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四十二話 本当のこと言われるとキレる人っているよね

 何度目かの衝撃展開。

 今日は色々と新事実が発覚しているが、今回のもまたと驚き必至の内容だった。


「魔女って……ナザンが?」

「ええ。間違いありません。私は魔剣に鋳造されましたが、しかし魔女という側面を失ったわけではありませんから。っというか、そちらも気づいているのでしょう?」

「な、何を、馬鹿なことを…………魔女? 何を言っているのかな、君は」


 などと否定しているが、しかしナザンの様子は明らかにおかしい。顔は青ざめており、身体もどこか震えている。それが最早、答えだといわんばかりに。

 だが、しかしそれでもシドロは信じられなかった。


「そ、そうだぜ。ナザンは最高位の称号を貰った魔術師の中でもトップクラスのやつなんだぞ? そいつが、魔女って……」

「何も不思議なことではありません。恐らく、それが彼女が悪魔との契約で授かった力なのでしょう。ああ、そういえば、マスターには説明していませんでしたね。悪魔と契約した魔女は、強力な力を得る。その力とは、魔女になった者の心が反映されると言われています」

「心が、反映?」


 それは一体どういう意味なのか。

 問いを投げかける前に、フールが淡々と答えていく。


「ええ。たとえば、足が遅くそのことを気にしていれば、超人的な速さで動けるようになったり。たとえば、周りの連中の幸せを妬んでいれば、周りを不幸にすることができたり。たとえば……常日頃から石をぶつけられ、暴力を振るわれていたゆえに、頑丈な身体を手に入れたりとか」

「……、」


 そのたとえ話は、きっと彼女の体験談なのだろう。

 そして、最後のたとえが、一体誰のものなのかは、言うまでもない。


「彼女の場合、恐らくは魔術師になりたいとでも思っていたのでしょう。それが反映され、膨大な魔力を持つようになった。スキル持ちと違って、魔術師の有無は魔力を持っているかどうか。【鑑定】のスキルを持っている者でさえ、分からないでしょう。ゆえに、魔女になっても彼女はそのことを誰にも気づかれなかった」

『あー、確かに。魔術師って、基本魔力持ってたら魔術師って思われるからなー。その魔力がどっから発生したのかー、なんて調べる奴はそういないしな』


 きっと、これが何かしらの特殊な力なら、恐らく【鑑定】で、スキルではない、で看破されてしまっただろう。

 だが、彼女が手にしたのは膨大な魔力。

 余程特殊な【鑑定】でなければ、彼女の魔力のでどころなど、分からない。だから、今日まで彼女は魔術師として生きてこられたわけだ。


「まぁ、魔術師に理想を抱く人間は少なくありません。実際、私の仲間だった者たちの中でも、魔女になった結果、彼女のように膨大な魔力を持った者もいましたし……とはいえ、結局何が言いたいかというと、です。彼女の力は、彼女本来のものではない、ということです。そして、マスター。以前にも言いましたよね? 魔女が、元々はどんな存在なのか」


 そう。

 ナザンがいくら膨大な魔力を持っていようが、それは魔女となって授かった力。

 そして、魔女になれるのは、元々何の能力もなかった『無能者』しかいない。


「全く。強くて、凄くて、優秀? どこかですか。貴方は、悪魔と契約し、その力を得た。それだけの話じゃないですか。だというのに、マスターのことをゴミだのクソみたいなスキル持ちだの、言いたい放題言ってくれましたね。かつては、魔力どころかスキルすら持っていなかった、ただ悪魔に力を授かったイカサマ師が」

「…………っ!!」

「別に魔力やスキルを持っていなかったことに対し、批判をするつもりはありません。ですが、貴方は知っているはずです。それらを持っていなかっただけで、どういう扱いをされるのか。それを知ったうえで貴方はマスターのスキルを馬鹿にして、クソだと言い放ち、見下していた……それはつまり、かつて、貴方が周りにされたようなことをしているのだと、理解してますか?」

「く、ぅう……っ」

「ああ、もしやマスターをかつての自分と重ねていたとか? 弱いスキル持ちと言われたマスターを見下すことで、もう自分はかつての『無能者』ではないのだと証明したかった? まぁ何にしても、貴方のやっていることが愚劣極まりないことには変わりありませんが」


 弱いスキル持ちだと言って馬鹿にし、挙句追放した者が、実は元々スキルすら持っていなかった、などと何と滑稽な話か。

 しかも、努力云々で力を得たのではなく、悪魔と契約をして魔力を得た……それは一般的に言えば、ずるをした、と言えるものだろう。

 それらから考えても、ナザンはシドロのことをとやかく言う資格は元々無かった。


「確かに、マスターはどうしようもない馬鹿です。それは本当のことで、事実で、覆しようがないほどの真実です」


 フールのその言葉に、思わず「おい」と心の中でつっこみを入れるシドロ。

 だが、しかし。


「ですが……それでも、この人は、他人に殺されるような真似は絶対にしていません。ましてや、親に認められたいという自分勝手な理由で殺されていいような人ではない。こんな、誰からも必要とされず、失敗作だと言われ、廃棄された魔剣を相棒だと言ってくれた。そして、信じてくれた。本当にどこまでも馬鹿なお人よし。そんな彼を…………私の、大事な恩人を、これ以上侮辱することは、決して許しません」


 続けて言われた言葉に、シドロは驚きを隠せなかった。

 今までのフールからは想像できない言葉の数々。

 彼女がそんな風に思っていたことに、全く気付かなかった。そして、その想いを知ってしまった今、シドロは少々照れてしまった。


「黙れ……」


 ふと、先ほどまでうつむいていたナザンは小さく呟く。

 そして。


「黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇえええええええええええっ!!」


 まるで、風船が破裂したかのように、感情が爆発する。

 フールに言われた言葉の数々。それらをナザンは否定したがっていたが、しかしそれはできない。何故なら、彼女が言ったことは全て事実なのだから。

 何より、自分の正体を、あろうことか、一番嫌っている人間に知られてしまった。

 自分が女であること。魔女であること。

 必死になって隠していたことを全て暴露されてしまった。

 加えて、シドロが生き残っていたという事実。

 それらが合わさった結果、彼女が導き出した答えは単純明快。


「殺してやる……お前ら全員、殺してやる!! 僕の秘密を知った奴らも!! 僕をそいつ以下だと言った奴も!! 全部、全部消し炭にしてやる!!」


 言うと、ナザンは杖を構えた。


「《クリムゾンプロミネンス》!!」


 呪文を唱えた瞬間、彼女の足元から、複数の炎の柱が出現した。

 それらはまるで蛇のように動きながら、ナザンの周りを囲っている。


「全員、焼いて、殺して、灰にしてやる!! 何もかも、消えてなくなれぇぇぇぇええええ!!」


 まさに憤怒の炎。

 そして、殺意の塊である、炎を柱が、次の瞬間、シドロ達に襲い掛かったのであった。

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