三十一話 隠された真実っていうものは、大抵ロクなものじゃない
『転移の間』の通路から出てきたシドロ達は、カウロンに事の説明をした。
「そうか……よくやってくれたな」
カウロンは報告を聞くと、深く息を吐いた。まるで、長年の問題がようやく片付いたような、そんな表情である。
「とりあえず、この卵は俺があずかろう」
『まさか、カーちん。それを使って、巨大な目玉焼きを作るつもりなんじゃ……』
「そんなわけあるか」
『ふふ。だよね、冗談だってばー……それで、カーちん。巨大卵焼きはいつ作るの?』
「お前は本当に人の話を聞いていないな。全く……」
相変わらずのムイのノリに、カウロンは溜息を吐く。
そんな中、シドロはカウロンが手にした卵を指し、問いを投げかけた。
「あのよ……それ、どうするつもりなんだ?」
「さてな。とりあえずは様子見だが……もしも、孵化すれば、その時は俺が責任をもって育てよう」
「育てるって……」
「言いたいことは分かる。確かに、これは危険な代物だ。何せ、あのタラスクの卵なんだからな。だが、ものは使いようだ。孵った幼生体は躾ければ、利用できる」
「利用って……」
「親を死なせておいて、ひどい話だと思うか? だが、ここはそういう場所だ。弱肉強食。弱いものは強いものに殺されていく。あっけなくな。それがダンジョンだ」
熾烈な争いをして勝利したとしても、その後すぐに別の戦いで死んでしまう。そういうのが当然なこの場所で利用できるものは何でも利用する、というのは至極普通な考えなのだろう。
「さて。お前たちのおかげで、『転移の間』は使えるようになった。だが、そのボロボロの状態で地上に戻る、というのも無理があるだろう。とりあえず、今日のところはうちで休養しろ」
そうして、ドラゴン退治が終わったシドロ達は、カウロンの住処へと戻ることにしたのだった。
夕食後。
シドロは、一人外に出て、夜風に当たっていた。
「……明日、ようやく帰ることができる、か……」
『転移の間』を住処としていたドラゴンを倒し、もう自分たちを阻むものはない。カウロンも、明日には『転移の間』にある鏡で帰れるだろうと言ってくれていた。
そう、地上に帰れる。帰れるのだ。
だが……それは即ち、ナザンとの再会も意味している。
「どうしたもんか……」
「―――マスター?」
その時。
不意に後ろからフールが声をかけてきた。
「おう。どうしたよ」
「いえ。外に出て行くマスターが見えましたので。どうかしましたか?」
「いや、別に大したことじゃないんだけどよ……俺、ようやく地上に戻れるんだなぁと思って」
「ふふ。そうですね。マスターが、自分を陥れた者を、○○〇して、×××して、▲▲▲する日がようやく来たというわけですからね」
「おいこら人に聞かせられないような発言するんじゃねぇ。っつか、それは前にもしねぇってっつっただろうが」
相変わらず口にするのも憚られることをよくもまぁ簡単に言えるものだ。
「けれど、落とし前はつけるのでしょう?」
「まぁ……そうだな。それは絶対だ」
などと言うものの、しかしどこか覇気のない答えに、フールは溜息を吐いていた。
「はぁ……マスターは甘いのですね」
「な、何だよ唐突に」
「以前にも話しましたが、マスターがやられたことを考えれば、どんな仕返しをしたとしても、相手は文句を言えない立場にある。それこそ、殺されても、です。ですが、マスター。貴方には殺意が微塵も感じられない。絶対に復讐してやる、絶望の底に叩き落してやる……そういうのが全く見られません。正直に言いましょう。そういう点について、私は貴方を理解しかねています。私と同じ立場であるというのに……」
私と同じ立場。
フールは以前言っていた。自分は、邪魔と思われ、ここに捨てられたのだ、と。確かに、彼女の言う通り、シドロとフールは境遇的には似た者同士、と言えるかもしれない。
「マスター。以前貴方は言いましたね。どうしても聞きたいときは、話してもいいって信頼されるまで、自分が頑張る、と。私は、貴方のこれまでの行動を見て、未だ理解できないところはあります。しかし、信頼に値する人物だと思っています。だからこそ、教えましょう。『本物の魔剣』の意味を……ですが、その前に一つ問います。マスターは私のことを、人間の姿になれる魔剣だと思っていますね?」
「え? ああ、そうだけど…………おい、まさか…………」
その問いから考えられる答えはたった一つ。
信じられない、と言わんばかりのシドロに対し、フールは。
「お察しの通り。私は人間の姿になれる魔剣ではありません。魔剣の姿になれる人間なんです……そして、魔剣とは元々、魔力を持った剣、という意味ではありません。特定の女性――――魔女を素材として作られた剣なのです」
そんな、事実を、いつものように、無表情で淡々とした口調で言い放ったのであった。