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三十七話 人間、自分の実力以上のことをするとロクな目に合わない

「―――よっと」


 無事に鏡を通ってきたシドロ達は、別の洞窟内へとやってきていた。

 そこは未だダンジョン内ではあるが、しかし確かに先ほどまでの最下層とは雰囲気が違っていた。


「ここが、五十階層。S級クラスしか入ることが許されない場所、か……なんつーか、今更ながらギルドの規律破りまくってんのな、俺」

「ギルドの規律? そんなものがあるのですか?」

「ああ。基本、ここのダンジョンは、S級以上でないと、五十階層から先には進んじゃいけないことになってるからな。他にも階級ごとに行ける階層が変わってくる」


 冒険者はダンジョン内ならどこにでもいける、というわけではない。自分の階級にあった階層にしか、いけないというルールが存在する。

 階級と階層を分けたのが、以下のようなものである。


 E級 1~9階層

 D級 10~19階層

 C級 20~29階層

 B級 30~39階層

 A級 40~49階層


 これらとは別に、五十階層より先がS級の階層と言われている。


「今、このダンジョンは五十五階層まで攻略されてるって話だから、その先は知らねぇが……っつか、よく考えたら、俺ら、誰も行ったことのない場所にさっきまでいたんだよなぁ」

「本当に今更ですね」


 五十階層どころか、最深部まで行っていたのだから、もはや階層とか階級とかの話など蚊帳の外と言っていいだろう。

 などと思っていると、ムイが何故か難しい顔をしながら、唸っていた。


『ん~……でもシドちん。気になってたんだけど、その区分けってかなり大雑把じゃね? だって、たとえ三十一階層と三十九階層って、多分出てくる魔獣の強さって結構違うよね?』

「ああ。ダンジョンは、階層が一つ変わるだけで、魔獣の強さも変わってくる。今の例をあげると、八階層分も違うからな。強さもかなり変わってくる。とはいえ、基本冒険者は『自由と自己責任』がモットーだからな。やるかどうかは、自分ら次第だ」

「自由と自己責任?」

「ああ。冒険者はどんな人間にでもなることができる。あっ、もちろん流石に指名手配犯とかは例外だぞ? だけど、騎士と違って、どんな身分の奴も、なることはできる。そして、さっき言ったように階級にあった場所なら、どこにでも行くことができる。まぁ、実力に見合った場所じゃなきゃ死ぬ。そんなのは誰もが分かってることだ。だから、普通の冒険者は順番に階層をクリアしていくようにしてる」


 行くことはでき、挑戦するチャンスはあるものの、しかしダンジョンは常に危険な場所。実力に似合った場所ですら、死ぬことがある。ゆえに、通常の冒険者は地道に少しずつ、自分たちがいける階層を一つずつ上げていくのが当たり前となっている。

 そう、普通ならば。


「では、普通ではない冒険者もいる、と?」

「あー……まぁ、いるにはいるぞ。元々の力が凄くて、最初っからその階級の最高階層に行って、攻略できた、とか。でも、そんなのはE級とかD級クラスの話だがな。けど、そういう連中って大概調子に乗って、C級、B級でも同じようなことをしやがる。んで、呆気なく返り討ちにあって、死ぬ、とかな」


 新人冒険者でありながら、一ヶ月もしない内にE級最高階層である9階層をクリアした、なんてことは少ないが、しかしあるにはある。

 だが、そういう者たちは必ず天狗になる傾向があった。自分たちは特別だ、強いんだ、という自信がついてしまい、実力を見定めることができず、上へ上へと突き進み、そして魔獣に殺される。そういう話もまた、あるにはある。


「そういうの、ギルドは取り締まらないんですか?」

「一応注意勧告はしてるぜ? でも、何度も言うようだが、冒険者は『自由と自己責任』がモットーだからな。そこに関して口を挟めば、上に行くチャンスを潰してるってとらえられるからな。だから、きっちりとしたルールっていうのはないんだよ」

『いやいや、「自由と自己責任」って、それで全部カタつけちゃの? なんか、ただのギルドの怠慢のような気がするけどなー』

「別に、ギルドが命令してダンジョン攻略してるわけじゃないからな。あくまでギルドは仲介人。それをするかしないかは、決めるのは冒険者自身だ。そもそも、昔は階級での階層分けすらなかったって話だ。その頃よりかはだいぶマシにはなったって聞いたが」


 昔の冒険者は、今よりもさらにルールや規制が少ない時代だったために、やりたい放題なところがあった。実力さえあれば、何でも許される……そういう風潮もあり、周りの人間からは横暴なイメージを持たれ、今でもそれは払拭されていない。

 そして、実力がないものはあっさりと死んでいく。

 そういう時代だったのだとか。


「とはいえ、だ。それでもまだまだ規制やら取り締まりに関してのルールが甘すぎるのは確かだ。その点については、パーシルも頭を悩ませてるよ。何度かもっと安全で安心なルールや規制を、ギルド本部に提案はしてるらしいが……厄介なのは昔ながらのやり方を変えるのが面倒だと思ってる上の連中が毎回邪魔してるらしくてな。そのせいで、何も変わらないままってわけだ」

『うっわ。何それ』

「どこの時代にも、そういう連中はいるものです」


 変わるのが面倒、だから現状維持、という考え方はギルドだけではない。恐らく、どこにでもある考え方だ。無論、何かを変えるというのは、大きなリスク、そして労力が必要。それが大変だというのは確かであるが、しかしそれで人死にが減るとなれば、やるべきだとシドロは思う。

 が、今はそんな話を議論している場合ではない。


「話が脱線したが、そんなこんなで、時折、実力に似合わない階層に行って、死んじまうって奴らはいるってことだ。あと、さっき言った調子に乗ってる連中意外だと、昇級がかかってるやつらも同様だ」

「昇級? 何故です?」

「昇級には、色々と条件があるんだが……まぁ、一番は魔獣退治の戦績を残すことだ。けど、人間だれしも常日頃から成功し続けることなんてありえねぇ。逆に、昇級がかかってるって思って、焦っちまって戦績を落としちまう奴らもいるわけだ。んで、昇級の話が危うくなったりするんだが……そういう奴らがいくつく先が、一発逆転。今まで倒したことがない魔獣を退治しようとして戦績を上げようとするわけだ。けど……」


 シドロは少し、難しい顔をしながら。

 


「はっきり言って、そういうことをやる連中は、ロクな目に合わないな」



 そう、断言したのであった。

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