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八話 危険な場所に行くと言えば、誰だって怒るもの

 二週間後。


「―――ここが、『試練』の洞窟か」


 シドロとフールは、『助言者』がいう洞窟の入り口にやってきていた。


「本当にいくのですか? マスター」

「当たり前だろ、ここまで来たんだからよ……まぁ、ぶっちゃけめっちゃ怖いけど」

「はぁ…………そこでそういうことを言ってしまうマスターは、やはり残念と言わざるを得ません」


 などと言いつつ、フールは呆れる。

 今、ここにいるのはシドロとフールの二人のみ。他の面々も途中までは一緒に来ていたのだが、洞窟がある森、その手前で別れた。

 その理由はというと。


『森の中にある「試練」の洞窟は、試練を受ける人間の前にしか現れない』


 そういったのは、ルーサーであった。

 そして、その言葉通り、森の中に入ってから数分後、『試練』の洞窟は、どこからともなく、シドロ達の前に現れたのであった。


「まぁ、そもそもにしてここに来ている時点で、残念を通り越して、頭が悪いと言えますが」

「うぐ……んだよ、まだ説教するつもりか?」

「いえいえそんなまさか。あれだけ説得したというのに、全くいうことを聞かず、ここまで来ている人に今更何を言えと?」


 その言葉に、何も言い返せないシドロ。

 そんな彼に畳み込むように、フールは続ける。


「全く……あの王様に見事に丸め込まれてしまうとは」

「別に丸め込まれたわけじゃねぇぞ……ただ、あの人の言い分も一理あるなって思っただけで……」

「それでここまで来たと? 何ですかそれ。本当にあり得ません。パーシルさんがあそこまで激怒する理由も当然でしょう」


 ここに来るまで、二週間かかった、と言ったが、それはこの場所が王都から遠かったからではない。パーシルの説得に、かなりの時間がかかったからである。

 シドロが『試練』を受けると言った瞬間、彼がとったのは、断固反対の姿勢だった。


「パーシルの奴、めっちゃ怒ってたよな……正直、あそこまでキレてるパーシル見るの、初めてだったわ」

「それはそうでしょう。九割九分の確率で廃人になるところに、面倒を見てきた子供をいかせたいと思う人がいるわけないでしょうに」


 当然だと言わんばかりのフール。それに対し、シドロもその通りだと思っていた。

 誰が好き好んで、知り合いの息子を危険な場所に行かせようとするのか。


「逆に言えば、あだけ激昂していたパーシルさんを抑え込んだあの王様は、相当な人物と言えますが。とはいえ、あの老人、個人的にはあまり信用したくありませんし。勇者と最初の魔剣の話を、わざわざパーシルさんがいないところでしたところとか、あまり関心できることではありませんし……それに、この件には一つ気がかりなことがあります」

「気がかりなこと?」

「前回、『試練』を乗り越え、『助言者』の力によって魔王を倒した、となれば、魔王はそれに対して何か策を弄しているとは思いませんか? ですが、ここに来るまでに魔王の襲撃はなく、『試練』の洞口も普通に存在している。怪しいと思わない方がどうかしてますよ」


 その点については、シドロも不思議には思っていた。

 前回の戦い、魔王の敗因は奇襲を仕掛けれたこと。そして、その原因となったのは『助言者』だ。ならば、それに対しての妨害をしてくると思ったのだが、そんな気配は一向になかった。

 そして、『試練』の洞窟もこの通り、壊されている気配はない。


「もしかして、もう『助言者』っていうのは殺されてるとか……?」

「可能性はありますね。ですが、マスターは行くのをやめるつもりはないのでしょう?」

「まぁな……ってか、そんなに文句言うんだったら、ついてこなきゃよかったじゃねぇか」

「そういうわけにもいきません。あの国王の言うことが正しければ、この『試練』を乗り越える条件は、魔剣の存在が必要不可欠ですから。それに、一応、私はマスターの相棒ですからね。貴方が行くというのであれば、それが地獄だろうがなんだろうが、どこまでもお供いたしますよ」

「…………、」

「? 何ですか。その虚をつかれたみたいな顔は」

「いや、みたいな、じゃなくて、実際そういう感じなんだが……」


 まさか、真正面から「どこまでもお供します」なんて言われるとは思ってなかった。

 そして、改めて思う。ここに来たのは自分の我儘であり、フールはそれに付き合わされているのだ、と。

 そのことに悪いと思いながら、シドロは彼女に向かって言う。


「何ていうか……ありがとな、フール」


 シドロの言葉に、フールはいつもの無表情のままで言い返した。


「………ま、貴方が頑固者だという性格は理解してますので、もうあきらめてますがね」


 仕方ない、と言わんばかりの態度を取りつつ、フールは剣の姿になり、シドロは、そんな彼女を握り、担いだ。


『さて。鬼が出るか蛇が出るか……行きましょうか、マスター』

「おうっ」


 そう言って、二人は『試練』の洞窟へと、足を踏み入れたのだった。

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