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四十九話 他人の不幸を嗤う者にロクな奴はいない

 自分の仲間を壊した最低最悪の剣。

 それは以前、フールがシドロに話してくれたものだった。

 ということは、つまり。


「それってつまり……こいつも魔剣で、お前の仇ってことなのか……?」

「ええ。そういうことになりますね」


 肯定するフール。

 しかし、それではいくらかの疑問が残ってしまう。


「いや、でもそれはおかしいだろ。だって、フローラには【烈風】っていうスキルがあって……それは【鑑定】でもはっきりしてることだぞ」


 基本、魔女、そして魔剣になった者の力は、その者たちが願った力ではあるが、スキルというわけではない。だから、フールも以前の説明の際、【鑑定】されればスキルとは判断されない、というような説明をしていたようが気がする。


「それは恐らく、あの体の女性のものでしょう。彼女の本体は、ナザンという方に刺さっている剣ですから」

「この剣が……?」

「持ち主の体を乗っ取る、という効果ですね……それによって、彼女は、かつて自分の主の体を乗っ取った上で、私の仲間を惨殺しました」


 つまり、だ。

 誰かがフローラ……否、ラムウを使ったのではなく、ラムウが人間の体を使って、フールの仲間を殺していった、というわけか。

 ならば、ますますフールが激怒するのも理解できてしまう。


「っ、でも、剣はナザンの背中に刺さってて、あいつの手にはもう……」

「手に持っている持ってないの話ではないのです。一度でも自分に触れ、そして彼女が持ち主と認めた者を強制的に操る……人に使われる剣ではなく、人を使う剣。剣の概念が逆転してしまったのが、ラムウという魔剣なのです。なので、下手に触れないようにしてください」


 剣とは人が使用するもの。だが、ラムウの場合はその逆。人が剣に使用されてしまう代物。確かに、フールの言う通り、これでは立場が逆転してしまっている。

 などと、説明をしてくれるフールを、ラムウはまゆをひそめながら見ていた。


「……どこか見覚えがある顔があると思えば……まさか、本当にまだ生きていたのね、先輩・・

「お生憎様。誰かさん達が壊しそこなったおかげで、随分と長い間眠っていましが」

「……ちっ。その態度、本当にむかつくなぁ。あの時の連中は全員ぶち壊せたっていうのに、貴方だけはどんな攻撃を当ててもびくともしなかった……ホント、私の中の黒歴史だよ」

「そういう貴方こそ、まだ生きていたんですね。当の昔に死んでいるかとばかり思っていましたが。っというか、剣の形も変わっているようですし」

「こっちも色々あってね。おかげで、剣の形を変えるハメになるわ、人間の体を使わないと行動できなくなるわ、もう散々。でもまぁ、おかげで色々と楽しいものを見ることはできたけど」

「……成程。その言葉だけで、どれだけ多くの人間を破滅させてきたのか、理解しました」


 先ほどからの発言からして、彼女が楽しい、と思えることが、一般常識内のものではないことは察することができる。むしろ、皆が軽蔑し、忌避するものなのだと、シドロは瞬時に理解した。


「それで? 貴方の目的は何ですか? また誰かが破滅するとこを見たいがために、こんなことを?」

「勿論! そこにいるナザンは、とっても面白い子でね―――自分が、『白光』パーシルの子供だって思いこんじゃってるの」

「……ぇ、?」


 瞬間、時が止まったかのような感覚に陥る。

 今、ラムウはなんと言った?

 思い込んでいる……それはつまり、本当の子供ではない、と言いたげな表現ではないか。


「どう、いう……」

「どうもこうもないわよ。貴方はパーシルの子供じゃないって言ってるの」

「そんな……そんな、わけ……!!」

「いやいや、考えてもみてよ。貴方の母親は娼婦だった。誰彼構わず、お金のために体を売っていた。そんな人間が、どうして父親と特定することができるの? 無理でしょ。不可能でしょ」


 確かに。娼婦は一人の男を相手にするわけじゃない。だとするのなら、どうして生まれた子供がパーシルの子供だと分かったのか。似ているから? それはない。何故なら、パーシルとナザンは全くと言っていいほど、似ている点がないのだから。


「っていうか、そもそも、貴方の母親とパーシルは会ったことすらないし」

「は、ぁ……?」

「貴方の母親は貴方以上に滑稽な性格をしててね。親に売られて、娼婦として働いて、貴方を妊娠している内にちょっとした妄想をし始めた。自分はあの勇者パーティーの一人と恋をして、その子供を設けたってね。そうやって現実逃避をしてたのよ。一度も会ったこともない男を恋人にしてね」

「う、嘘だ……」

「おかしいと思わなかった? どうして貴方の母親はかたくなに、父親に正体を明かすなって言ったのか。答えは簡単。言っちゃったら、自分の嘘がバレちゃうからね。だから決して父親に自分のことを言うなって貴方に言い聞かせてきたってわけ」

「そんな……そんな……」


 背中に剣を刺され、出血しながらも、現実を受け止めきれないでいるナザン。

 そんな彼女を一瞥した後、フールは問いを投げかける。


「それが本当だとして、どうして貴方がそれを知っているのです?」

「え? だって、ナザンの母親がそういう風になるよう、誘導したの私だし。私はちょっとした理由で、どうしても、ナザンには生まれてもらわなくちゃいけなかった。けど、あのままだと母親の方が精神崩壊起こして、ナザンが生まれる前に死んじゃいそうだったから、適当に現実逃避の理由をつくったってわけ」

「……貴方という人は……」


 何という悪辣な手法か。

 別に死なせないようにするためならば、他にいくらでも手はあるだろうに。


「それじゃあ……僕は、何のために……」


 失意の中、絶望の表情を浮かべるナザンを見ながら、ラムウは笑みを浮かべていた。


「いいわねいいわね。その表情。何もかもが絶望に染まり切った顔! そういうのを見るのが私の生きがいなのよねぇ」


 そんなことを平然として言ってのけるラムウ。

 他人の不幸は蜜の味、とは言うが、しかしこれほどまでに他人が絶望していることを愉しむ輩はそうはいないだろう。


『おいおい。アタシが言うのもなんだが、あのねぇちゃん、相当悪趣味だな……』

「あれはそういう外道です……それで? 貴方の見たいものは見終わったと考えてよろしいのですか?」

「いいえ。確かにそれも私にとっては大事なことだけれど、今回はそれだけじゃないのよ。実はさ、私、十数年前にちょっとやらかしてね。そのせいで、今は持ち主になった人間の体を乗っ取らないといけないのだけれど……それじゃあちょーっと不自由なのよ。だから―――新しい私自身の体を作ろうかなって」

「っ、まさか……!?」


 シドロとムイは全くラムウの言葉の意味するところが分からない。

 だが、フールだけが、その真意を理解したような反応を示す。

 が。


「あ、気づいた? 流石ね。でも、ちょっと遅い―――もう目的は果たしたわけだし」


 その言葉と同時。


「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 唐突に、ナザンの絶叫が響き渡ったのであった。

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