表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/87

三十五話 一方その頃⑤ 博打

「―――ナザン。それ、マジで言ってるのか」


 ナザンに話があると言われ、一同はいつもの酒場へとやってきていた。

 そのため、クシャルは毎度の如く、酒を飲んでいたのだが、ナザンの言葉で酔いが一気にひいてしまった。

 他の二人も怪訝そうな顔で、ナザンを見ている。

 そんな中、ナザンは真剣な顔で頷く。


「僕は本気だ。このままいけば、僕たちのS級昇格の話は無くなってしまう。だから、その前に実績を残す必要があるんだ。だから、僕はこの魔獣討伐をしようと思う」


 そうして、取り出したのはギルドの依頼書。

 その内容は、ある一体の魔獣退治。

 たった一体。いつも、強力な魔獣を数体倒すのが基本の彼らにとって、何も問題はない。

 だが、今回ばかりは話が違ってくる。


「ヒュドラ退治って……お前なぁ」

「ナザン。それはちょっと無謀すぎない? 今の私達で、ヒュドラ退治は荷が重すぎると思う」


 ヒュドラ。それは九つの首を持つと言われる巨大な蛇の魔獣。

 狂暴な性格であり、何人もの冒険者を死に追いやったとされている。その特徴は、口から吐かれる猛毒と強靭な再生能力をもつ体。特に、再生能力については凄まじく、普通に攻撃しているだけではまず倒せない。


「確かに。以前の僕達もヒュドラを退治したことはない。だが、だからこそ、これはチャンスだと僕は思う。今までに倒したことのない魔獣を倒せば、僕たちの実力を証明できる。そうすれば、S級昇格の話もきっと元に戻るだろう」


 自分たちの戦績が落ちていることは事実。ならば、その評価を上げるには、今まで倒したことのない魔獣を倒すしかない。

 それが、ナザンが導き出した答えだった。


「で、でも、それってかなり危険なこと、ですよね……?」

「イリナ。今まで危険なじゃなかった魔獣退治なんてあったかい? どんな魔獣退治にも危険はつきものだ」

「そういうことじゃねぇだろ。相手はあのヒュドラだぞ? そう簡単に勝てる相手じゃないだろ。ましてや、俺らは以前のようには動けない」

「じゃあ、クシャル。君はこのままS級昇格を見送ってもいいと言っているのかい?」


 その言葉に、クシャルは黙った。

 クシャルはこの中で一番長く、冒険者をしている。だからこそ、他のメンバーよりもS級に行くことの難しさをよく知っているのだ。


「君らも知っているように、S級昇格はそんなに簡単なことじゃない。S級に認められるのは年に数名のみ。年によってはいない時だってある。今回はダメだったが、次頑張ればいい、なんて甘い世界じゃないんだ。一度取り逃がせば、一生S級にはなれない、なんてことは珍しくもない」


 パーシルはいった。君らなら、いつかS級になれる、と……だが、次にS級に昇格できるチャンスがくるのは、いつかは分からない。五年後? 十年後? 下手をすれば、もっと先になるかもしれない。


「S級昇格のチャンスが目の前にあるというのに、それを不意にするなんてこと、僕にはできない。少なくとも、可能性があるのなら、それに賭けてみるべきだ」


 S級冒険者。それは、冒険者の中でも本当のトップクラスの者たちであり、その称号があるだけで、人生が変わるとさえ言われている。

 実際、S級になった冒険者は数々の伝説を残しており、名前が知られている。

 だからこそ、S級というのは、特別であり、皆がそこを目指しているのだ。

 それこそ、たとえ危険があるにしても、それでも手に入れたいほどに。


「……フローラ、イリナ。お前らはどう思う?」

「わ、私は危険なのは怖いけど……で、でも、S級になれるんだったら、頑張ってみようかな……」

「正直、無茶ではあると思うけど……ナザンの言う通り、S級になれるチャンスをみすみす逃したくはない。やれることがあるのなら、まずはやってみるべきだと思うわ」

「……はぁ。まぁ、そうだわな。リスクを負えなきゃ上にはいけねぇ。それがこの世界だ」


 そういうと、クシャルは手元にあった酒を一気に飲み干した。

 そして、よし、と言いながら、ナザンの方へと視線を向ける。


「分かった。んじゃ、一つヒュドラ退治としゃれこむか」

「ああ。そうこなくちゃ」


 一同の了解を得たことで、ナザン達はヒュドラ退治へと赴くことになった。


(そうだ。確かにリスクは大きいが、その分、リターンも大きい。ヒュドラを退治できたA級冒険者は少ない。そんな中で、僕たちがヒュドラを倒せば、実力を示すことに繋がる。周りの冒険者も僕たちを再評価するだろう。そうすれば、ギルドの方も、僕たちの力を理解するはずだ)


 ヒュドラが強敵なのは重々承知している。

 だが、それでも、それでも自分たちはやらなければならないのだ。


(これは、博打だ。だが、それがどうした。博打なら、勝てばいいだけの話。僕たちは……僕は、必ず、S級になるんだ……絶対に……!!)


 心の中で、ナザンは強くそう思った。

 だが、彼は勘違いをしている。

 博打なら、勝てばいい……しかし、どれだけ強くとも、どれだけ幸運でも、負ける時は負けてしまう。それが、博打の恐ろしさであるということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 迷宮探索においてギルドで等級規制されているのは侵入階層だけで 特定討伐の魔物は対象外ですか? 彼らのような目に余る失態を重ねた徒党には挑戦資格の一時的剥奪みたいな規則はないのですか?…
[一言] もう、ほっといても勝手に自滅していきそうな気がする シドロが地上に戻ったら前パーティー全滅してたとか普通にありそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ