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六話 話し合いの時、重要なことを言わない人っているよね

 会合の後。

 既に外には月が出ており、シドロは、酒場の二階に用意されていた客室で一人考え事をしていた。


「―――マスター、すこしよろしいですか」


 ベットに横たわりながら天井を見上げていると、フールがシドロの部屋へとやってきた。


「何だよ、改まって」

「いえ、マスターがまた馬鹿なことを考えているのでは思ったので」

「馬鹿なことって……」

「マスター。貴方、『試練』を受けるおつもりではありませんか?」


 ド直球な質問。

 それに対し、シドロは肯定も否定もしなかった。だが、それこそがもう答えであり、フールは呆れたような溜息を吐く。


「はぁ……やっぱりそうなんですね」

「いや、だってよ……」

「だってではありません。いいですか? 『試練』はあくまで『助言者』へたどり着くためのもの。貴方がいく必要性はどこにもないんです。むしろ、貴方が行かなければならない理由が全くないんです」

「そうかもしれないけどよ……」


 そう。フールの言っていることはまったくもって正しい。

 シドロは現状、フールの担い手であり、魔王に対する切り札の一つでもある。そんな彼がわざわざ精神崩壊の危険性が非常に高い場所に行くことなど、愚の骨頂だ。

 これがまだ、魔王を倒すためにシドロ個人がどうしても行かなければならない、というのならまだ分かるが、しかし『試練』は誰にでも受けることができる。

 ゆえに、別の誰かが行くのが最善の手。

 正直なところ、シドロもそれは理解している。だが、危険地帯に他人を向かわせて、自分は安全な場所で待つ、というのが納得できない、というわけだ。

 とはいえ、そんなものは単なる子供の我儘でしかない。

 だからこそ、フールの言い分を素直に聞き入れようとしたその時。


「―――いんや、そういうわけでもないぞ」


 ふと、そこで第三者が現れた。

 ドアの方を見ると、そこには国王・ルーサーが立っていたのだった。


「貴方は……」

「ほほっ。昼間ぶりじゃな」

「どうしたんすか、こんな時間に」

「いやいや、少し世間話をしようと思ってな……昼間の時だと、パーシルが恐らく邪魔しにくると思ったのでのう」

「? どういうことですか?」

「あの場では言ってなかったが、『試練』についてじゃがの。当時、あれに挑戦した者は五百人を超えておるのじゃ」

「ご、ひゃく……?」


 あまりの人数に、思わず言葉を失うシドロ。

 パーシルとルーサーは言っていた。『試練』に挑み、乗り越えることができたのは、『勇者』ガレスのみだと。

 それは、つまりは……。


「『試練』に挑めばどうなるのか、それは分かっていた。だからこそ、勇者パーティーの面々に行かせるつもりはなかったんじゃが……その結果、五百人の兵士たちが精神崩壊を起こした。無論、ただ無差別に行かせたわけではない。精神的に強い者、戦闘が強い者。その他諸々の条件をクリアした者たちのみを活かせたわけじゃが……結果はことごとく惨敗。加えて、当時はもう魔獣の暴走があちこちでおき、もう後がない状態だった。故に」

「最終的に、勇者パーティー全員が挑んだ、というわけですか」


 フールの言葉に、ルーサーは頷く。


「その結果はお前さん達も知っての通り。ガレスは見事『試練』を乗り越え、ガレス以外のメンバーは全員半年以上の意識不明になったが、それでも廃人にならずに済んだ。そして、ガレスが持ち帰った情報をもとに魔王に奇襲をかけ、討伐に成功した……そのことに間違いは一切ない。ただ一つ、大事な要因が取り除かれているがな」

「大事な、要因……?」


 ここに来て、未だ知らされていないことがあるのだとシドロは理解したが、しかしそれは一体なんだというのか。


「昼間、パーシルの奴は一つ言わなかったことがある。それは、今のお前さんとガレスの共通点だ」

「俺と、『勇者』ガレスの共通点……? いや、ないない。んなもんあるわけないでしょ。あの『勇者』ガレスと俺に共通点なんか……」


 皆の英雄である『勇者』ガレスとシドロの共通点。そんなもの、考えたところで全く出てこない。

 何せ、ガレスは一騎当千の猛者であり、戦場に出れば、文字通り千体の魔獣を軽く薙ぎ払えると言われている。

 確かに、今のシドロも、相手によっては無双できるかもしれないが、しかし流石にガレスと比べるのは酷というもの。

 そして、それを肯定するかのように、ルーサーはひげをなでながらシドロに言う。


「そうじゃのう。お前さんはガレスとは性格も実力も何もかも違うじゃろうて。纏う雰囲気とかも、全く違うしの」

「うぐ……」


 分かっていたことだが、改めて他人から言われると、それはそれで傷つく。

 だがしかし。


「それでも、一つだけ。たった一つだけ、同じところがある。いいや……同じようなものを持っていた(・・・・・)、というべきか」

「……まさか」


 その言葉で、フールは何か察したらしい。

 そんなフールの言葉に便乗するかのように。


「そう。あの時、ガレスは持っていたのじゃよ―――魔女を元に作られた、本物の魔剣をの」


 ルーサーは、そんなことを告げたのだった。

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