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五十話 嵐は唐突に去っていくもの

 絶叫するナザン。

 彼女の体からは、奇妙な光が放出されており、それによって、どんどんナザンの体が変質していく。


「っ、ナザンッ!!

「いけませんマスター!! 彼女に近づかないでください!! 貴方も巻き込まれてしまう!!」


 シドロは、ナザンを助けようとするも、フールが必死になって止めに入った。

 そして、その時。


「シ、ドロ…………っ」


 体が光に溶けていき、だんだんと人間の姿ではなくなっていく中。

 ナザンは、シドロの方を向き、手を伸ばす。

 だが、しかし。


「た―――、て―――――」


 それが彼女の最後の言葉となった。

 瞬間、ナザンの体は完全に光となり、その光は彼女の背中に突き刺さっていた剣へと吸収される。すると、剣は、先ほどまでとは打って変わり、真っ黒な色になり、大きさも一回り大きくなっていた。


「―――鋳造完了っと」


 その言葉と共に、剣はひとりでに宙を舞い、ラムウの手元へと戻っていった。


「うんうん。予想通り、いいえ、予想以上の出来栄えね。やっぱり私の目に狂いはなかったってことね」


 一人だけ納得しながら頷くラムウ。

 一方のシドロはというと、状況に全くついていけず、頭が混乱状態であった。

 そして、フールはというと、顔をしかめ、信じられないと言わんばかりの口調で口を開く。


「もしやとは思いましたが、まさか本当にやってのけるとは……」

「おいフール、こりゃ一体どういうことだよ」

「……彼女、ナザンは既に悪魔と契約し、魔女になっていました。ならば……魔剣になれる素養はあります。そして、今、彼女は魔剣として鋳造されたのでしょう」

「はぁ!? いや、鋳造って……そんな簡単に魔剣になれるのか!?」

「いいえ。本来ならばありえません。前にも言ったように、魔剣は魔女を炎で溶かし、他の素材と混ぜ、その上で鋳造する……その地獄のような過程の中で精神が崩壊しなかった者のみが魔剣に転じることができます」


 そうやって己は生まれたのだから……そういうフールに対し、ラムウは答える。


「あははっ。何言ってるの。それは貴方たち旧式の話でしょう? 何のために、『あの方』が貴方たちを実験台にしたと思ってるの? より効率的に、魔剣を生み出すため。そして、私はその技術で作り出された成功例。その機能は、貴方たちよりも高性能なのは当然でしょう?」


 確かに。

 フールも言っていたように、彼女たちは踏み台であり、実験台。そして、ラムウはその実験の経験を経て生まれたもの。そこに差があるのは当然と言えば当然だろう。


「私はね、他の魔女の体を使って、自分を上位の存在に更新できるわけ。まぁ、この力を手に入れたのは、貴方たちを『試し切り』した後なんだけどね。いやー、ホント、もったいないことしたと思ってるのよ? こんなことなら、殺すんじゃなくて、更新の材料に使えばよかったってね。でも、更新をし続けていく内に、素材となる魔女の方にも色々と条件がつくようになっていったの。だから、母親の中にいたナザンを見つけた時は本当に喜んだわ。久々の更新ができるってね」


 だから、自分はナザンを魔女にし、ここまで成長させたのだと、

 どこまでも自己中心的な考え方。己のためだけに、どれだけの人間を犠牲したというのだろうか。

 だが、それをここで問い詰めても意味がないのもまた事実。


「……テメェ。ナザンを今すぐ元に戻せ!!」

「は? 何言ってるの? そんなのできるわけないじゃない。ナザンは私として更新したわけなんだから。もうこの世のどこにも、彼女はいないわよ」


 というか。


「そもそもさー。シドロ。さっきから貴方、おかしいわよ? 何で自分を殺そうとした奴のために怒ってるわけ? 意味わかんない。理解不能っていうか、気持ちが悪い。気色が悪い。気味が悪い。見ていて、ほーんと、イラつくんだよねぇ」


 睨むラムウ。そこにあるのは、ただただ純粋な嫌悪。まるで、この世の何よりも嫌っていると言わんばかりな視線だった。

 そして。


「だからさぁ――――とりあえず、死んどいてよ」


 刹那、というべき時間だった。

 本当に一瞬のできごと。

 瞬き一つしただけの間に、ラムウは一気に距離をつめ、その刃をシドロの首元を一閃しようとしていた。

 けれども。


「―――そう、何度も同じ手をくらうと思いますか?」


 その一撃を、フールが右手で弾き飛ばす。


「……………………………………は?」


 ここに来て、初めてラムウは素で驚きの表情を浮かべたのだった。

 何だそれは。あり得ないだろう。

 そんなことを言いたげな彼女に対し、フールは言い放つ。


「相手を油断させておいて、首を取りにくる……以前と変わりませんね」

「……どういうことよ。何で、平然と受け止められてるのよ。ここまで更新した私の一撃を」

「さぁ? 貴方の更新とやらが、まだ私の硬度に達していない……それだけの話でしょう?」

「……、」


 言われながら、ラムウは無言で後ろに跳び、距離を取る。

 そして、しばらくの間、沈黙が一同の中に走った。

 が、それを破ったのは、仕掛けてきたはずのラムウであった。


「……はぁ。やめやめ。今ので全く傷が入らないってことは、本当に貴方の硬度の方が勝ってるってことだし。今日のところは、ここら辺で退却するわ」

「テメェ……こんなことしておいて、逃げられるとでも思ってんのか!?」

「思ってるわよ。当然でしょ……あ、そうそう。パーシルに会ったら、これ、渡しておいてくれる?」


 そう言いながら、ラムウは小さな何かを放り投げる。

 キャッチすると、それは何やら赤い宝石で作られた丸いペンダントであった。


「ついでにこうも言っといて。貴方達が大事なものを犠牲にしてまで殺したはずの、嫌いで嫌いでたまらない魔王が帰ってきたぞってね」

「っ、おま、それどういう……」

「それじゃあね。さよなら」


 シドロの言葉を遮りながら、ラムウは地面を剣でひとつきする。

 すると、次の瞬間、突風が彼女を包み込み、それによってシドロ達は一瞬、目をそらしてしまう。

 そして、だ。

 風が止み、視線を戻すと、既にそこにはラムウの姿はどこにもなかったのだった。

 唖然とするシドロ。

 先ほどまでの状況について、彼は未だ理解が追い付いていない。訳が分からない、というのが正直な感想だ。

 だが、そんな彼でも分かることがある。

 フローラことラムウは、仲間であったはずのイリナとクシャルを殺した。

 そして、自分の都合のために、ナザンの人生を操り、あげく自分が強くなるための材料にした。

 そして。

 それらをすべて、自分は何もできず、止めることができなかった。


「何なんだよ……何なんだよ、ちくしょぉぉぉおおおっ!!!」


 己の無力感を味わいながら、シドロはただ、叫ぶことしかできなかった。

とりあえず、一章はあと数話で終わりです

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