがね」
あっさりと了承するギン。
その質問とやらが少々気になるが、しかし、何はともあれ言質はとった。
ここまで色々と苦労したのだ。ならば、早速聞きたいことを聞くとしよう。
「そ、それじゃあ、ちょっと聞かせてほしいんだがよ……ぶっちゃけ、魔王の奴は一体何がしたいんだ?」
魔王が世界を滅ぼそうとしていたのは理解している
その魔王の正体が、魔女を元に作られた魔剣だということも知っている。
そして、その魔王が再び動き出したことも分かっている。
だが……その目的は、一体何なのか。
どうして世界を滅ぼそうとしているのか。どうして魔獣を操り、人々を殺そうとするのか。その意図は? 目的は?
魔王は世界を滅ぼすもの……今までそういう認識でいたのは間違いなく、だからこそ倒すべき相手だということが先に来ていて、相手の目的を知ろうとはしなかった。
だからこそ、答えを知っているであろう『助言者』に、シドロはその問いを投げかけたのだった。
「ヒヒヒ。最初の質問が、まさかそれとはね」
「な、何だよ、おかしいかよ……」
「いやいや。懐かしいと思っただけだよ。何せ、アリアを連れた彼……君らが『勇者』と呼んでいるあの男も、最初に問いかけてきたのが、それだったものでね」
どうやら『勇者』であるガレスも同じ疑問を抱いてたようだった。
だとするのなら、彼はその答えを知り、その上で魔王を倒した、ということなのだろうか。
ならば、その答えとは……。
「まぁ、君らがその点を気にするのは当然だろう。魔王は世界を滅ぼそうとした。けれど、それは何故か。恐らく、世界中のほとんどの人間はそれを知らないだろうし、だからこそ、君らは知りたがっている。が、その問いに答える前に、色々と説明をさせてもらうとしよう。でなければ、全てを理解することはできないのでね」
言いながら、ギンは近くにあった椅子に腰を掛けた。
「とはいえ、まずは何から説明するか……うむ。そうだな。とりあえず―――君たちは、異世界というものを知っているかね?」
瞬間。
シドロとフールは、同じタイミングで、眉をひそめ、首を傾げたのであった。