表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/87

十一話 知らない老人が出てきたら誰だって警戒するよね

 それは、唐突にやってきた。


「………………へ?」


 思わず、そんな素っ頓狂な声を上げてしまうシドロ。 

 しかし、無理もないだろう。

 彼はこれまで、ずっと歩き続けてきた。それこそ、一ヶ月……いや、もう三か月になるか。それだけの間、狭い洞窟の中、ただひらすらに前へ前へと進み続けてきたわけだが、しかし、その先は一向に何もなく、背後には壁がしっかりとついてくるのみ。


 そんな中だ。

 何の前ぶりもなく、奇妙な扉が現れれば、誰だって驚くだろう。


「おい……おい、フール。あれ、俺の目の錯覚じゃないよな……目の前に、扉があるよな……?」

『はい。私にも見えます』


 フールに確認しながら、目前の扉が幻覚ではないことを確認。

 正直、食料も本当にない状態で、ここまでやってきたため、幻が見えてもおかしくはない状態であった。

 そんな中に突然姿を現した、謎の扉。

 そう、扉なのだ。こんな洞窟内には似つかわしくない、木製の扉。何やら文様が刻まれているものの、シドロにはそれが何なのか、全く分からない。

 先ほどまでは、確かに何もなかったはず。

 だというのに、いつ現れたのか、全く分からなかった。


「これは……誘ってやがるのか?」

『でしょうね。罠の可能性は十分にあります。どうしますか、マスター』

「どうもこうもねぇ。行くしかねぇだろ」


 明らかに異様な状況。しかし、それを言うのなら、これまで一本道をただひたすらに歩き続けてきたこと自体が、異常である。

 これがたとえ罠だったとしても、今更それが何だと言うのか。


「それじゃあ、いくぞ」


 そう言いつつ、シドロはドアノブをまわし、思いっきり扉を開いた。

 そして。


「なん、じゃ、こりゃ……」


 シドロが目にしたのは、別世界だった。

 いや、これは比喩ではない。自分のような身分では到底見ることができない別世界の景色、などというものではない。

 本当に、見たことのないものが、そこには並んでいた。


 まず、そこは鉄のようなものでできた部屋だった。

 鉄のような、という言葉で誤魔化したのは、シドロが見たこともない素材で構成されいたからだ。土ではなく、レンガでもない。一番近いであろうたとえが鉄だったのだ。

 そして、おかしなものは、それだけではない。


 部屋中にある円柱の大きな水槽。そこには、いくつもの奇妙な生物が浮かんでいた。無論、その生物も全く見たことがなく、ただただグロテスクなことだけは理解できた。


「なんだよ、ここは……」

『分かりません……見たことがないものばかりですね……』


 その声音は、いつもと違って、どこか驚きを隠せていない様子だった。当然だろう。流石のフールも、こんなものを目にするのは初めてだったに違いない。

 異質、異様、異常。

 自分たちが見てきたものが覆されるような、見たこともないものが山のように存在する。まさに、全てが異なる場所……異世界だ。

 そして、そんな中を警戒しながら歩いていると。




「―――キヒヒヒ。全く。あれだけ追い詰めても根負けしないとは、大した男だな、君は」

「―――っ、誰だ!?」




 突如として聞こえてきた声に即座に反応し、シドロは振り返る。

 そこにいたのは、一人の老人。

 長い枯れた白髪は片目を覆っており、左目しか見えていない。腰は曲がっており、姿勢は悪く、右手には体を支えているであろう杖を持っていた。服は少し奇妙であり、白いマントのようなものを羽織っている。

 だが、一番特徴的なのは、その顔。

 半分しか見えないが、まるで魚のようなギョロ眼をしながら、こちらを見ながら笑みを浮かべていた。


「ヒヒ。そう警戒するでない。こちらには敵対の意思は全くない。その証拠に、こうして招いてやったのだから」

「はっ、どうかな……ここに誘い込み、油断させた後に襲ってくるかもしれないだろ?」

「なるほど。確かにそういう取り方もできるか。いやはや、君は警戒心が強いようだねぇ」

「そりゃあこんな場所に誘われてきて、挙句唐突に出てきた知らない爺さんを見たら、誰だって警戒するだろうが」


 長い長い洞窟。唐突に現れた扉。見たこともない部屋と設備。そして見知らぬ不気味な老人……これだけの要因が揃っていて、何も用心するな、というのはあまりにも無理があるというもの


「キヒヒ。ご指摘ご尤も。そちらが警戒するのは当然の判断だ。だが……しかし困ったな。このままでは話し合いにもならん。ま、取り合えずお互いのことを知るということで、自己紹介するとしよう」


 そう言って、老人は両手で杖の持ちてに手を添えながら。


「初めまして、というべきか。私はギン。誰が呼び始めたかは知らんが、多くの者から『助言者』と呼ばれる者だ。どうぞよろしく」


 はっきりと、確かにそういったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ