四十八話 意外なところで繋がることってあるよね
「が、は…………」
血を吐き出すナザン。
当然だ。その背中には、投擲された剣が刺さっているのだから。
そして、シドロは剣がやってきた方向にいる人物に向かって、叫んだ。
そこにいたのは……。
「てめぇ……何してやがんだ――――――フローラッ!!」
そこにいたのは、真っ赤な長い髪が特徴的な女性……ナザンの仲間であるはずの、フローラが立っていたのだた。
シドロの叫びに、フローラはやれやれと言わんばかりの口調で答える。
「久しぶりだっていうのに、随分な挨拶ね。っていうか、どうして貴方が生きているのかしら。あの『奈落の大穴』に落ちて、無事で済むとは思わないんだけど」
「うるせぇ!! 今のテメェに教える義理はねぇ!!」
「そ。まぁそれはどうでもいいとして………ナザン。貴方、何をやってるのかしら」
瞬間、フローラの冷たい視線が、ナザンの方へと向けられていた。
「シドロ殺害の手伝いにそれに対する仲間へのフォロー。それから貴方がS級になれるよう一緒のパーティーに入って活動してあげたっていうのに……今更全部ぶちまけようって? いやいや、ないない。無理でしょ、そんなの。私の努力、水の泡にしないで欲しいんだけど」
「フロー、ラ……」
「はぁ……まぁもうそろそろ潮時とは思ってたけど。だとしたら、あの二人を処分する必要なかったじゃない。無駄なことしちゃったなぁ」
その瞬間、シドロは何かがひっかかった。
彼の聞こえ間違いでなければ、フローラは今、処分、と言った。
それは一体どういう意味なのか。
そもそも。
「……おい、フローラ。テメェ、クシャルとイリナはどうした」
「? どうしたって、そりゃあ、こうしたわよ」
言い終わると同時に。
フローラは、『何か』をシドロ達の前に転がした。
その『何か』に、シドロは見おぼえたがあった。当然だ。以前は毎日のように、顔を合わせていたのだから。
だが、いいやだからこそ、一瞬、彼は目の前にあるモノを信じたくなかった。
何故なら、それは……。
「ほら。クシャルとイリナの生首。折角だから持ってきてあげたわ」
「――――っ、」
否定しようとしていた事実を、フローラはあっさりと口にした。
「いやね、ナザンがうっかりシドロをハメたってことを口にしちゃったからさ。口止めしなくちゃって思って、ついやっちゃったのよ。ま、一瞬で殺したから、痛みはなかったと思うよ……無駄に終わっちゃったけど」
あーあ、と二人を殺したことが徒労に終わった、という表情を浮かべるフローラ。そこには一切の罪悪感がない。
「それにしてもさー。シドロ、さっきの空気はなんなわけ? 貴方、ナザンに殺されかけたんでしょう? だっていうのに、殺し返すどころか、許そうとしちゃってさ。マジあり得ない。博愛主義もいい加減にしてよ。見てて反吐がでそうになっったじゃない」
「何を……」
「ああいう場面はさ、普通もっと相手をボロ雑巾のようにする場面でしょ? 手足を全部を折って、動けなくしたりさー。その上で、顔面やら腹やらを思う存分に殴ったり蹴ったりしたりとかさー。それこそ、ナザンは女なんだから。女の大事なモノを全部奪ってやろうって気概とかないわけ? それを謝罪って……さっむ! そういうの、誰も求めてないっつーの。需要がないのよ、需要が。自分を追放した奴をゴミクズ同然のように痛めつけて、裸にさせて土下座させながら、その上でさらに痛めつける……そういう面白いものが見れそうだなぁと思って、様子見してたっていうのに、期待外れもいいところね」
次から次へと出てくる畜生のような言葉の数々。
鬼畜、外道、下種の行為。それを何故しないのか、とフローラは本気で信じられないと言わんばかりだった。
そして、一方でシドロはそんなことを口にするフローラの方が理解できなかった。
「テメェ……何を、言って……お前、ホントにフローラか……?」
シドロの知っているフローラは少し自信過剰なところがあるが、しかし決してこんな頭のおかしいことを言ったりはしないはず。
どうなっているんだ、と言いたげなシドロに対して、フールが、淡々と説明をしていく。
「無駄ですよマスター。今までマスターが彼女とどのような関係にあったかは知りませんが……あれが『あの女』の本性です」
あの女の本性。
それはまるで、フールがフローラのことを知っているかのような口ぶりだった。
「おい、フール。お前、フローラと知り合いなのか?」
「…………知り合い、ですか。ええ、そうですね。顔や姿は私の知っている人物とは全く違いますが……あの雰囲気。そしてこの気配。間違えようがありません」
ふと、この時ようやくシドロは気づいた。
フールがこれでもかと言わんばかりに握り拳を作っていたこと。そして、まるで、怨敵でも見つけたかのような視線で、フローラを睨んでいることを。
……いいや、まるで、ではない。
「彼女の本当の名は、ラムウ。かつて、とある鍛冶師が作り出し、そして私の仲間を壊していった――――最低最悪の剣です」
目の前にいる女は、正真正銘、彼女が恨み憎み続けてきた怨敵の一人だったのだから。