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三十三話 救いのない話があるのもまた世の常

「そも、魔剣の発祥は、大昔、私が上にいた頃よりはるか昔。一人の鍛冶師が、魔女を材料にして作られたと言われてします。その魔剣は強力で、一つの国を一晩で壊滅させたとか。ですが、その非人道的な作り方に誰もが忌避し、製造方法は闇に葬られ、魔女を用いた魔剣は作られなくなりました。代わりに、魔力がこもった石……魔石を用いた魔剣が作られるようになりました。こちらに関しては、マスターが知っている魔剣たちのことです」


 魔剣は魔石から作られる……それが基本の知識だったシドロからしてみれば、フールの言ったことは、それを覆す代物だった。


「しかし、闇に葬られたはずの『魔女を用いた魔剣』の製造方法を、どうやってか、一人の鍛冶師が再び編み出しました。そして、彼は本物の魔剣を作るために、多くの魔女を捕まえ、そして材料にしようとしたのです。ですが、魔女は強力な存在。下手に戦えば、捕まえるどこの話ではない。実際、捕まえようとして、多くの人間が死んだと聞きました」


 魔女が禁忌と言われる所以。それは、強力かつ凶悪な力で、多くの人々を苦しめ、死に致せてきたから、というもの。

 とはいえ、だ。魔女が誕生する秘密を知れば、彼女たちが、人々を憎悪する理由も、分からなくはないが。


「加えて、魔女狩りが行われたせいで、魔女の数はかなり減ったと言われてました。マスターは、魔女狩りのことはご存じで?」

「ああ……昔、教会が各地にいる魔女を根こそぎ殺しまわったやつだろう? 加えて、ギルドの方でも魔女にかなりの高額な賞金が出たとかで。それで、魔女は全滅したって聞いたぜ」


 聞いた、とは言っても、それはもう御伽噺のレベルの話ではあるが。

 しかし、どうやらシドロの言葉は間違っていなかったようで、フールは頷き、肯定した。


「その通り。正確には全滅ではなく、絶滅一歩手前でしたが、まぁ数が激減したことには変わりありません。そんな中で、魔女を捕えるのは、ほぼ不可能だと考えた鍛冶師は、作戦を変更しました。つまり、自分に都合がいい『無能者』を魔女にして、材料にすればいい、と」

「それが……アンタだった、と」

「正確には私一人ではありませんけど。あの時、集められたのは、二十人。全員が何かしらの事情で連れてこられた者たちでした。そして、皆、特殊な訓練と実験を受けさせられ、私を含めた五本の魔剣が誕生したのです」


 それがフールが魔剣になった経緯。

 だがしかし、ここでふと、一つの疑念が出てくる。


「……? ちょっと待ってくれ。五本の魔剣が誕生したってことは、五人が魔女になったってことだよな……? んじゃ、他の十五人は……」

「死にました」


 端的に。

 フールは、何の躊躇もなく、その事実を口にした。


「まず、五人が魔女になった、とマスターは仰いましたが、それは違います。正確には、十三人が魔女になりました。そこに至るまでに、七人がついてこれず、廃棄されたんです」

「廃棄って……」

「文字通りの意味ですよ。魔女は魔女でも、鍛冶師が求めたのは、最高の魔剣の素材になれる魔女。そのための訓練と実験でした。ゆえに、ついてこれない者は、私達の目の前で『処分』されました。お前達も、こうなりたくなければ必ず素材に似合う魔女になれるようにしろ、と」


 ただの魔女ではなく、最高の魔剣の素材となり得る魔女……それを目指すように、恐怖を徹底的に教え込む。

 明日は我が身。自分たちもああなるかもしれない……そんな状況を作り出し、必死にさせる。

 何とも悪辣なやり口だろうか。


「そして、魔女になった私達は、そのまま魔剣の『材料』にされました」

「材料って……さっきから言ってるが、そりゃ一体どういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ。燃え盛る炎の中に、体をぶち込まれ、溶かされ、剣を作る鉄と混ぜられ、そして剣として鋳造された。それも、死なないように細工を施されながら。けれど、身体は死ななくとも、精神までは違う。あまりの地獄に、さらに八人が、精神崩壊を起こし、魔剣には至れませんでした。そういう者たちは、『価値無し』と判断され、その場で破壊されました」


 さらなる下劣なやり口に、シドロは思わず握りこぶしを作り、震わせていた。

 そして、思う。

 人は、そこまで堕ちることができるのか、と。


「残った五人……正確には、私以外の四人は、それぞれ強力な魔剣となりえました。かつて作られた最初の魔剣のように、それぞれが国を相手取れる程に」


 強い武器を作るには、それなりの材料がいるというのはよくある話だ。

 だが、それでも、それでも、だ。

 これはあまりにも常軌を逸していると言わざるを得ない。


「そこに至る経緯までは、本当に地獄でした。人間扱いされないのは当然で、毎日「お前達は道具だ」ということを認識させられました。けれど、更なる絶望が、私達を待っていました」

「……どういうことだよ」


 今までの話ですら、シドロにとってはもう絶望そのものだ。

 これ以上、どんな絶望があるというのか。

 そんなことを考えているシドロに対し、フールは言う。


「奴らが求めたのは、私達……『本物の魔剣』ではなかった。私達は―――ただの、踏み台として、作られたんです」


 その言葉を口にした彼女は、全てに呆れたような顔をしていたのだった。

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