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七話 あくまで、とか言われると逆に気になる

すみません! 一日遅れました!!

「―――あり得ません」


 ルーサーの言葉に対し、フールは真っ向から否定の言葉を述べた。


「本物の魔剣は魔女を用いなければ作れないはず……そして、私と魔王以外の魔剣は全て、破棄されたはずです」


 フールは魔剣として作られた者の一人であり、それ以外の仲間は全員殺された。それも、魔王に試し切りされて。

 そのことに未だフールは怒りを感じており、だからこそ復讐すると心に誓っている。

 ならば、その中でたまたま生き残りがいたのでは、という予想をするシドロだったが、次のフールの言葉でそれは否定された。


「あの時、あの女に私の仲間は全員殺されました。間違いなく……誰一人として、生き残ってはいない。そして、切り殺した後、あの女は死体すら消し炭にしました。それを……拘束された私は、何もできずに見ていることしかできなかった」


 ぎゅっと拳を作りながら、フールは呟く。

 その時、彼女がどんな感情だったのか、シドロには分からない。自分の仲間を目の前で惨殺され、あまつさえその死体まで消し炭にされる……想像などできるわけがなかった。

 とはいえ、だ。フールが言うように、他の魔剣にされた魔女達が全員死んだとなれば、『勇者』ガレスは一体どこで魔剣を手に入れたのか。

 っと、そこでフールが導き出した一つの答えが。


「……まさか、貴方達は、自分たちで魔剣を作ったとでもいうつもりですか?」


 目には目を、歯には歯を、魔剣には魔剣を。そんな理屈で、魔王に対抗するため、新たな魔剣を作ったのではないか……?

 けれども、フールのその予想は、杞憂に終わった。


「いいや、流石にそこまではしていない。魔剣の生成方法は、既に失われている。一応、魔剣の作り方については調べたため、魔女を用いることは知っている。じゃが、それだけじゃ。素材を知ったところで、工程をしらなければ、作りようもない」

「だったら……」


 何故、と言いたげなフールに対し、ルーサーは逆に問いを投げかけた。


「魔剣であるお前さんなら、知っているのではないか? そもそも、魔王やお前さん以外にも、一本だけ魔剣があることを」


 本物の魔剣。

 魔女から作られた魔剣が、そう呼ばれるのは、そもそも魔石を元として作る魔剣よりも、もっと前に作られたため。

 それこそ、魔王やフールが作られる以前よりも、はるか昔に。


「まさか……」

「そう……ガレスが持っていたのは、最初に作られた魔剣であり、魔剣の祖ともいえる、最初の魔剣じゃ」


 最初の魔剣。

 一つの国を滅ぼしたと言われる魔剣であり、ある意味においては、魔王やフールの大先輩にあたる存在である。

 そんな存在を、『勇者』であるガレスは使っていたというが……。


「魔王が出現して以降、ガレスの前に彼女が現れた。同じ魔剣が起こした問題を解決したい、とな。それでわしらは彼女の協力の元、魔王が魔剣であることやその特性について知ることができたというわけじゃ……まぁ、その彼女も、先の戦いで犠牲となったがな」


 初耳だった。

 皆の英雄、『勇者』ガレスが魔剣を持っていたこと。その魔剣が世界初の魔剣であったこと。そして……そんな彼女もまた、先の戦いの犠牲になっていること。

 それらは驚くべき事実ではあるが、しかし、それでもシドロは言う。


「け、けど、共通点っつっても、それだけなんすよね? 確かに、本物の魔剣は珍しいけど、でもそれだけで……」

「ああ。その通り。だから、魔剣があったから、ガレスが『試練』を踏破できた、とは必ずしも言えない」


 けれども。


「じゃが、ではなぜガレスだけは突破できたのか。実力があったから? 精神的に強かったから? ……いいや、それはない。何故なら、挑戦した奴の中には、ガレスよりも実力が強かった者はいるし、そもそも、ガレスはそこまで精神的に強い男ではなかった」

「そんな……あの、『勇者』ガレスが……?」

「確かにガレスは強いが、正直に言えば、それは魔剣の使い手であったがため。魔剣を持ったあやつは最強じゃったが、魔剣を抜きにして言えば、奴は勇者パーティーの中では最弱じゃった。加えて言うのなら、精神的なことを言えば、そこまでではなかった……無論、そんなことがバレては一大事じゃから、そういう噂が流れないようにはしていがの」


 信じられない……いいや、信じたくなかった、というべきか。

 シドロも『勇者』ガレスのことは無論知っていたし、尊敬もしている。誰からも憧れる英雄であり、最強の存在。

 そんな彼が、魔剣があったから強かった、と言われてしまえば、ショックを受けないわけがなかった。


「無論、あやつの素の実力が全くなかったというわけではない。じゃが、それはおおよそ強者という枠組みであって、規格外というわけではなかった。そんなあやつが、他の面々を差し置いて、何故『試練』を突破できたのか。他の者たちとの決定的な違いは何か。儂が考えるに、それは一つしかない」

「つまり……魔剣の保持者だった、ということですか?」


 ルーサーの言い分は、少々強引なところもある。

 そもそも、『試練』の内容が分からないのだから、何がきっかけで踏破できるかなど、誰にも分かるわけがない。

 けれども、だ。

 多くの犠牲者を出した上で、何故ガレスだけが『試練』を乗り越えられたのか。それを第三者からの視点でみれば、ガレスが突破できた要因として『魔剣』が関わっているのでは、と考えるのが普通なのかもしれない。


「まぁ、あくまでも予想じゃ。絶対というわけではない。ただ、そういう……そういう可能性もある、ということだけは理解しておいてくれ。儂は、それだけを伝えにきただけじゃからな」


 そう言って、ルーサーはそのままシドロ達の前から去っていったのだった。


「…………、」


 シドロは、ルーサーの言葉を今一度、思い出す。

 ガレスが魔剣を持っていたこと。それが要因となって、『試練』を超えることができたのではないか、ということ。

 これはあくまでたとえ話。

 けれども……もしも、本当だとするのなら、自分以外が『試練』に挑んでも、誰も成功しないのではないのか。

 シドロは、そんなことを考えに考えながら、夜を過ごしたのだった。




 そして翌日。



「俺、『試練』を受けるよ」



 一晩考えて出した結論を、シドロはパーシルに対し、告げたのだった。 

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