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四十一話 実は女だった、という展開はテンプレである

 フールの衝撃の言葉に、シドロはポカン、と口を開けていた。


「え……ちょ、フール、お前何言ってんだよ。お嬢さんって……あ、もしかして、あれか? 女々しい奴とか、そういう意味合いな感じか?」


 などと言うシドロに対し、フールは大きくため息を吐いた。


「何を言ってるんですか、マスター。そのままの意味ですよ。目の前にいるのは、正真正銘の女性ですよ」


 目の前にいるのは、正真正銘の女性。

 もう一度確認するが、シドロ達の前にいるのは、ナザン一人のみ。

 つまり、それはナザンを示しているのであって……。

 と、そこでシドロは全力で否定に入った。


「いや、いやいやいやいや、どうみてもあれは男だろ!? そ、そりゃあ? 男にしてはちょっとばっかり顔の作りが良いとは思うし、そのおかげであいつ結構人気あるし、女だけじゃなくて男にも『ナザンって……いいよな』的なこと言われてることあったけど、それでも本当に女なんてことはありえねぇだろ……!!」


 必死になって違うと言い張るシドロ。

 当然だ。ナザンとはそれなりに長い付き合いになる。だというのに、女だと気づかなかったなどと、そんなことがあり得るのか。


「まぁ、マスターがそう思うのも仕方ありません。しかし、これは事実です。恐らく、魔術か何かで誤魔化しているのでしょう」

「ま、魔術で……?」


 確かに、魔術ならばそういうこともできるかもしれないが……。

 などと思っていると、ムイがナザンの方を凝視しながら、言い放つ。


『んー、ちょっと待ってよー……あ、本当だ。あのナザンって人、認識阻害の魔術使って、自分を男だと認識させてる』

「おま、そんなこと分かるのか!?」

『うん。アタシ、攻撃魔術特化だけど、そういう「眼」を持ってる魔術師だから』


 そういう『眼』というのがよく分からないが、しかしどうやらナザンが認識阻害の魔術を使って、自分を男に変えているというのは事実らしい。


「まぁあの方が女性であることは今は置いておきましょう。しかし、あれですね。貴方が言っていることは、本当に滑稽ですよ」

「はぁ!? 何を言って……」

「だってそうでしょう? 本当に父親に自分のことをみてもらいたかったのなら、自分が貴方の子供だと言えばよかった。それだけの話ではないですか」


 さらりと。

 ナザンが抱えていた問題を、フールは斬って捨てる。

 確かにフールの言う通り、自分を見てほしい、ということであれば、自分が娘であることを正直に話せばよかっただけの話。

 けれど、ナザンにはそれができなかった。

 何故なら。


「だから、それは……」

「母親との約束? それこそ馬鹿らしい。そんな約束が何ですか。父親を苦しめる? 罪悪感を抱かせる? だからどうしたというのですか。そんなもの、何の言い訳にもなりません。結局のところ、貴方は自分が父親に認めてもらうということより、母親との約束を優先した。それだけの話です。そして、その時点で、貴方は、父親に認めてもらうという権利を放棄したんですよ。だというのに、その人が他の人間を贔屓にしていたら嫉妬するなどと……お粗末にも程があります」


 フールの言い分は、あまりにも過激なものだった。

 しかし、あながち間違いでもない。

 本当に父親に認めてほしい、と思っているのなら、母親との約束など破ってしまえばよかった。そうしなかった時点で、ナザンは父親に自分のことを言わないと決めてしまった。それはつまり、認めてもらうことよりも、母親との約束の方が大事だと、彼女自身が選択したのだ。


「大体、何ですか。その、パーシルという方が、マスターの方を贔屓することに怒っているようですが、 そりゃあ知り合いの子供と、赤の他人となればどちらに気を配るかなんて一目瞭然でしょうに。それとも何ですか? 本当のことは言っていないが、親子の絆があるはずだとか、血のつながりで無意識に分かるはずだとか、そんな頭がお花畑なことを考えていたのですか? だとしたら、貴方は私が思っている以上に愚かしい人ですね」


 次々と、フールの口から毒舌が飛び出す。その言葉の一つひとつが、いつものよりもかなり鋭く、相手の心を抉る。

 そして、気のせいだろうか。

 顔はいつものように無表情なのだが……何故だか、どこか怒っているようにも見える。


「この……言わせておけばっ!! さっきから何なんだよ、君はっ!!」

「私はマスターの相棒ですが、それが何か?」

「相棒……? はっ、なんだそれ。意味わかんない。っていうか、そんな奴を相棒にするだなんて、見る目が無さすぎるね。でも、そんなことは今はどうでもいい。とにかく、外野は引っ込んでろ!!」

「外野、ですか……確かに。私はマスターの相棒ですが、この件に関しては傍観者に徹しようと思っていました。これはマスターと貴方の問題。私が入る隙などない……ええ、そう思っていましたよ、さっきまでは」


 しかし。


「ですが……流石に『同胞』が色々とやらかしているのを見てしまっては、無視するわけにもいかないでしょう」

「同胞……?」

『へ? どゆこと?』


 意味深な言葉に、シドロは首を傾げ、ムイは問いを投げかけた。

 そんな二人に対し、フールは続けて言う。


「私はさっき、彼女を女だと見抜きましたが……それは、ムイのように魔術に関する眼を持っていたからではありません。私の場合、別の観点から見破ったのです。私、というより、私の同類は自分と同じ存在が近くにいれば、気配で気づけるようになっているのです」

「……まさか」


 同類。同胞。

 それが意味することは、恐らくただ一つ。

 そして、その予想は当たっていた。


「ええ。そのまさかです。彼女は私と同じ―――魔女なんですよ」


 その瞬間。

 まるで、全身の血を抜かれたかのように、ナザンは顔を青ざめたのであった。

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