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四十三話 逆上した奴ほど、手に負えないものはない

 襲い掛かる火柱。

 それを前にして、シドロ達がとれる方法は、ただ一つ、回避のみ。

 当然だ。炎が相手では、シドロの【軽量化】も意味を成さず、ムイに関しては防御系の魔術が使えない。つまるところ、防御手段がないのだ。

 ゆえに回避に徹するのは自然な流れであった。


『うーん…………これは少々、追い込みすぎましたかね?』

「少々どころの話じゃねぇだろ!! っとぬおっ!?」


 既に剣状態になっているフールの言葉にツッコミを入れながら、火柱をギリギリのところで避けていく。

 

『いやー、人って本当のことを指摘されるとキレるっていうけど、まさかここまで逆上されるとはねぇ。流石はフーちゃんだねっ』

『よしてください、ムイ。褒められると照れてしまいます』

「照れる要素一個もねぇだろうがっ!! って、あぶなっ!?」


 まるで蛇のように動き回る火柱は、もはや魔獣そのものであった。


「ち、ナザンの野郎、こんな隠し玉持ってやがったのか!! っつか、こんなん使えるだったら、いつも使っとけよな!!」


 ナザンと一緒に行動してきた中で、こんな魔術は一度も見たことがない。もしも常日頃から使っていれば、きっと魔獣退治の効率も上がったはずだろうに。


『あー、でもあれ、長くはもちそうにないと思うけど』

「え、マジ?」

『マジマジ。確かに威力は凄いけど、その分使う魔力も馬鹿になってなさそうだし。っていうか、そもそもここに来るまでに結構魔力使ってるっぽいし。もって、せいぜい十分くらいじゃね? 多分最後の手段ってやつなんだろうね。んで、フーちゃんに色々言われて、やけくそじゃゴルラァ!! みたいな感じになったちゃった的な』

『向こうは私に色々言われて頭に血が上った結果、周りが見えていないようですね。いえ、それ以前に、マスターが生きていたことに動揺していたのもあるのでしょうが……何にしても、正常な判断ができていないのは確かでしょう』


 正常な判断ができていない、というのは確かにそうだろう。

 魔術師が初手でこんな馬鹿デカい魔術を使うなどと、シドロでも失策だというのが分かる。もしかすれば、速攻でカタをつけたかった、というのもあるかもしれないが。

 何にしても、だ。


『さてマスター。どうしましょうか? このまま彼女の攻撃を回避し続ければ、いずれ彼女の魔力は底をつきます。そして、マスターになら、彼女の攻撃を回避し続けることが可能でしょう』


 ナザンの火柱は、確かに強力だが、対処できないわけではない。現に、今もこうしてシドロ達は火柱を回避し続けているのだから。

 それを続けて行けば、恐らくナザンを魔力切れにすることはできるだろうが……。


「……いや、ダメだ」

『何故ですか? 攻撃を回避しつつ、相手の魔力切れを狙う。魔術が使えない魔術師は、格好の的ではないですか。まさか、彼女は肉弾戦もできると?』

「いや、あいつは肉弾戦はそこまでできない。きっと魔術無しのあいつとなら、俺が勝つだろうよ」

『なら……』

「けどダメなんだよ。そんなやり方で勝ったところで、意味がないって話だ。あいつは今まで、散々俺のことを見下してきた。その性根を叩きなおすには、真正面からあいつを倒す必要がある。でなきゃ、あいつはこれから先も、ずっと俺のことを認めないだろうからな」


 シドロの言葉に、フールは驚いた言わんばかりの口調になった。


『……正気ですか? マスター。この状況において、貴方は彼女の性根をなおそう、などと考えているのですか? それはもしや、彼女のためとか?』

「別にそんなことは思ってねぇさ。ただ、このまま勝ち逃げしたら、俺は一生後悔する。そんな勝ち方は嫌だ。アイツを正面からぶっとばして、俺はお前より強いんだって、証明したいだけだ。要は、これは俺の我儘だな」


 相手を魔力切れにして、それからたたく……戦法としては間違っていないのかもしれないが、しかしきっとそれではナザンを本当の意味で屈服させることはできないだろう。

 魔力があれば、お前に勝てたはずだ……そんな言い訳すらさせない。させたくない。言い逃れができない現実というものを叩きつけたいのだ。


「それに前にも言っただろ。あいつの顔面に一発入れるってな」


 今が、その時。

 ようは、これは彼なりの仕返しであり、復讐なのだとシドロは考えていたのだ。

 そんな彼に対し、フールとムイはというと。


『……女性の顔面を殴る発言を平然と行うとは、やはりマスターは鬼畜ですね』

『シドちん。そんなんだから、君はモテないんだよ?』

「うるせーわっ!!! まぁ確かにその通りなのかもしれないけどっ!!」


 普通に考えて、女性の顔面を殴る、と言い切ることはフールたちが言うように、鬼畜の所業なのかもしれない。


『しかし……まぁいいでしょう。私はマスターの相棒。貴方がそれを望むのであれば、お付き合いしますよ』

『アタシもアタシも!! 相手があんなんなら、別に援護くらいしても問題ないよね?』


 何だかんだと言いつつ、シドロの味方をすると宣言する二人。

 そんな彼女たちに対し、シドロはというと。


「ああ、頼むぜ、二人とも……!!」


 信頼の言葉を口にして、彼は駆け出す。


 さぁ―――ここから先は、仕返しの時間。

 これまでの因縁に、ケジメをつけにいくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の性根を正す為に、その相手の顔を“殴って屈服させよう”というのか………見ようによってはDV彼氏怒りの鉄拳、ってな具合に抗議されそうなヒデェ絵面になりかねませんねぇ!(歓喜)
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