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三十九話 一方その頃⑦ 再会

「あ、ぁ……?」


 ナザンが目覚めると、そこには見たことのない場所だった。

 ダンジョンの中であることは間違いない。だが、彼は既に四十九階層の洞窟内に行ったことがある。が、ここはそのどこにも当てはまらない。


「まさか……地面が潰れて、下の階層にきたのか……? っということは、つまり、ここは……」


 だとするのなら、考えらえるのはただ一つ。

 S級にしか立ち入ることができないとされる、未だ未知の場所。

 即ち、五十階層。

 くしくも、ナザンはその場所に、誤って落ちてきてしまったらしい。


「まずい……早くここから上の階層にいかなきゃ……」


 ナザンはオールラウンダーの魔術師だ。攻撃も防御も援護も何でもできる。故に、一人でも戦うことはできる。

 だが、ここは場所が悪い。五十階層は未だ知らないことが多く、恐らく魔獣の強さも今までとは違うだろう。

 ならば、魔獣と出会う前に、早くここから去らなければ。


「よし……咄嗟に防御魔術を発動したおかげで、身体へのダメージはそこまでない……問題なのは、ここからどうやって上に戻るかだが、そこは何とかして、皆と合流しないと……」


 と、そこで思い出す。

 自分が、最早後戻りできないほど、決定的なミスを犯してしまったことを。


「………………はは。皆と合流? どの面下げてだよ……」


 あいつを追い出した―――それが意味するところが、理解できない彼らではないだろう。あの一言で、もうナザンは彼らから信頼を完全に失ったと言ってもいいだろう。

 いや、それだけならまだいい。彼らが地上に戻って、ナザンがやったことを報告すれば、もう彼は冒険者としての生命を失うことになる。

 そうなれば、もうあの人に認められることなど、一生ない。


「くそっ……何のために、ここまでやってきたんだ。あの人に認められるために、必死でやってきたっていうのに……それもこれも、全部、あいつのせいだ……!!」


 言いながら、地面を叩くナザン。

 シドロがいなくなってからというもの、ナザンは下り調子になってしまった。パーティーの弱体化、S級昇格の白紙、そしてその焦りからきた強力な魔獣討伐……今考えれば、自分でもかなり無茶なことをしているというのは理解できた。

 それもこれも、全てはシドロのせいだと思いながら。


「あいつさえ、いなければ……あいつさえ、最初からいなければ、こんなことにはならなかったのに……!!」


 シドロが、自分たちのパーティーにこなければ、こんなことにはなっていなかった。別のパーティーにいれば、殺そうとだなんて思いもしなかっただろう。

 あまりにも近くにいたから。

 あまりにも傍にいたから。

 ナザンは殺意が抑えられず、殺してしまったのだ。

 と、その時、ふと彼女はあることに気づく。


「……いや、そうだ。そうだよ。まだ終わってない……方法なら、あるじゃないか」


 虚ろな目で、両手を見ながら、そんな言葉を呟く。

 今現在、ナザンがしでかしてしまったことを知っているのは、パーティーメンバーのみ。

 だったら話は簡単。

 彼らを口封じすればいい。

 そんな、愚かしくも、恐ろしい結論を導き出したのだ。


「僕一人なら無理だけど、幸い、『彼女』に手伝ってもらえれば、地上に戻るまでに残りの二人を消すことができる……S級昇格の話は完全になくなるけど、でも、冒険者を続けるためなら、仕方ない。仕方ない、よね……」


 まるで、自分に言い聞かせるかのようにそんな言葉を口にするナザン。

 そして、それを拒否するかのように、身体が小刻み震えていた。


「……何だよ。何で、今更震えてるんだよっ。もう既に一人殺してるんだから……あと二人、殺すのだって、変わりないじゃないか……!! なのに、なんで……!!」


 シドロの時は、怒りに身を任せてやった。

 だが、今回は違う。別にナザンは二人に殺意をもってるわけでもないし、恨みがあるわけではない。ただ、自分が冒険者を続けるため。それだけのために殺そうとしている。

 それがあまりにも醜くて。

 それがあまりにも愚かしくて。

 けれども、それでも実行しようとしている自分が、恐ろしくなってしまった。

 そんなときである。


『ゴォォォォオオオオオオッ!!』

「っ、こいつはっ!?」


 雄たけびと共に、ナザンの前に現れたのは、巨大なオーガ。

 体長は五メートルを優に越し、両手には巨大な棍棒を持っている。頭には王冠のようなものを被っており、それによって、目の前の魔獣が何なのか、ナザンは理解した。


「キングオーガッ!?」


 オーガの中でも最高種と呼ばれるキングオーガ。通常のオーガとは比べ物にならない程の腕力を持っており、実力のある冒険者でもかなり手こずる魔獣だ。

 そして、そんな魔獣が、ナザンの前の前にいる。


(まずい、完全に相手の間合いに入ってる……!!)


 ナザンは、既にキングオーガの攻撃可能距離に入ってしまっていた。巨大な棍棒を一振りすれば、確実に当たってしまう。

 そして、キングオーガは既に棍棒を振りかざしていた。


「やば―――」


 今から魔術を発動しても、もう遅い。

 そうして、キングオーガの棍棒は、無慈悲にもナザンの体を木っ端微塵に……。





「どりゃあああああああああああっ!!」





 不意に。

 暑苦しい声と共に、強烈な一撃が、キングオーガに叩き込まれ、そのまま吹っ飛ばしてしまった。


「―――――――え?」


 信じられないと言わんばかりのナザン。

 当然だ。キングオーガは五メートル以上の巨躯だ。それをたった一撃で、まるでボールでも打つかのように吹き飛ばしてしまうなど、常軌を逸しているとしか思えない光景だった。

 だがしかし、違う。違うのだ。

 ナザンが本当に驚ているのは、そこではなかった。

 彼が、驚いていること、それは、キングオーガを吹き飛ばした少年の方。





「ふぅ。何とか間に合ったぜ。おい、大丈夫か、アンタ……って」




 

 聞こえてくるのは、覚えのある声。

 そこに見えるのは、覚えのある格好。

 目の前にいるのは、決して忘れることなどできない顔。

 知っている。覚えている。忘れることなどできるわけがない。

 何故ならそこにいたのは、ナザンはこの世の何よりも恨み、憎み、そして殺したはずのものなのだから。

 そう、そこにいたのは。




「お前――――――ナザン、か?」




 この世から消し去ったはずの少年―――シドロが、怪訝そうな顔で、こちらを見ていたのだった。

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