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五話 一難去ってまた一難は常識だよね?(違います

「さて。スキルの説明も終わったことですし、これからどうしますか?」

「どうしますかって……そりゃ、ここから脱出だろ。まぁ、全く策はないが。でも、ここもダンジョンなわけなんだし、どっかには上にいける手段があるはずだろ」

「そうですね。とりあえず、探索しましょうか」


 話はすぐにまとまり、シドロとフールはダンジョン内を探索することになった。

 ここは『奈落の大穴』の底。何が潜んでいるのかは分からない。警戒は怠らないようにしなければならない。

 ……のだが、シドロはある疑問がふと頭に浮かび、そのまま口にしてしまう。


「そういやよ。何でアンタはこんなところに捨てられてたんだ?」

「唐突ですね。そしてかなりデリカシーがない質問で」

「うっ……わ、悪かったよ。ちょっと気になっただけで、別に無理に言う必要は……」

「冗談ですよ。マスターの事情を教えてもらったんですから、私も言うべきでしょう」


 冗談、と言いつつも顔は全く笑っていない。しかし、一方で怒っている、という風にも見えなかった。恐らく、本当に無表情が彼女の基本の顔なのだろう。


「簡潔に言うと、私は失敗作だったんですよ」

「失敗作?」

「とある鍛冶師が特殊な剣を作ろうとした。その過程で生まれたのが私でした。折れず、曲がらず、砕けず、腐らず、朽ちない。自分で言うのもなんですが、私は剣としてはそれなりに優秀な部類だと思います。ただの剣としては、ですが」


 妙な言い回しに、シドロは首を傾げる。

 要は、絶対に壊れない剣、ということなのだろうが、しかしそこに何か問題でもあるのだろうか。

 心の中で疑問を抱くシドロを見て、フールは続けて言う。


「魔剣はそれぞれに強力な特性があります。魔力を攻撃の光に変換し、そのまま放ったり、斬った瞬間に対象を爆発させたり、治癒不可能な呪いを与えたりなど……多種多様な能力がありますが、私にそういったものは搭載されていません」


 確かに、とシドロは呟く。

 彼の知っている魔剣も、そういうものが多い。そもそも、魔剣とは、魔術で作られた剣のことを指しており、だからこそ超常的な力をもった剣が基本なのである。


「そして、私の最大の欠点は、その重さにあります。絶対に壊れない剣、というのを突き詰め過ぎた結果、あまりにも多くの素材を使いすぎて、誰も持てない程重くなってしまったのです。使用するには、私を持ち上げる程の怪力であるか、それこそマスターのように私を軽くさせるか、どちからしかありません。けれど、仮に持ち上げ、振るうことができたとしても、所詮はただ壊れない剣であるだけ。メリットがあまりにも少なすぎる」


 壊れない、という意味では確かに剣としては魅力的だ。だが、持ち上げるのにも一苦労となれば、話は別。しかも持ち上げたところで、炎を出すわけでも、相手を呪うわけでも、自身に強化がかかるわけでもない、となれば、魔剣としてはいささか役不足と言えるだろう。


「扱う人間が限られながらも使う意味があまりにも少なすぎる……そんな魔剣がいらない存在になるのは、まぁある種、当然の結果ともいえることですが」

「でも、わざわざこんなところに捨てなくても……」

「そこは、少々厄介な話でして。鍛冶師が特殊な剣を作ろうとしたのは、ある極秘の計画のためでした。そして、それは成功した……けれど、その過程で、色々と『まずい事』をしてまして。それこそ、表ざたにできないようなことを。そのため、失敗作であろうが、証拠を残すわけにはいかない。故に、鍛冶師は失敗作の全てを破壊しました」


 つまりは隠ぺい工作。

 どこの時代、場所でも、そういうことはあるものなのだな、と心の中で呟くと同時に、ふと一つの疑問がでてくる。


「全部って……でも、アンタはこうしてここにいるじゃねぇか」

「先ほども言ったように、私は失敗作の中でも随一頑丈な作りでして。物理的なものは無論、魔術ですら、私を破壊することはできませんでした。そこで、導き出された結論は、この『奈落の大穴』に廃棄することでした。とはいえ、私は人間の姿になることができる。万が一、『奈落の大穴』から帰ってくる可能性を見越して、鍛冶師はある魔女に頼んで、私に呪いをかけました」

「それって、あれか。さっき言ってた、自分を持ち上げる者が現れるまで、人間の姿にはなれず、ずっと眠った状態になるっていう……」


 シドロの言葉に、フールは静かにうなずく。


「正直、あの時ほど、自分の頑丈さに嘆いたことはありませんでしたよ。こんなことになるなら、他の者たちと一緒に破壊された方が、ずっと楽だったのに……」


 こうして喋っている最中も、彼女の表情はほとんど動いていない。喜怒哀楽がない、というわけではないのだろう。きっとそういうのが表に出にくい体質なのだ。そして、それを読み取る力など、シドロにはない。

 しかし、だ。

 この時のフールはどこか、悲しみに満ちていたように思えたのはシドロの気のせいだろうか。


「……とまぁ、以上が私の話なのですが……どうやらお客さんが来たみたいです」

「? 一体、何を……」


 と、その時、ようやくシドロは気づく。

 ダンジョンの洞窟内にある暗闇という暗闇。そこに身を隠し、こちらを囲んでいる巨大な蜘蛛の魔獣がいることを。


「おいおいおいおい……冗談だろ。何じゃこりゃっ!?」

「ブラッドスパイダー……超凶悪な蜘蛛の魔獣。群れで行動する習性があるとは聞いていましたが……」

「いや、群れって、そんなもんじゃねぇだろこれ!! 絶対、百や二百は超えてるだろ!?」

「ですね。『奈落の大穴』の底は、文字通りの死者の国、といったところでしょうか。とはいえ、まぁ大丈夫でしょう」

「おうおうおうおう!! 随分と余裕な態度だが、何か秘策でもあるのかよっ」

「いえ、ありませんが?」

「即答!?」


 あまりの言葉に、シドロは思わずツッコミを入れてしまう。

 しかし、そんな彼とは対照的にフールは淡々とした口調で口を開いた。


「秘策も何も、そんなもの必要ありませんよ。言ったでしょう? 物理攻撃に関して言うのなら、貴方は無敵である、と。その証明を実践してみせましょう」


 いうと同時に、フールは剣へと姿を変えた。



『さぁマスター。蹂躙の時間です』



 その言葉の直後。

 まるで示し合わせたかのように、無数の蜘蛛がシドロに襲い掛かったのであった。

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