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四十七話 時には思いのたけをぶつけうことも必要である

 ナザンの体が光、暴発しようとした瞬間。


『《光の礫》!!』

「がっ……!?」


 ムイの指先から放たれた小さな光の玉がナザンに直撃。それによって、ナザンの魔術は霧散してしまった。


『ふぅ……やばかったぜ。まさか自爆の魔術を使おうとするなんて。全く、そんな生き急いだら、駄目だぜ?』


 などとキメ顔で言うムイを見ながら、シドロは思わず呆然としていた。


「今のは……」

「《キャンセルライト》……相手の体に当てることで、相手の魔術・スキルを無効化させる光の魔術……ムイ、貴方そんな魔術使えたのですか?」

『いや~、使えるって言っても、そこまでちゃんと使えるわけじゃないけどねぇ。飛距離もめっちゃ短いし。この距離まで近づけてたのが幸いしたわ』


 などと言うムイ。

 そういうのはもっと早くに言ってくれ……いつものシドロならそう言うところだが、しかし、今の彼にはそんな余裕がなかった。


「ナザン、テメェ……!!」


 倒れているナザンの胸倉を掴み、激昂した顔で続けて言う。


「自分の命まで捨てて……そんなにまでして、俺を消したいのか!!」

「ああそうだよ!! あの人に僕の正体を知られるくらいなら、死んだ方が……!!」

「そうやって逃げる気か!!」


 死を覚悟していたナザンに対し、シドロは叫ぶように言い放つ。


「格下の相手に自分の弱み知られて、殺そうとして返り討ちにあって、だから自分もろとも自爆するだぁ? 何だよそれ。そんな姿……そんな馬鹿げた姿、俺にみせんじゃねぇよ!!」

「……、」


 シドロの言葉が、ナザンには意味が分からなかった。

 何を言っているんだ、この男は。

 そんなことを思っていると、シドロは言葉を続けていく。


「俺は、お前が凄い奴なんだって、思ってた……本当に、本当にそう思ってた。俺と同じくらいの年齢で、最高位の魔術師になった奴なんて聞いたことがない。だから、お前が俺を拒絶するのは、俺のせいなんじゃないかって、いつも考えてた。何が悪いのか、何がダメなのか。必死に考えて、分からなくて、それでも、お前のパーティーに恥じない奴でいようって……そう、思ったんだぞ……」


 それは嘘偽りのない真実。

 シドロはナザンを尊敬し、憧れていたのだ。最高位の魔術師。自分とは全く違う存在。皆から信頼される実力者。

 そんなナザンのために、少しでも力になりたい……そう思いながら、やってきたのだ。


「それが何だ。パーシルの子供? だから俺に嫉妬してた? それを知られたくないから死んでやる?

 ふざけんなよ。ふざけんなよ……!! お前は……お前は、そんな小っせぇ人間だったのか!? 俺が凄いと思ってた……俺が、憧れていたナザンって魔術師は、その程度のしょうもない奴だったのか!?」


 確かに、ナザンはシドロに対し、日頃からひどい仕打ちをしてきた。それに対し、思うところはあるし、殺されそうになった今では憤りを感じていた。

 だが、それでも、それでもだ。

 こんな、彼女の姿は見たくなかった。


「ああ、分かってるさ。俺の言葉が未だお前に届かないってことくらい。さっきの戦いもそうだ。結局、俺は二人にアドバイスを求めた。その上で勝っちまったんだから、お前が俺を認めてくれたとは思ってねぇよ。最後の最後まで情けねぇな」


 しかし。


「けどな。それでも俺はお前をぶん殴りたくて仕方なかった。さっきの戦いの最中、俺はどうしようもなくお前を殴りたかった。何故だか分かるか? お前がそんな姿でいることが、俺にはどうしようもなく我慢ならなかったんだよ」


 分かっている。これが完全に子供の我儘と同類であることは。

 自分が気にらなかったから、殴りたくなった。そんなもの、ナザンにとっては知ったことではないし、とんだとばっちりと言っていいだろう。

 だが、それでも、何も分かっていない彼女に、シドロは何もせずにはいられなかった。

 そもそも、彼女は根本的なところをはき違えている。


「それにな、お前はパーシルが自分のこと見てくれないっていうが、それこそ間違いだ。あの人は、お前のことをちゃんと見ていたぞ」

「…………は?」

「当然だろうが。自分の支部にいる冒険者が、最高位の魔術師になったんだぞ? それを喜ばないギルマスがどこにいるんだよ。ナザンはこの支部にとっての英雄だ、俺も鼻が高いって……そう言ってたんだぞ」

「っ!? う、嘘だ……そんなの、僕は聞いたこと……」

「阿保か。あの堅物が、そんなことを本人の前で言えるかっての。お前、今まであの人の何を見てきたんだよ」


 パーシルが口下手で堅物なことは皆が知っていること。 

 だというのに、何を言っているのやら。


「あの人が……僕のことを、見てくれていた……?」

「そうだ。自分の子供としてじゃないが、それでもパーシルはお前のことを見ていたんだ。だから、俺をお前のところに入れたんだよ。ナザンは誰よりも信用できるって言ってな」

「…………そんな……そんなの、今更、言われても……」

「今更じゃねぇだろうが。俺はまだ、こうやって生きてんだから」

「…………ぇ?」


 再び、ナザンは心の中で思う。

 何を、言っているんだ、この男は。


「僕を……許すっていうの?」

「勘違いすんなよ。俺はお前を許したわけじゃねぇ。さっきも言ったように、パーシルには全部、本当のことを話す。でもよ……それで全部終わりってわけじゃねぇだろ。そりゃあ、それなりの罰はあるだろうがよ。俺はこの通り、生きてるわけだし。最悪の事態にはなってねぇんだから」


 そう。結局のところ、ナザンはシドロを殺していない。

 彼女がしたことは決して許されることではないし、きっと重い罰が待っているだろう。

 だが、それでも。

 本当の意味での、最悪の結果にはなっていないのも、また事実である。


「……でも、僕は仲間を危険にさらした。S級昇格に目がくらんで……さっきだって、それのせいで、僕はここに落ちてきたんだ」


 それを聞き、シドロは少し驚きながら、「そうか……」と呟いた。


「……なら、あいつらにも全部話して、その上で、ちゃんと謝れ。許してもらねぇかもしれないが、それが筋ってもんだ……あ、ってか、お前まだオレに謝ってねぇだろ。まずは俺に謝れ」

「マスター。そこでそういう発言をするのはいかがなものかと」

『そういうこと言われると、人って謝りたくなくなるよねー』

「うるせぇ!! 外野は黙ってろ!!」


 言い争うシドロ達。

 そんな中、ナザンはどうしていいか分からなかった。

 パーシルが自分のことをちゃんと見ていてくれた。その事実が、彼女の中にあったドス黒い何かを、少しだけだがかき消したように思えたのだった。

 正直、シドロに対しての憎しみは消えていない。

 未だ思うところはあるし、気に入らないのも事実だ。

 しかし、それでも…………真正面から言われた、彼の言葉に嘘偽りがないことは理解できた。できてしまった。そのせいだろうか……もう殺さなくては、消さなくてはという感情は、無くなってしまっていた。

 ならば、言わなくてはならないことは、ちゃんと口にしなければ。

 決して許されずとも。憎たらしい相手であろうとも。

 それでも、筋は通すべきなのだから。

 そうして。


「シドロ……………………ごめ、」














「いやいや。殺されかけて、その展開はないでしょ。気持ち悪いわー。流石にひくっての」












 瞬間。

 鋭い刃が、ナザンの背中を貫いたのであった。

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