十二話 新事実というのは怒涛の如く出てくるもの
「アンタが、『助言者』……?」
予想外の展開……ではなかった。
ここには、『助言者』に会うためにやってきたのだ。ならば、現れた人間が、『助言者』である可能性は常に存在している。
そもそもにして、目の前の老人からは異様な雰囲気が漂っており、だからこそ、『助言者』だと言われても何もおかしくはなかった。
「まぁ私が自分から名乗っているわけではないがね。ここに来れた連中にあれこれ教えてやったら、いつの間にかそういう風に名前が広がった、というわけだ……にしても、まさかあの娘以外の魔剣に出くわすとは。いやはや、世の中、数奇なものだ」
あの娘以外の魔剣。
その言葉にすかさず反応したのは、フールだった。
唐突に、剣から人の状態へと戻り、まゆをひそめた表情で、ギンに問う。
「あの娘、と言いましたが……まさか、貴方は魔王と面識があるのですか?」
鋭い一言。
やはり、というべきか。フールは魔王のことになると、その無表情が崩れ、険しい顔になることが多い。まぁ、彼女が魔王にされた仕打ちを考えれば、当然と言えば当然ではあるが。
だがしかし、そんなフールに返ってきたのは、意外な言葉だった。
「ああ、どうやら誤解がある言い方をしてしまったらしいな。私はお前達が言う魔王とやらとは会ったことがない。というか、奴はここに来れないからな」
「それはどういうことですか?」
魔王はここに来れない、とギンは断言した。
それはどういうことなのか……そう口にする前に、ギンは続けて言う。
「ここに来れるのは、『試練』を受けると願う人間のみだ。魔剣になってしまった魔王とやらには、そもそもここに来る資格がない。そのため、あれの前には洞窟すら現れん」
「そうなのか?」
「ああ。まぁ、とはいえ、魔剣が絶対にここに来れない、というわけではない。現に、そこのお嬢さんはここに来れているだろう? それは、そっちの彼の剣として来ているわけだ。ようは、持ち物認定されているわけだ」
言われて、フールがここにいる理由が分かった。
確かに、フールはシドロの魔剣であり、彼が所有している。だとするのなら、シドロの持ち物、という解釈をすることは確かに可能だ。
「でも、なら魔王も人間の持ち主を見つけてここに来ればいいんじゃねぇのか?」
「ヒヒヒ。確かに、理屈を言えばその通りだが……魔王の特性を知っているかね?」
「特性って……何でも切れるってことか?」
「それも確かにそうだが……持ち主の体を乗っ取る、というものだよ。あれのおかげで、奴は人に使われるのではなく、人を使う魔剣になれたわけだが、しかしそれが仇となり、乗っ取った人間は奴自身と認識されてしまうのだよ。そのせいで、奴の前には『試練』の洞窟は現れない、というわけだ。ま、尤も、奴が来たところで、私は奴に会うつもりがないゆえに、奴が『試練』を突破することは決してないわけだが」
「? どういうことだよ」
会うつもりがないから、『試練』を突破できない?
それは一体どういう意味なのか。
「そもそも、『試練』というのは、私に観察され、興味を持たせることができるかどうか、というものなんだよ。長い長い洞窟。そこに閉じ込められた人間は、おのずと本性が曝け出させるものだ。その人間をじっくり観察し、そして興味を持てばここへと案内する……そういうものだったんだよ」
ギンの答えを聞いて、唖然とするシドロ。
「なんだよ、それ……『試練』でも何でもないじゃん……」
何かを試すわけでも何でもない……ただ、興味を持つかどうか。
そんなもの、シドロ達がどうこうできるものではないではないか。
「まぁそうだな。とはいえ、『試練』だなんだって言いだしたのはそっちであって、私ではないのだから、そこは責任を取ることはできんよ」
言われて、しかしシドロは反論することができなかった。
なので、とりあえず、話を修正することにした。
「さっき別の魔剣の話っつってたな。そりゃもしかして、『勇者』ガレスとここに来たっていう、魔剣のことか?」
シドロ達が知っている情報で、ここに来た魔剣となれば、もうガレスが持っていたという魔剣しか存在しない。
そして、その予想は的中したようであり、ギンは驚いたように目を見開いた。
「? 何だ。君たちはアリアのことを知っているのかね。あれには酷なことをしてしまったよ。彼女の最期に関しても、作った親として哀しい限りだ」
「作った親……? まさか」
その言葉の意味するところは何か。
親、という一言であれば、単純明快。そのままの意味だろう。
だがしかし、その前に『作った』とという単語が出てくれた話は別。
産んだ、ではなく、作った……この言葉が意味するところは、恐らく一つ。
そして。
「君らの想像通り。彼女を作ったのは、私だよ」
まるで、シドロ達の予想を補強するかのように、ギンは端的に答えたのであった。