二話 秘密の会合は身近なところでやった方がバレない
ルトリア王国。
かつて、魔王が出現した際、勇者、そしてその仲間を輩出した国であり、シドロ達が住んでいる国でもある。
そんな国の王都にシドロ達は既に来ていた。
かつて倒したはずの魔王が再び姿を現したとなれば、一大事。今後のことを話しあうためにも、国王、ひいてはかつて魔王退治に参加した者たちと会合を開く、ということだったのだが。
「……で、何で俺達は酒場なんかに来てるんだ?」
シドロのその言葉通り、一行は真昼間から酒場へとやってきていた。
時間帯のせいもあるのか、酒場には客が全くいない。皆、仕事に行っているのだろう。そんな中、自分たちは魔王についての今後を話し合わなければならないというのに、何故悠長に酒場へとやってきているのか。
そんな疑問を抱くシドロに対し、パーシルは言い放つ。
「逆に何を期待していた? まさか、王都に来て、いきなり王城に行けるとでも思ったか?」
「いや、まぁ……そうだけど」
指摘されたような想像は無論していた。
何せ、国王とかつての勇者パーティーが集まると聞いていたのだから、それこそ王城に行き、そこで話し合うものだと思うのは自然なことだろう。
「色々と事情があってな。王城に行くことはできんのだ。それに、事情が事情だ。公にはできん」
「公にはできないって……魔王が復活したんだぞ? そんな悠長なこと言ってる場合かよ」
「だからこそだ。魔王が復活した、などと世間に知られてみろ。それこそ、大パニックになる」
かつて世界を震撼させた魔王。それを倒したことで、世界は平和になった……とさえ言われている程だ。
それが実は生きていました、と知られれば、大パニックになるのは必至。加えて言うのなら、勇者パーティーに対する批判がくるのも明らかであり、それを輩出した王国への信頼もガタ落ちになってしまう。
それを避けるための秘密の会合だと、パーシルは言う。
「でも、そんな大事な話を酒場なんかでしていいのかよ」
「ここは私の知り合いの店だ。店長には説明してある。客が全くいないもの店長の配慮だ。ここならば、どれだけ話しても問題あるまい。それに、万が一、間違えて誰かが入ってきたとしても、まさかこんなところで魔王退治の話をしている、なんて思う奴はそうはいないだろうさ」
言われ、真昼間とはいえ、客が誰一人いないのはそういう理由か、と納得するシドロ。確かに、王城などで話すよりは、ある意味安全かもしれない。
「その言い分は、まぁ一理あります。けれど、パーシル。そろそろ教えては貰えませんか? あの女が、何をしようとしているのかを」
ここに来るまで、パーシルに何をきいてもほとんど「会合の時に話す」の一言で、何も消えず仕舞いだった。
だが、ここに来て流石に何も教えてもらえない、というのはもう無理だ。
それを理解したのか、パーシルも観念したかのように口を開く。
「そうだな。では、彼らが来るまでその説明を……」
「―――おうおう。何じゃパーシルもう来とったんか」
と、そこで。
唐突に第三者がパーシルに話しかけてきた。
「全く、久しぶりに顔を見たを思ったら、また辛気臭そうな顔しておるな」
やってきたのは一人の酔っぱらないの老人。
真っ白な長い髭を生やしており、それと同じような白い衣装に身を包んでいる。ところどころに見える服の刺繍はかなり丁寧に作られており、ただの酔っ払いではないことが分かる。恐らく、身分が高い者だとは思うのだが。
「……何をしているのですか」
その老人を見て、パーシルは呆れたような口調で言い放つ。
「何を、とは随分な言い草じゃな。お前さんがここに呼びだしたと言うのに」
「確かにその通りではあります。が、ここに呼びだしたのは大切な話をするため。酒を飲んでいいとは一言も言ってませんが?」
「おいおい。つれないことを言うもんじゃないぞ。酒場に来て酒を飲むな、というのはあまりにも殺生じゃろうて。酒の一杯や二杯くらい、構わんじゃろうが」
「……と言いながら、それは何杯目で?」
「あー、ん~……さぁ? 十を超えたあたりから数えておらんかったからのう」
「よしそこになおれくされじじい。自分の立場を今一度分からせてやろう」
などと、最終的には砕けた言い方をするパーシル。
その様子から、シドロは老人とパーシルが顔見知りであることが理解できた。
だが、分かった上で、敢えてシドロは問いを投げかける。
「パーシル。その爺さん、知り合いか?」
今、シドロ達は大事な会合をしようとしている。そして、老人は言った。お前に呼ばれてきた、と。
ならばこの人物も関係者なのは明らか。
だからこそ、説明をしてもらおうと思ったのだが。
「知り合いというか、何というか……とても説明しずらい関係なのだが……っというか、本音を言うと、この状態でこの人のことを紹介したくはないのだが……」
パーシルは本当に、本当に、言いたくないと口にしたげな顔で、渋々とシドロに応える。
「信じられないかもしれないが……この方が、この国の王……ルーサー・カトリウス様だ」
その瞬間。
シドロとフール、二人の顔が同時に呆けてしまったのは、言うまでもないだろう。